「アテイション・プリーズ!本機関西空港、午後9時発ANA2038便は、ハワイ、ホノルル空港へ午前8時30分到着の予定で~す」
フライトアテンダントのアナウンスに、くるみの心は高鳴った。機窓から差し込む柔らかな光が、隣で寝ている洋平の横顔を優しく照らしている
先月の結婚式の興奮が今でも蘇る、隣で深い寝息を立ている洋平を見つめながら、くるみは微笑んで心の中で思った
今から二人の新婚旅行♪憧れのハワイ♪ハネムーンのメッカハワイ♪
そして何より私の隣にいるのは・・・・
―洋平君!私の旦那様!―
じわりと涙を溜めて両手を口に持って行く、隣を見ると、洋平が腕と脚を組んでアイマスクをして熟睡している
「空と~♪寝ている洋平君の横顔いただき(はぁと)」
くるみは一人、この旅行の為に買った最新の自撮り棒を刺したゴープロをクローズアップして、洋平の寝顔を様々な角度で撮影した
「これスマホと連結しているから便利~♪後でBGMつけてSNSにあげるんだぁ~♪お母さん達きっと見るわね」
本当にこの1か月、ずっと彼は仮想通貨の新規事業立ち上げに忙しくしていて、おまけに二人の新居には母が、父と夫婦喧嘩をしたから暫く居候させてくれと転がり込んでいる
それでも毎日仕事でボロボロになって帰って来る洋平に対して、本当は息子が欲しかったくるみの母が、手厚く彼の世話を焼くので、洋平は純粋に母に感謝し、いつまでも居ていいと言ってくれた
おかげで彼のお世話や家事は、新妻のくるみの出る幕はなくなり、くるみまでも母のお手製の弁当持参で秘書の仕事を続けた
休日はくるみの父にゴルフに誘われまくる洋平は、夕方まで帰ってこないし、さらには麻美と誠までが二人が夫婦喧嘩をする度、わざわざくるみの新居にやって来て、洋平を間に挟んで話し合いをする始末
もはやくるみの家族全員がすっかり洋平に頼り切っている
―私の家族が洋平君を好き過ぎるのがいけないのよ―
なので結婚式を終えてから1か月・・・・
くるみは洋平と二人っきりで、ゆっくりできる時間が無くて、少々欲求不満気味だった
しかし待ちに待った二人のハネムーン(※プランを考えたのは母だけど)
やっとくるみも洋平も、休暇のスケジュールが一致して、楽しい3泊4日でハワイへ新婚旅行←今ここ
「思いっきり楽しもうね♪洋平君♪(はぁと)」
いびきをかいて爆睡している洋平を、また涙ぐみながら見つめる
ああ・・・ハワイに着くまでずっと彼の寝顔を見つめていられるわ!南の島で二人はずっと24時間一緒・・・
そしてくるみは鞄からずっと作成していた『ハワイに行ったらやりたいことリスト』を取り出した
ふふん♪「約50項目の超大作リストよ!」
ピンク色のB5サイズの小さな紙を取り出し、眺めてうっとりした、これを一つ一つ洋平君と実行するのが楽しみ♪
二人はずっと24時間一緒・・・
邪魔な家族はいない(ここ重要)
朝日と共におはようのキスをして(はぁと)
忘れちゃいけない、ブランチはひとつのトロピカルドリンクを二つのストローで飲んで(はぁと)
輝く太陽の下で二人は、お揃いのアロハシャツで観光するの(はぁと)
そして南の島の美しい夜は波の調べと共に、洋平君がハイビスカスを耳に刺した私に、愛を囁いてくれるのよ
照明担当はもちろんお月さま(はぁと)
降ってきそうな星のシャンデリア
そしてその後二人はホテルに帰って・・・
ポッとくるみが頬を染める
実は私達・・・・えっ・・えっちも・・・暫くしてないんだよね・・・
これまでの忙しい日々・・・すれ違い気味だった二人の時間、今こそお互いの愛を確かめ、深める旅がここから始まるわ!(BGMドラクエ)
洋平君とラブラブの日々を過ごす
題して!「くるみと洋平のハッピーハネムーン」よ!
疲れ切ってガーガーいびきをかいて眠る洋平を尻目に、くるみは機窓の外の果てしない空に、二人の未来への希望を重ねていった
・:.。.・:.。.
「でもぉ~・・言っても飛行機の中って暇よね~・・・洋平君起きないかなぁ~」
くるみは通路側の席に座り、隣で熟睡している洋平の寝顔を微笑ましく眺めていた
お疲れの洋平とは違い、くるみの頭の中では、これから訪れるハワイでの、楽しい計画が次々と浮かんできて眠れそうにもない
そんな彼女に、通路を挟んだ向かい側の席から声がかかった
「あの~失礼なんですけど~・・」
くるみが顔を上げると、20代後半くらいの女性が微笑んでいた
「はい?」
くるみは少し驚きながら応じた。黒髪の巻き毛が綺麗で唇がぽってりしている、少しエキゾチックな顔つきの美人が、微笑んでくるみに話しかけて来た
「もしかして、新婚旅行ですか?」
女性は優しい声で尋ねた、くるみは嬉しそうに頷いた
「はい、そうなんです!」
「やっぱり!私たちも新婚旅行なんです。私、由紀っていいます、こちらが主人の慎吾です」
由紀は隣に座る男性を指さした。由紀はとなりで静かに寝ている男性をくるみに紹介した
「まあ、同じなんて偶然ですね!私はくるみです。こちらが・・だ・・旦那様の洋平君ですが・・・・今はぐっすり寝てしまって」
「あら、私の主人も」
由紀は隣で眠る夫の慎吾を指差して笑った
若くて美しい由紀に比べれば、由紀の夫は小太りで眼鏡をかけて野暮な感じがした
でも人の旦那様の粗をあれこれ探すものじゃない、外見は別にしても、きっと優しくて素敵な人なんだろう
「男の人って、こういうところあるんですね」
「飛行機に乗ったらすぐ寝ちゃうとか?」
二人は声を抑えて周りを気にしながらも、クスクス楽しく笑い合った
「私達もホノルルに行くんです、もしかしてホテルはリッツ・カールトンですか?」
くるみの目が輝いた
「ええ!私達もそうなんです!なんて偶然・・・」
由紀は喜んで顔の前で両手を合わせた
「すごい!じゃあ、現地でも一緒に観光できるかもしれませんね」
くるみは嬉しそうに言った、由紀も興奮して身を乗り出した
「ぜひぜひ!こうして出会ったのも偶然じゃないですよね。ところで旦那さん足長いですね~すっごいハンサム!」
くるみは洋平を褒めてもらってとても嬉しかった
由紀さんの旦那さんも、洋平君の足元にも及ばなくても(←失礼)優しそうで素敵だ
随分由紀さんより年上っぽいけど、きっとその分包容力があって素敵なのだろう
「いやぁ~それほどでもぉ~(照)」
「ねぇ、ねぇ、ご主人お仕事何なされてるの?」
「仮想通貨のエンジニアなんです!」(※よく知らないけど)
「ええ!凄い!お金持ちなのね!」
くるみはリアクションの大きい由紀が面白いと思った。無邪気に瞳を輝かせて話を聞き入ってくれている
ペラペラ・・・「でも洋平君は自分がお金持ちなのを全然鼻にかけないんですよ。知り合いやお友達のもっと大富豪の人達に比べれば、自分なんてまだまだだって謙遜しちゃう様な人なんです。私から見たら十分凄いのにね・・・」
「まぁ!なんて素晴らしい心がけなの!素敵!」
ペラペラ・・・「仮想通貨界はどうしても外資系の人が多いでしょう?(※イメージで言ってる)だから彼は英語もペラペラなんです、これからは海外から仮想通貨バブルが来るって!彼は日本に仮想通貨を広げるレジェンドだって、海外の投資動画サイトで紹介されたりもしてね~(※動画みてないけど)」
「凄い!凄い!よくそんな素敵な旦那さん捕まえたわね~、さぞかしアタックするの大変だったんじゃない?」
興奮気味に由紀が聞く
ペラペラ・・・「それがぁ~・・・洋平君から声をかけてくれたって言うかぁ~・・・運命の出会いって言うかぁ~・・」
「素敵!素敵!もっと聞かせて!」
二人は顔を見合わせて笑い、まるで長年の友人の様に会話は弾んでいった、くるみは新婚旅行がまだ始まったばかりだというのに、既に由紀との素敵な出会いがあったことに心を躍らせていた