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#男子高校生
はるまき
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#オッドアイ
月詠 朱猫
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24話読み終わった…!歌、綾乃ちゃんと正面から向き合って本音ぶつけてたな。特に「全部肯定されるのが友達じゃない」って歌の言葉、すごく刺さった。綾乃ちゃんは絵で“一番”じゃなかったことを認められなくて、現実から逃げてる感じだよね。クリームソーダ混ぜる仕草とか、いつも通りなのに逆に不気味で…この先どうなるんだろう。続きが気になる…!
確かに、歌も綾乃の犯行ではないかと疑っていたのは事実。
しかしそれは、できればそうであって欲しくないという希望を過分に含んでのもの。
彼女が否定したなら信じたかどうかはわからない。でも、そうではないと言ってほしかったからこそ今日ここに呼び出したというのに――。
「あ、綾乃ちゃんが本当にやったの?あの三人を、殺したってこと……?」
綾乃はニヤニヤと笑いながら、クリームソーダをストローで掻き回している。以前彼女が、クリームソーダはバニラアイスとソーダをバラバラに食べるより、混ぜてしまって食べるほうが好きだと語っていたのを思い出す。
あまりにもいつも通りの仕草で、だからこそ不気味だった。殺人事件の犯人として疑われている――その自覚が、彼女にはないというのか?
「あ、あ、綾乃ちゃんがどうやって三人を殺したかわからないけど……っ」
異様な雰囲気を感じつつも、歌は声を振り絞る。
「ひ、人殺しは犯罪なんだよ……!?ぜ、絶対に絶対、やっちゃいけないことなんだよ、たとえ復讐だとしても!綾乃ちゃん、きっと疑われるよ。ううん、もう警察の人、綾乃ちゃんを疑ってるかもしれない……手段はともかく、動機があるのは誰の目から見ても明らかなんだし!」
「だから?」
「自首しよう、綾乃ちゃん。連続殺人で、しかも拷問して殺してる以上すごく罪が重くなっちゃう……死刑になるかもしれない。それでも、自首して反省してるって見せたら減刑してもらえるかもだし……!」
そうだ、と改めて口にしてゾッとした。
現在の刑法について、ただの高校生でしかない歌が知っている知識などごくごく僅かでしかない。それでも、わかっていることはある。二人以上の人間を殺したら、死刑になる可能性が跳ね上がるということは。
しかも、今回はそのやり方があまりにも残忍なものと来ている。女子高校だということを加味しても、極刑は免れられないのではないか。それこそ、精神鑑定されて異常だと判断されるか、もしくは自首して心から反省している素振りでも見せなければ。
「綾乃ちゃんがやったことは許されないことだけど、だからって私……綾乃ちゃんに死んでほしくないよ……!」
それは歌にとって、紛れもない心からの言葉だった。しかしそれと同時に、彼女が“本気で反省して自首”はきっと難しいだろうという諦めもあった。
何故なら綾乃は。
「嫌よ。なんであたしがそんなことしなきゃいけないわけ?」
まったく反省していないから。
悪いことをしたなんて、これっぽっちも思っていないから。
「あたしは何も悪いことなんてしてない。あいつらは生まれついてのゴミ、ゴミ、ゴミ!そんな人間どもに生きる価値なんてないでしょ?天罰が下った、それだけのことじゃないの」
「あれが天罰?本気で言ってるの?」
「本気よ。だってあいつらはあたしの世界を邪魔して、壊して、踏みにじったんだから!」
ギロ、と怒りを孕んだ目で睨みつけられる。覚悟を決めていたはずの歌が、思わず怯んでしまうほど。
「写生会の絵がどうのなんて話じゃない。あのゴミ蓮見はね、正々堂々挑むべき勝負で、汚い手を使って芸術を穢したのよ。まともに戦ったら、あたしが負けるなんてことあるはずかなかった!あたしが絶対に一番で、誰からも認められるはずだった!それをあいつが、あいつが……」
ギリギリ、ギリギリ。綾乃が奥歯を噛みしめる軋んだ音が、正面に座る歌のところまで届くかのよう。
「許せるわけないでしょうが!そんな女を断罪したい、そんな汚い絵を出品させるわけにはいかない。他の誰もやらないからあたしがそれを実行しただけ!それなのにどうしてあたしばっかり非難されて、誰もあいつを責めないの?指さして嗤わないの?あり得ないと思わないわけ、あんたはっ!」
「綾乃ちゃんっ……!」
もう、彼女の中で、楓が体を使って先生達を誑し込んだという事実は確定的なのか。どうあっても覆らないのか。
そこまであの美術の時間に行われた写生会に本気だったのか?――いや、きっとそうではなくて。
「綾乃ちゃんは……間違ってるよ。楓ちゃんがどうこうじゃない。なんで……芸術に、一番とか、誰からも認められるとか、競争とか。それが当たり前なの?」
確かに、コンクールに出す絵の校内選考はあった。そこで優劣がついたのは事実だ。でも。
「私は……私の目から見たら、二人の絵に優劣なんてなかったよ。ううん、二人の絵だけじゃない。一生懸命、魂を込めて描いたみんなの絵に、本当の意味の優劣なんてつけられなかったと思う。ただ、コンクールにクラスで一枚だけ出す絵を選ばなきゃいけなかったからそうしただけ。先生達の好みもきっとあったとは思うけど、それは贔屓で一番を選んだんじゃなくて……。先生達から見て、コンクールに合ってると思ったから選んだだけだと思う」
綾乃の絵は上手かったが、硬派な芸術ではなくイラスト寄りの作品だった。デッサンの甘さや色塗りのスキルなどもあっただろうが、きっと選ばれなかった最大の理由はそこだろう。
下手だったからとか、劣っていたとか、きっとそんなことではないのだ。
「それは、仮に綾乃ちゃんの絵が選ばれていても同じこと。選ばれたからって、綾乃ちゃんがみんなを見下していい理由にはならないし……みんなに褒められたり認められたりするかどうかは別問題だったと思う。私は……楓がちゃんがみんなに祝福されたのは、絵が上手かったからでも選ばれたからでもなく、楓ちゃんがみんなに愛されてたからだって思うの」
「愛されてたから?」
「うん。……私、最近まで楓ちゃんとそんなに話したことなかったんだけど。あの人は前々から有名だったよ。廃部寸前の美術部を、走り回って部員集めして立て直したことや……困ってる人をほっとけない性格だったってこと」
きっと綾乃は覚えていないのだろうが。歌は忘れていない、一つの出来事がある。
進級して間もなくのこと。楓が遅刻した事があったのだ。何でも通学中、道に迷ってしまっていたおばあさんを交番に案内していたらしい。不幸にも彼女がおばあさんを見つけた場所から、近くの交番では距離があった。しかもおばあさんは足を悪くして杖をついており、ベンチに座ったまま動けなくなってしまっていたという。
楓はなんと、そのおばあさんをおぶって交番まで歩いたというのだ。そしてその間、ずっとおばあさんと話をしていたという。
『よくよく考えたら、お巡りさんに来てもらった方が早かったんですけどねえ。あははははは。私も馬鹿だなぁ』
彼女は学校に来たあとでそう言って笑っていたが。誰も、そんな彼女を馬鹿にしたりはしなかった。ウソをついているとも思っていなかった。――ああ、蓮見楓らしいな、とみんなが讃えている様子だったのである。
それだけで。彼女が周りからどれほど信頼を得ていたかわかるというものだ。そう、進級してすぐ。クラス替えから半月程度しか過ぎていなかったにも関わらず。
「誰かに愛されたいなら、まずは自分が全力で……相手を愛さないといけないんだよ」
歌は真っ直ぐ、綾乃の目を見つめて言う。
「綾乃ちゃんは……私は綾乃ちゃんにもいいところたくさんあると思ってる。でもね。綾乃ちゃんは、悪いところもあって直さなきゃいさないと思うよ。……だって綾乃ちゃん、自分を愛してくれて初めて……相手を愛する努力を始めるでしょう?自分を認めない相手は徹底的に敵とみなして攻撃するでしょう?……この世の中には、敵と味方しかいないなんて、そんなはずないのに」
そうだ、今思い返してみれば――綾乃と友達になった頃に、彼女は歌にこんなことを言っていたのではなかったか。
『夢を見るのは、自由でしょ。それに……あんたは、あたしの夢を笑わないでくれたわ。だったらあたしだって……あんたの夢を、認めたい、というか、その……』
『あたしも漫画家になりたい気持ちはあるの。あたし、絵だけは誰にも負けないって自信あるから。けど……あたしはきっと無理。人の言う通りに作品を書くなんてできる自信ないもの。誰にも命令されたくない。仕事になったら、きっとそういうわけにはいかない。うまくいかなくなって、挫折するくらいなら……最初から目指すべきじゃないって思っちゃう。だから……あんたが代わりに漫画家目指すっていうなら。お、応援してあげてもいいけど』
歌が綾乃を認めたから、綾乃も歌を認めると。彼女は確かにそう言ったのだ。
人の心理として、それは間違ったことではない。けれど忘れてはいけないのは、誰もが“愛してくれる保証がある相手だけ愛したい”と心の何処かで思っているということ。
それを、世界中の人が実践したら何が起きるか。
誰もが他人を愛せなくなる。自分を一方的に愛してほしいだけの相手を――一体誰が愛するというのか。
「綾乃ちゃんは、臆病だよ。誰かを愛する勇気と……自分の間違いを認める勇気を持たない限り、望む幸せなんてきっと訪れない。誰かを踏み台にして一番になるんじゃなくて、自分を高めて……人に愛される人間になって初めて栄光は手に入るんだと思う。今の綾乃ちゃんじゃ、写生会の絵で選考に残ってても、きっと私以外の誰も祝福しなかったよ……!」
「だ、誰が臆病よ!何が間違いだってのよ!あたしはっ……」
「自分の実力が劣っているのを認められないから、綾乃ちゃんは証拠もないのに楓ちゃんを悪者にしてる。私だけじゃない、クラスのみんなも先生のみんなもそう思ってる!いい加減気付いてよ、現実から逃げないでよ!」
思わず前のめりになって叫んでいた。じわり、と涙が滲む。クリームソーダのアイスクリームは、歌の方も殆ど溶けてしまっていた。ヤケクソ気味にストローに噛みついて吸い上げる。
大好物のはずなのに、今日はやけに苦い気がしてしまう。
「綾乃ちゃんにイジメをしたのは……それは浮島さんと羽柴さんの罪だった。でも、それだって法律で断罪させるんじゃ、ダメだったの?」
まだひんやりと冷たいカップを握る手に、力がこもる。
「何より……二人がイジメを始めたのは、綾乃ちゃんが先に楓ちゃんに酷いことしたからだよ。綾乃ちゃんが一方的な被害者なんてそんなことないんだよ!何より、何も知らなかった楓ちゃんまであんな残酷な殺し方をして……自分が同じ目に遭ったらって思わないの、ねえ!?」
「ああ、そう!」
ドンッ!と再び綾乃の拳がテーブルを叩いた。怒りに燃え、血走った目が歌を捉える。
「もういいわ。それがあんたの本心ってわけね?やっぱりあんたは裏切り者なんじゃない!あいつらに懐柔されて、あいつらの味方をして!!」
「違う!あたしは、綾乃ちゃんに幸せになってほしくて……っ」
「本当にあたしの味方なら、あたしの言う事に全部頷きなさいよ!あたしの事を正しいって認めなさいよ!それが友達ってもんでしょうが!」
「そんなの本当の友達じゃない!友達じゃないよ!!」
もうダメだというのか。もう、取り戻せないというのか。絶望のまま歌は叫ぶしかない。
「全部肯定されなきゃ、自分じゃなくなるのが怖いんでしょ?唯一得意だった絵で誰かに負けたら、自分の価値がなくなりそうで怖ったように。でも……でも!本当の友達は、友達が間違ってることをしたらちゃんと叱るんだよ。それが友達なんだよ!私は……綾乃ちゃんに都合のいいロボットじゃ、ないよ!!」
何かが千切れる音が聞こえた気がした。
あるいは最初から自分達の間に、友情なんてものはなかったのだろうか。