私の勤める広告代理店には、とてもカッコいい上に仕事もデキる、まさにクールとも言える理想の上司がいる──。
彼──矢代 拓真は、この会社、Eggs.Co(エッグス・カンパニー)広報部の主任で、その冴え冴えとしてイケてるルックスに加え、仕事ぶりに関しても社内外からの評判が高く、非の打ちどころのないパーフェクトな上司と言われていた。
だが、そんなクールな上司の裏側に、隠された秘密の顔が潜んでいることを、私は知ってしまったのだ──。
「──川嶋さん、川嶋さん?」
……あれ? なんだかすごくいい声で、呼ばれてる気がするけど……。
自分のキーボードを打つカタカタという音にかき消されて、よく聴こえてはいなくて、こんなイケてるボイスに呼ばれてるのなんて、もしかしたら幻聴かもしれなくてとも感じた。
「……ねぇ、美都。呼ばれてるよ?」
そこへ左隣の席から、そう声をかけられて、
「美都って、イケてる上司さんが呼んでるってば!」
私を挟んで右隣の席からも、ひそめた声が飛んできた。
「えっ、あ、はい!」
パソコンのディスプレイに目を凝らして、一心不乱にキーボードを打ち込んでいた私は、授業中に当てられたのを気づかないでいたのを指摘するように両隣の席から耳打ちをされて、たった今気づきましたという体で慌てて顔を上げた。
企画書の作成に夢中になっていて、(本当に呼ばれてたの?)と、思わずキョロキョロと周りを見回す私──
すると、「後ろ、後ろだって!」と、さっきと同じように、右隣に座る橋元愛未に囁かれて、続いて左隣の席の橋元 愛実から、「美都ったら、さっきから声かけられてるのに、気づかなさすぎだってば」と、クスリと笑われた。
橋元 愛未と愛実は、私の同期の双児の姉妹で、割りとしっかり者で何でも言うタイプの姉のアミと、ちょっとおっとり系で天然ぽいところもある妹のエミの二人とは、いつもランチを一緒にする親しい仲だった。
「あっ、二人ともありがとう」
両隣に声をかけ、急いで背後を振り返ると、そこには涼やかな目元にメガネの似合う、いつ見てもクールな上司が立っていた──。
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