テラーノベル
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「たった1日だけ、お前たちを地球に帰してやる」テレビ局での特番収録を大成功で終え、高級ホテルのスイートルームに戻った俺は、スマホの『異世界観測アプリ』に向かってそう告げた。
画面の向こうで、泥と空腹に塗れていた32人が一瞬で静まり返る。
「……え? こ、近衛……いま、なんて言った……?」
神条が耳を疑うように、血走った目でスマホの画面を凝視する。
「聞き取れなかったか? 1日——つまり明日の夜、【深夜0時】までの24時間限定で、お前たち全員を元の地球に帰還させてやる」
「マジで……!? 帰れるのか!? 地球に!! 日本に!!」
「嘘じゃないわよね!? 司くん、本当よね!?」
姫宮が涙と鼻水でグシャグシャになった顔を綻ばせ、黒岩担任や他のクラスメイトたちも「助かった……! 生きて帰れるんだ……!」と狂喜乱舞して抱き合った。
だが、俺の死んだ魚のような瞳には、冷酷な笑みが浮かんでいた。
「ただし——ルールがある」
俺は指をひとつ鳴らした。
「条件は3つだ。
1つ、警察や身内に『異世界に飛ばされていた』と話しても構わない。信じてもらえるかは知らんがな。
2つ、お前たちが地球で何をしようと自由だ。贅沢なメシを食おうが、温かい風呂に入ろうがな。
そして3つ——【明日の深夜0時になった瞬間、例外なく全員が再びこの異世界へ強制再転移される】」
「……は?」
歓喜に沸いていた神条たちの顔が、一瞬で凍りついた。
「制限時間付きの『一時帰宅』だ。束の間の平和、家族の温もり、温かい食事……文明のありがたみを心ゆくまで噛み締めるといい。だが深夜0時を迎えたその瞬間に、お前たちは再びこの地獄の異世界へと戻される」
「そ、そんな……! だったら最初から帰さないでくれよ! 一瞬だけ希望を見せて、また地獄に戻すなんて……悪魔かよお前!!」
鬼塚が絶望に顔を歪めて叫ぶ。
「断るなら今すぐ全員の帰還を取りやめるが?」
「やめて! 帰る! 帰ります!! たった1日でもいい、地球の食べ物が食べたい……っ!」
姫宮がなりふり構わずスマホにしがみつく。
俺はフッと口元を歪めた。一度地獄を知った人間に「天国の味」を思い出させ、再び地獄へ突き落とす。これ以上に残酷で、悪趣味な絶望の与え方はない。
【対象:異世界の1年B組30名および教師2名】
【象徴:24時間の期間限定地球帰還、および深夜0時の強制再転移概念の刻印】
「森羅万象——『時限帰還(カウントダウン)』」
◇
【翌日・地球の街中】
画面越しに見る奴らの「1日」は、哀れで、滑稽で、どこまでも愚かだった。
神条や姫宮たちは、実家に駆け込んで泣き叫んだものの、親や警察からは「一ヶ月も失踪して何を妄言を言っているんだ」と精神を疑われ、全く相手にされなかった。
仕方なく腹を満たそうとファミレスやコンビニに駆け込み、号泣しながらハンバーグやラーメンを貪り喰っていた。
「うまい……うまいよぉ……! 温かいご飯だ……!」
「嫌だ……戻りたくない! 警察に通報しても誰も信じてくれない!! 助けて!!」
刻一刻と迫る時計の針。
夜の23時を過ぎた頃、神条たちは半狂乱になって交番に駆け込み、「助けてくれ! あと10分で俺たちは異世界に連れ去られるんだ!」と警察官にしがみついて叫んでいた。警察官は困惑し、怪しい者を見る目で彼らを取り押さえようとする。
一方で、白石と佐藤の二人は違っていた。
実家で両親に深く頭を下げ、今までの不孝を詫び、家族と静かに最後の温かい夕食を囲んでいた。二人は自分たちが背負った罪と、深夜0時に訪れる現実から逃げ出さず、受け入れていたのだ。
『ふふ、運命のカウントダウンですね、司様』
スイートルームのソファで、俺の膝の上に座ったヘカーティアが、シャンパングラスを傾けながらテレビの上の時計を見上げる。
【23:59:50】
【23:59:55】
交番の中で「嫌だぁぁぁ! 行きたくない! 誰か助けてくれえええっ!」と泣き叫び、柱にしがみつく神条。
家族に「お父さん、お母さん、元気でね」と微笑んで手を振る白石。
そして——【00:00:00】。
パッと、空間から32人の姿が完全に消え去った。
◇
【異世界・暗闇と暴風の荒野】
「いやああああああああっ!! 戻ってきちゃったああああっ!!」
「嫌だ! 嘘だと言ってくれ! 冷たい、汚い、化け物がいるうううっ!」
再び地獄の冷気と毒気に包まれ、地面に叩きつけられた神条たちは、髪を振り乱して狂乱の悲鳴を上げた。
一度味わった「温かい現実」とのギャップが、奴らの精神を容赦なく破壊していく。
スマホの画面越しにその惨状を見下ろしながら、俺は冷めたワインを一口含んだ。
「ようこそ、ホームへ。お前たちの地獄は、まだ始まったばかりだ」
俺の冷たい呟きとともに、深夜のスイートルームに静かな笑い声が響いた。
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コメント
1件
第16話、読み終えました。24時間の「一時帰宅」、残酷すぎるアイデアですね…。地獄の味を知らせてから天国の温もりを思い出させ、再び叩き落とす。この構造がもう、主人公の冷酷さを際立たせていて印象的でした。 特に、白石と佐藤だけが家族と静かに最後の夕食を囲んだ描写、ここで二人の覚悟の差が如実に出ていてグッときました。他のクラスメイトが警察に泣き叫ぶ滑稽さとの対比が、逆に哀れで…。 「ようこそ、ホームへ」の台詞、ゾクッとしました。続きが気になります。