TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

リンク上の人気者︰

次の日、リンク場の更衣室前。

凍は冷静な足取りで歩いていたが、その周りには同じ小学校の女子たちが群がっていた。彼女たちは頬を染めながら、キャーキャーと楽しそうに声を上げている。

「凍くん、今日もかっこいい!」 「ねえ、昨日の滑りもすごかったよ!」

凍はその声に一切反応せず、淡々と歩き続ける。その冷静さがさらに彼女たちを惹きつけているようだった。

少し離れたところでその光景を見ていた紬は、目を丸くして呟いた。

「……凍くん、意外とモテるんだな。」

彼女の声は小さかったが、自分でも驚きを隠せなかった。

凍は男子更衣室に入っていき、しばらくして着替えを終えて出てくる。すると、また女子たちの歓声が始まった。

「凍くん、どこの大会に出るの?」 「一緒に写真撮ってもいい?」

凍は一瞬だけ立ち止まり、冷たい視線を彼女たちに向けた。

「邪魔なんだけど。」

その一言に、女子たちは一瞬静まり返る。しかし、凍はさらに毒舌を続けた。

「お前らもスケートやるなら、さっさと着替えろよ。」

その冷徹な言葉に、女子たちは顔を赤くしながらも慌てて更衣室に向かう。

紬はその様子を見ながら、思わず苦笑した。

「……凍くんって、ほんとに冷たいんだな。」

女子たちの歓声が響く中、一人の女の子が勇気を振り絞ったように声を上げた。

「私には凍くんしかいません!」

その言葉に周囲がざわつく。紬も驚いてその場を見つめていた。

凍は一瞬だけその子に視線を向ける。冷静な目のまま、淡々とした口調で言った。

「俺、そういうの分かんないから。」

女子たちが息を呑む中、凍はさらに続ける。

「あと、俺にはこいつしかいないし。」

そう言いながら、紬の肩を軽く引き寄せた。

紬は突然の距離の近さに心臓が跳ねた。顔が赤くなり、何も言えなくなる。

凍はその反応を気にする様子もなく、慣れたように紬の袖を掴むと、リンクへ向かって歩き出した。

「行くぞ。」

紬はその背中を追いながら、まだ赤い顔を隠すように俯いた。


氷上の師︰

紬はまだ赤い顔を隠しながら、凍に引かれるままリンクへと進んだ。彼の手はすでに紬の袖から離れていたが、その余韻はまだ残っているような気がした。

氷の上に乗ると、凍は何も言わずに滑り出す。紬はその背中を追いながら、改めて冷静になろうとする。

「……今日はどう滑る?」

凍が静かに問いかける。紬は少し考えてから答えた。

「昨日よりももっと軽く。でも、強弱のつけ方も意識してみる。」

凍は一度紬を見て、ふっと鼻で笑った。「なら、やってみろよ。」

紬は氷を蹴り、滑り出す。彼女の動きは相変わらず柔らかいが、今日は意識的に緩急をつけようとしていた。

凍と紬が滑る準備をしていると、リンクの入り口から2人のコーチが姿を現した。

「お、2人ともいるな。」

仁コーチが低い声で言いながら、リンクサイドに立つ。隣には成瀬コーチがいる。

紬は気づいて目を丸くした。「仁コーチ、成瀬コーチ……!」

凍は特に驚いた様子もなく、ただ彼らを一瞥する。

成瀬コーチは穏やかな笑みを浮かべながら言った。「紬ちゃん、最近の練習の様子はどう?」

紬は少し考えてから答える。「軽さを意識してるんですけど……もう少しスピードも出せるようにしたいです。」

仁コーチは腕を組みながら、凍の方に視線を向けた。「お前はどうだ、凍?」

凍は少し考えたあと、冷静に答える。「スピンの速度をさらに上げる。あとはジャンプの安定感。」

仁コーチは軽く頷いた。「いいな。今日はそのあたりを重点的にやってみろ。」

紬と凍はそれぞれ準備をしながら、コーチたちの言葉を受けて滑り出す。

リンクには、2人の氷を刻む音だけが響いていた——。

凍はリンクの中央に立ち、無言で氷を見つめていた。彼の得意技、アクセル——それをさらに鋭くするための練習だった。

紬がリンクの端で彼を見守る中、凍は静かに助走を始める。

氷を蹴る。

まずは2回転アクセル。スムーズな回転と高さは申し分なく、完璧な着氷を決めた。

紬は息をのむ。「……すごく綺麗。」

凍は着氷の感触を確認しながら、少しだけ動きを調整する。そして、もう一度助走。

今度は3回転アクセル。

跳躍の瞬間、異常なほどの高さを持ち、氷を切り裂くように回転する。その空中での姿勢の鋭さと着氷の精度は、圧倒的だった。

女子は思わず見惚れてしまう。

「……凍くんのアクセル、ほんとに異次元。」

凍は軽く息を整え、紬を見た。「お前もアクセル、ちゃんと練習しろよ。」

紬は少し驚きながらも、ふっと笑った。「うん、頑張る!」

紬はリンクの中央に立ち、深く息を吸った。

凍から2回転トゥループの指導を受けたばかりだったが、まだ自分のものにはなっていない。

「……よし、やるぞ。」

氷を蹴り、助走をつける。

踏切の瞬間——紬は力を込めすぎず、できるだけ軽やかに跳び上がる。しかし、回転が少し甘く、着氷が不安定になった。

凍はリンクの端から冷静に見つめていた。「軸がブレてる。」

紬は悔しそうに口を結びながら、もう一度助走をつける。

今度は意識的に軸を安定させ、氷を蹴る。

2回転——空中での姿勢を保ち、ギリギリのバランスで着氷。

「……できた……!」

紬が嬉しそうに顔を上げると、凍は腕を組みながら言った。

「まあ、今のならギリギリ合格だな。」

紬は苦笑しながら、「次はもっと綺麗に跳ぶ!」と意気込んでいた。

こうして、凍と紬のジャンプをを極める練習が始まった。


振付師への相談︰

紬と凍は控え室に呼び出され、コーチたちの前に座った。仁コーチは腕を組みながら静かに話し始める。

「次の大会の演技についてだ。振付師に頼むために、どういう表現でいくか決める。」

紬は少し緊張した様子で頷く。凍は変わらず冷静だった。

成瀬コーチは穏やかに紬に視線を向ける。「紬ちゃん、最近の滑りはとても綺麗だね。柔らかさを大事にしているのがよく伝わってくるよ。その優雅さをさらに深めるように考えてみるのもいいかもしれないね。」

紬は少し考えてから答えた。「柔らかさは大事にしたいです。でも、もう少し強さも出してみたいかも……。」

成瀬コーチは微笑みながら頷く。「それはいいね。紬ちゃんの持ち味を活かしながら、強さを織り交ぜることで、演技の幅が広がりそうだね。」

次に、凍の番だった。

「凍くんはどうする?」

凍は迷いなく答える。「ジャンプとスピンを際立たせる。表現は冷徹に。」

仁コーチは軽く頷く。「いいな。お前はジャンプの高さが異常だし、スピンも速い。その強みを活かしつつ、演技全体の流れを振付師と詰める。」

成瀬コーチは穏やかに付け加える。「凍くんの演技は迫力があるね。でも、強さだけじゃなく、演技の中にもっと細やかなニュアンスを入れると、さらに深みが増しそうだよ。」

凍は黙ったまま考え込み、静かに頷いた。

仁コーチがまとめる。「よし、紬は柔らかさを活かしながら強さも意識する。凍はジャンプとスピンの精度を極める冷徹な表現……これで振付師と話を進める。」

紬と凍はそれぞれの演技について考えながら、控え室をあとにした——。


つづく

氷上の音なき旋律

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

5

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚