テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
無人島生活七日目。
ついに特別試験の最終日を迎えていた。
疲労は限界に近く、
誰もが早くこの生活を終えたいと感じていた。
それでも、Dクラスの雰囲気は以前よりずっとまとまっていた。
堀北さんも熱が下がり、
まだ本調子ではないながらも、再びクラスの中心に立っていた。
ひなはそんな様子を見ながら、
この一週間で多くのものが変わったことを実感していた。
クラスの関係。
自分自身の気持ち。
そして、綾小路くんとの距離。
試験終了の合図を待つ夕方。
ひなはひとり、海辺に立っていた。
赤く染まる水平線を見つめながら、
この島で過ごした日々を思い返す。
不安だったこと。
涙がこぼれたこと。
そして――
綾小路くんの言葉に何度も救われたこと。
「ここにいたのか」
背後から聞こえた声に、ひなは振り返った。
そこには、綾小路清隆が立っていた。
「もうすぐ終わっちゃうね」
「ああ」
彼はひなの隣に並び、静かに海を見つめる。
しばらく、二人の間に言葉はなかった。
けれど、その沈黙は不思議と心地よかった。
「この一週間、いろんなことがあったね」
「そうだな」
「私、途中で怖くなったり、自分に自信がなくなったりして……」
ひなは体操服の裾をぎゅっと握る。
「でも、綾小路くんがいてくれたから頑張れたの」
その言葉に、彼は少しだけ視線を向けた。
「……俺も、お前がいたから楽だった」
胸の鼓動が一気に速くなる。
「え……?」
「お前は無理に踏み込んでこない。それでいて、必要な時には自然とそばにいてくれる」
綾小路くんの声は穏やかだった。
「そういう存在は、俺にとって珍しい」
ひなの瞳が揺れる。
夕陽が二人の影を長く伸ばしていた。
綾小路くんは静かに続ける。
「ひな」
名前を呼ばれるだけで、胸が締めつけられる。
「お前の居場所は、ここにある」
彼は自分の隣を指し示した。
「少なくとも、俺の隣には」
その言葉に、ひなの目から涙がこぼれた。
中学時代、
人の視線が怖くなり、
自分の居場所を見失ってしまった日々。
けれど今、
この無表情な少年が、
自分の居場所をくれた。
「……ありがとう」
涙を拭いながらそう言うと、
綾小路くんはそっとひなの頬に触れた。
驚くほど優しい指先。
「泣くな」
「うれしくて……」
「それなら、少し安心した」
彼の指先が涙をぬぐう。
その仕草だけで、胸がいっぱいになる。
そして綾小路くんは、
ひなの小さな手をそっと握った。
「これからも、俺のそばにいろ」
それは告白ではない。
けれど、ひなにとっては、
どんな「好き」という言葉よりも深く心に響いた。
「……うん」
震える声で頷くと、
綾小路くんはほんのわずかに目を細めた。
試験終了の合図が遠くで鳴り響く。
無人島での一週間が終わる。
けれど、ひなにとって本当に始まったのは、
この瞬間からなのかもしれなかった。
居場所を失った少女と、
感情を表に出さない少年。
二人の距離は、
ついに誰にも揺るがせないほど近くなっていた。