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「魔王ネフテリアなのよ。似合ってるのよ」
「似合うとか言うな! あの魔王と同列は困るから!」
「実力的には問題ないのよ」
「立場的に大問題なのよ!」
以前にシャダルデルクで出会った魔王の話を思い出し、全力で拒否するネフテリア。国を滅ぼした実績のあるイメージの悪い称号を持っても、王女的には嬉しくは無いようだ。
「まおー! まおーっ!」
「違うのよアリエッタちゃんっ。そんな言葉覚えちゃ駄目だからね!」
「……期待に応えないといけないのよ」
「やめて欲しいなー! 物凄く! 全力でっ!」
テンションが高いアリエッタは、そのノリのまま言葉を覚えそうだった。もちろん意味は分かっていない。
パフィはネフテリアを魔王にする事に、完全に乗り気である。
そんな横では、ムームーが真剣な顔で悩んでいた。
「魔王姫? それとも魔王女?」
「そこ変な事で悩まない!」
もう『魔王』が前提で話が進み始めている。危険を感じたネフテリアが原因のレジスタンスに魔法を放とうとしたが、そんな事をしてしまっては完全に魔王にされてしまうと考え、その手を引っ込めた。
今は自分から何を発言しても、変な恐れられ方をしてしまうに違いない……と思い、一旦ムームーをどつき、相手との会話をムームーに任せる事にしたようだ。
「はぁ……ちゃんとしてよね」
「わかりました」
レジスタンス達の相手を任されたムームーは、真剣な顔でレジスタンスに向けて声を張り上げる。
「ここにおわすお方をどなたと心得る! 魔法のリージョンであるファナリアの、エインデル王国の魔王女ネフテリア様なるぞ!」
「ちょっとコラ待て! 何言っちゃってくれてんのおっ!?」
思ってたのとかなり違う交渉方法に、大慌てで叫ぶ魔王女。
「全員控えるがよい!」
『ははーっ!』
「いやああなにこれえええ!!」
そういうノベルがあるのか、それとも文化があるのか。その場にいたサイロバクラム人の殆どが、土下座してしまった。
ネフテリアの背後では、パフィに抱っこされたままのアリエッタが周囲の雰囲気を感じ取り、なんとなくペコリと頭を下げていた。
(なんかどこかのご老公みたいな事になってるけど、どゆこと?)
「何やってるのよ? アリエッタ」
そんな中、レジスタンス達は意志が強いのか、はたまた抵抗軍として抗っているのか、数名が頭を下げた程度で、なんとか空中に留まっていた。
「くっ、これが魔女王の威光……」
「絶対違うから」
汗を拭いながら深刻な顔で呟くも、本人からは被せ気味でツッコミが入る。
「いや魔女王って何よ!」
さらに呼び方が増えている事に気付いた。
その事に少し焦ったムームーが、周囲に向けて声をかける。
「集合! しゅーごーう! 各代表1名ずつ来てくださーい!」
その呼びかけに、ハーガリアンとラクス、ツインテール派から別のツインテール青年、レジスタンスからリーダーらしき男性、そして全く関係の無い通りすがりの一般人女性が駆けつけてきた。
「いや誰……」
茫然とするネフテリアがツッコむも、完全にスルーされ、そのまま話し合いが始まった。
「議題はネフテリア様の呼び名です。現在『魔王』『魔王女』『魔王姫』『魔女王』の4つがあります。この中から選びたいと思いますが、いかがでしょうか」
「全部魔王系じゃん! ってかムームーどうしたの!」
再度ツッコミは無視され、集会は進行する。
何か邪魔をしようとするネフテリアだが、突然後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。その手の主はパフィ。
「まぁまぁ、ここは様子を見るのよ」
「イラッとくる顔で何言ってるの!?」
その顔はニヤニヤが止まらない。心の底から面白がっているようだ。
「まおー?」(って何だろう?)
「違うのアリエッタちゃん! それは違うのよ!」
そんなやりとりをしていると、ムームー達が話を終えた。
ムームーが各代表者達を従え、嬉しそうに報告にやってきた。
「ネフテリア様、お喜びください。呼び名が決ま──」
「決めるなもういい全員吹き飛べ【土流衝】!」
『おぎゃああああ!!』
ムームーの言葉を早口と魔法で遮り、話し合っていたメンバーの足元から地面を飛ばした。
本来この魔法は、土砂を上に向かって爆発的に吹き上げるものなのだが、ここは物質が四角になるサイロバクラムなので、大小さまざまな立方体の土石が上に人を乗せたまま舞い上がり、ある程度バラバラになりながら急上昇したのである。
『おおおおおおっ!』
パチパチパチパチ
巻き込まれなかった人々やアリエッタは、それを見て大喜び。
巻き込まれた筈のラクスもちょっと嬉しそうだったりする。
「もうこのリージョンなんなのっ。なんか何やっても喜ばれるんだけど」
「てりあ、まおー?」
「そーゆー言葉覚えちゃダメっ! めっ、だからね、めっ」
「めっ?」(よく分からないけど、子供が言っちゃいけない言葉なのか?)
ひたすら焦り続けるネフテリアには、味方がいない。一緒にレジスタンスを鎮圧する流れになっていたムームーには、既に裏切られている。
「そうだ、ムームーのせいだわ。一回シバかなきゃ」
目標が定まった。お仕置きする為に魔力を込めながら相手を探す……が、周囲にいない。
ここで、上に舞い上げた者達が誰一人として落ちてきていない事に気が付いた。
「ん? あ……」
全員上空にいた。ある者はバーニアで浮かび、ある者は浮かぶアーマメントに乗り、そしてムームーは空中にぶら下がっていた。
「このリージョンの人は、基本的に飛ぶのよ?」
「そうみたいねー……」
(おおっ、みんなカッコイイ! なるほどウィングパーツから噴射するバーニアかぁ)
アリエッタは自分の背中についている翼型のパーツを見た。そして何かを考え始める。
「まぁいいか。ムームー! 人を魔王呼ばわりして、覚悟は出来てるんでしょーね?」
「そんなっ! 魔法で王女様なテリア様にはピッタリじゃないですか。 何が不満なんです?」
「不満も何も、ファナリアじゃ魔王は悪口よ! 悪の権化なのよ!」
「そうなんですか?」
「そこからかい……」
ムームーは1200年前の魔王ギアンの事は知らない。ただ『王』という呼び名が、ネフテリアによく似合うと思って、真剣に考えていたのだ。
つまり、この場で笑っているのはパフィだけなのである。
「魔王女様、ここはひとつ、全員に演説なのよ」
「ちょっと黙っててくんない!?」
いつの間にか魔王の側近のような立ち位置で意見するパフィ。アリエッタを抱っこしていると直接攻撃されない事を良い事に、好き放題揶揄っている。
すると、パフィのせいで魔王女の何かが切れた。
「よーし分かったわ! まずはムームーをぶっとばーす! その後ついでにレジスタンスもぶっとばーす! アンタら全員覚悟しなさーいっ!」
「ええっ!? なんで!?」
ネフテリアを魔王だと信じたムームーの驚きの声が、一番大きかった。それでさらにヒートアップ。
「よおぉぉぉっし! そっちがそんな態度なら遠慮はいらないわね! ボコってからクォンの前で辱めてやるわ!」
(目がマジだ……)
ここでようやく、理由までは完全に理解していなくとも、とんでもなく危ない状況だという事を理解するムームー。ここから説得しようとしても逆効果になる気しかしない。
「レジスタンスの皆さん! あの方を止めないと、命は無いと思ってください!」
そんなわけで、レジスタンスを巻き込む事にした。元々対立していたので、危ない目に合わせても問題無いと判断したのだ。
しかし、ムームーが声をかけた中には、レジスタンスではない人物も混ざっていた。
「え、私も?」
「俺もですか!?」
「は? え?」
「なんでオレまで……」
ラクス、ハーガリアン、通りすがりの一般人女性、ツインテール派の男性である。焦ったムームーは容赦無く巻き込んだのだ。
「くっくっくっく、全員お仕置き希望という事ね。いいわ、なんかムシャクシャしてるし、相手になってやろーじゃないの」
魔力を漲らせ不敵な笑みを浮かべるネフテリア。その姿を見て、全員の想いが一致し、口にした。
『まさに魔王女……』
ぶちっ
その音は全員に聞こえていた。そしてそれが、商店街を地獄へと変えるトリガーとなった。
「【閃炎花】ォォォォッ!」
無数の熱線が辺りに撒き散らされ、至る所で爆発が巻き起こる。
見た目だけが派手な低火力の爆発。初めての人は当然驚き動きを止める。その証拠に、レジスタンス達は回避し散開。巻き込まれた一般人達は慌てふためいて逃げていく。この場から戦う意志の無い者は大幅に減少した。
だが、ネフテリアの本当の狙いは別にあった。
「いやーっおわーっ!」
ムームーが火の粉を撒き散らしながら落ちた。
「よくも好き放題やってくれたわね、ムームー。でもこうすれば糸は使えないでしょ?」
そう、ムームーが操るのは糸である。いくらぶら下がれるほど頑丈にしようとも、鉄の硬度で操ろうとも、糸は糸。アイゼレイル人が生み出すだけあって、燃えやすい動物性繊維なのである。
「う……」
ネフテリアと間近で対峙し、冷や汗をかくムームー。火を使われては、やれる事が極端に減ってしまうのだ。
と、その時、上空からネフテリアに攻撃する者が現れた。
「食らえ魔王女! この世界は渡さねぇ!」
心底嫌な呼び名と、身に覚えのない野望で責められ、ネフテリアは一瞬動きを止めた。
そしてエーテルの弾が炸裂した。
「うわぁっ!」
光と爆風が起こり、ムームーが飛ばされる。
しかしネフテリアは、弾の飛んで来た方に掌を突き出し、何事も無かったかのように立っていた。
「ホントに効かねぇのかよ」
そうレジスタンスが呟いた時、ネフテリアの冷たい視線がそちらに向いた。
「【水の弾】」
サイロバクラムのアーマメントでは、魔属性の魔法以外には対応出来ない。ネフテリアはそれを分かっているので、防げない他の属性魔法で蹂躙する気なのだ。
水の塊が、効果の無いバリアを展開するレジスタンスに向かい、そして……着弾直前に何者かが割り込んだ。