tn side
ゾム、という暗殺者を無事に基地に連れ帰ることに成功した。
日頃から縛られたり殴られたりしていたのか、鬱血した痕や、所々に付けられた絆創膏が痛々しい。
「…あ、トンち。もしかしてその子が”脅威”?」
廊下ですれ違った大先生が問いかける。
「…せや」
自分でも分かるくらい強ばった反応をしてしまった。なにかと察したのか鬱は「…そっか。ペ神に頼まんとな」と言って去ってしまった。
鬱は作戦を組んだ一人でもあるので、脅威もといゾムの琴を酷く心配していたが、今日は何か颯爽としている。疑問を残しつつ、トントンは医務室へと急いだ。
「…ペ神おる?」
物の数分で着いた医務室の扉を足で開ける。何せゾムを抱えて手が塞がっているから。
「ん〜、あぁ、その子の手当ね。おけおけ」
迅速かつ丁寧にゾムを手当てしていくペ神をぼんやりと眺める。
「……身体、酷い状態だね」
「…………せ、やな」
大層いたぶられていたのに、肌は白くて美しく、その瞳は今は閉じられているが、エメラルドグリーンの輝きに酷く魅了される。
トントンは眠ったままのゾムの頭に手を伸ばすと、ふわふわと髪を撫でる。
泣いた痕を指で撫でると、少しだけ笑ったゾムをみてドクンとトントンの心臓が鳴った。
__彼が、好きだ。
そう理解するまでに時間はかからなかった。
胸の鼓動を抑えながら自分に問いかける。
相手は敵国の暗殺者、しかも男だぞ?
今は恋愛は自由だが、ずっとノンケだと思っていたため、トントンの衝撃は大きかった。
「__ト、__トン?_……おーい?大丈夫か〜?」
しばらくぼうっとしていたらしい。
ペ神に話しかけられて意識が浮上する。
「…あ、あぁ、ごめん。ちょ、聞いてなかったわ」
「…疲れてるんか?まぁいいか。ゾムはあと少ししたら目が覚めるだろうから、牽制役としても、そばに居といてくれ。錯乱してるだろうから、襲いかかってくるかもよ?」
「わかったわ。俺が居とくから、誰も寄らせんといてな」
「…ん?まぁ、次期にグルッペン達が来ると思うけど、そこんとこよろしくな」
「…ん、おけ」
上の空のトントンを置いて、ペ神は別室へと行った。
しばらくして、ゾムのまつ毛が震えた。
目が覚めようとしている。
ゆっくりと開かれたまぶたから、美しいエメラルドグリーンの瞳が覗く。
ゆるりとトントンの方に顔を向けると、意識の淡いまま、トントンのマフラーを掴んだ。
「………ん、あ、か、、、すき」
「…目が、覚め、た?のか?」
寝ぼけたように呟くため、確認が取れない。仕方がなくトントンはゾムの肩を揺すり、起こす。
「目、覚めたならしっかりと起きてやー」
小声で言うが未だゾムはぼんやりしている。
透き通るような肌と、熱があるのか朱色の頬。
それらが相まって艶かしい雰囲気を醸し出していた。
トントンは、その桜色の唇に口付けをしたい衝動に駆られた。
親指でぷにりと唇に触れたあと、ゆっくりと顔を近づける。
チュッ
軽く啄むようなキスをして、口を離すと、ゾムの意識がしっかりと覚醒していた。しかも顔を赤らめて。
「…っあ!ごめん、思わず…………」
これじゃあ彼処の奴らと同じや、トントンは嘆く。
「…っ、そう言えばここ何処?」
現実を認識したゾムは、己の身を案じる。
「…脅威、いやゾム。この国に来ないか?」
「……え、?」
可愛い顔が、困惑に染る。
きょとんとした姿が愛らしくて、ついまた顎を掴んで頬を触ってしまう。
ゾムは顔を真っ赤にして、しかしトントンの手に頬ずりをする。
そのことにトントンも顔を赤くする。
「…俺は、トントンって言うんや」
「…トン、トン。トントンが俺を助けてくれたん?」
「正確には俺一人だけじゃないけどな。そいつらはこれから来ると思う、で、ってなんで泣いとるんやっ?!」
そう、ゾムが大粒の涙を流していたのだ。
「…うっ、ひっぐ、わからへん、わからんよぉ……う、」
わぁ〜んと泣いたゾムは、トントンのマフラーに顔を埋める。
縋り疲れたその身体が小さくて、可愛くて、守りたくて、様様な気持ちに駆られた。
「…もう、大丈夫やで」
トントンもちょびっと泣きながらなんとか話す。
甘くて、しょっぱい、夜のお話。