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無人島生活六日目。
疲労が蓄積する中でも、
Dクラスはなんとか持ちこたえていた。
堀北鈴音――堀北さんは依然として高熱で休養中。
その間、クラスは平田くんや桔梗ちゃんを中心に協力し合っていた。
ひなもまた、
食料の管理やテントの整理を手伝いながら、
必死にみんなを支えていた。
白い髪を揺らしながら動き回るひなの姿は、
無人島の自然の中でもひときわ目を引いていた。
小柄な体に、儚げな雰囲気。
その姿はまるで 坂柳有栖 によく似ていると、以前から噂されていた。
実際、他クラスの男子からも視線を集めることが少なくない。
けれど、人の視線を強く意識してしまうひなにとって、
注目されることは決して得意ではなかった。
中学時代――
周囲の視線に耐えられなくなり、
学校へ行けなくなった記憶が今も胸の奥に残っている。
午後。
水場へ向かう途中、
Cクラスの男子生徒たちとすれ違った。
そのうちの一人が足を止め、
にやりと笑う。
「Dクラスにあんな可愛い子いたんだな」
「まるでお姫様みたいだ」
突然向けられる言葉に、
ひなの足がすくむ。
心臓が早鐘を打つ。
視線が痛い。
息が詰まりそうになる。
中学時代の記憶が、一瞬で蘇った。
「……っ」
思わず後ずさったその時。
「何か用か」
低く落ち着いた声が割って入った。
振り向くと、
綾小路清隆が立っていた。
表情はいつもと変わらない。
しかし、その視線にはわずかな鋭さが宿っている。
Cクラスの男子たちは気まずそうに肩をすくめた。
「いや、別に」
「なら行け」
短く、しかし有無を言わせない声。
男子たちは軽く笑いながら、その場を去っていった。
ひなの手は小さく震えていた。
綾小路くんは何も言わず、
そっとひなの手首に触れる。
「ここを離れよう」
その声に導かれるように、
ひなは静かに頷いた。
人気のない海辺まで来ると、
ようやく胸の苦しさが少し和らいだ。
「ごめんね……」
「謝る必要はない」
綾小路くんは静かに答える。
「視線が苦手なんだな」
その一言に、
ひなの目が大きく見開かれた。
「……どうして」
「前から気づいていた」
彼の声はどこまでも穏やかだった。
ひなは、少しずつ自分の過去を話した。
中学時代、
人の視線が怖くなってしまったこと。
学校へ行けなくなったこと。
そして、男性に対して苦手意識が残っていること。
すべてを聞き終えた綾小路くんは、
しばらく黙っていた。
やがて静かに口を開く。
「それでも、お前はここにいる」
「……うん」
「十分すごいことだ」
その言葉に、
ひなの目に涙が滲んだ。
綾小路くんはそっと、
ひなの小さな手を包み込む。
「無理をして誰かに合わせる必要はない」
彼の手は、温かかった。
「怖いときは、俺のそばにいればいい」
その言葉が、
ひなの心の奥深くまで優しく届いていく。
「……ありがとう」
涙混じりの声でそう答えると、
綾小路くんは静かに頷いた。
夕暮れの海を見つめながら、
ひなは胸の中でそっと願った。
(この人のそばなら、きっと大丈夫)
過去の傷も、
不安も、
恐れも。
すべてを抱えたままでも、
綾小路くんは静かに受け止めてくれる。
その確信が、
ひなの心をこれまでで一番温かく満たしていた。