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「何を隠そう、先日の魔獣襲撃の際! 誰よりも早く対処し、勇猛果敢に魔獣たちに立ち向かい! その身一つでこの街と人々を守った! 先の英雄であらせられるぞ!!」
そう大きく言葉を発すると、この場にいた人々が一斉に俺を見る。
そして俺を見る全ての人々が、俺を……いや、俺たち兄妹を不振な目で見る。
何を隠そう……俺、神崎八尋は、只今絶賛! 妹とお揃いで紙袋を被っているのだ!!
何でかって? そりゃもちろん、身バレ防止の為だ!
「何やってんだい! 黒髪の兄ちゃん!!」
「危ないから早くこっちに戻っておいで!」
即バレであった。
コレだから、地域ネットワークというものは恐ろしい……下手したら昨今、普及しているSNSよりも早いぞ。
ふと離れた所から様子を見守っていた伊織が、心なしか盛大なため息をついている気がする。いや! きっと気のせいだ!! 俺は伊織を信じるぞ!!
「えぇい! 今の俺は名も無き『紙袋仮面』だ! 黒髪の兄ちゃんなんか、俺は知らん!」
「いやいや、その変な背格好は黒髪の兄ちゃんしかいないだろ!?」
「変じゃない! 最先端の流行ファッションだ!!」
俺のこの『最先端にオシャンティなファッション』が分からないとは……やれやれ、この世界の価値観では俺のファッションは理解されにくいらしい。
俺には分かるぜ。この中で俺のファッションの良さを一番理解してくれているのは……伊織、お前だってな!
俺は「お前なら分かってくれるだろ?」という期待を込めて、伊織の方へと視線を向ける。しかし俺の考えとは裏腹に、伊織は全くと言っていいほど視線を合わせてくれない。というか、なんかさっきからやや他人みたいな素振りすらしていないか? ちょっと、伊織さん? 伊織さんってば!?
「いいから早く、その魔族から離れな黒髪の兄ちゃん!」
「そうだよ! 魔族なんて何をするか分からない、野蛮な生き物なんだからさ!!」
「はい、そこと……そこ! 異議あり!!」
「「…………!?」」
俺は、二人の中年くらいの男女に指をさす。
「さっきから『魔族』、『魔族』と言っているが……それはロキのことを言っているのか?」
「そ、そうだよ……その魔族以外に、どこに魔族がいるって言うんだよ……?」
その言葉を聞いて、俺は「はい、ダウトー!!」と叫ぶ。
「今ココにいるのは、この街に住んでる住民と、俺ら……そしてたまたま通りがかった口の悪いツンデレっ子デース!!」
「は……」
「「「はぁぁぁぁああ!?」」」
俺のこの言葉に、ロキを含めたこの場にいる全員が唖然とする。
「いやいやいや! どう見たって、ソイツは魔族だろ!?」
「そうか? 俺にはちょーっと見た目が派手な、口と手癖と、足癖が悪い生意気な子どもにしかみえないけど?」
「騙されるな兄ちゃん! 魔族ってのは普通の人間より若く見えるだけで、何十年……いや、何百年と生きてるんだぞ!!」
「なんだ、生きる時間がちょっと短いか長いかの違いだけじゃん」
「しかもソイツ、魔族のなかでも『紅魔』の魔族だぞ!?」
なにその、今にも『一日一回が限度の爆裂な魔法』を打ちそうな娘っ子の種族みたいな名前!?
……おっと、そこに興味を示している場合じゃない。
「つまり、俺が言いたいことはだな!︎︎ 仮にもこの街やここに住むアンタらを助けたコイツに対して!︎︎ 恩を感じるどころか、あまりにも仕打ちが酷いんじゃないかって話だ!!」
俺のこの言葉に、住民たちは一瞬バツの悪そうな表情をする。それでも「だが、ソイツは魔族で……」と言うので、さらに続ける。
「俺はこの街とは全然違う、遠い国から来た。だから、アンタらと魔族の間に何があったかは知らない」
そもそも国どころか、違う世界から来たのだがそこはスルーで。
「価値観も常識も全く違うとわかった上で、あえて言わせてもらう。恩を仇で返す、この恥知らずどもが!!」
「な……っ!」
俺のこの言葉に、住民たちは激怒した。
「ふざけんな!︎︎ 俺たちのどこが恥知らずだって言うんだ!!」
「そうよ!︎︎ 私たちがどれだけ、魔族たちに苦しめられてきたか知らないくせに!!」
「俺たちのこと、何も知らないくせに!」
「偉そうなことを言うな!︎︎ この異端者め!!」
そして怒鳴り声とともに、どこからともなく石が飛んできた。
つい先刻見た光景と同じ光景が、目の前に広がる。違うのは今、目の前にいる人々の怒りの矛先が、俺かロキかの違いだけだ。
俺は後ろの二人に飛び火しないよう、一歩も動かずに飛んでくる石と罵声から守る。
「……お、おい……バカ兄貴……」
「……覚悟はしてたけど……これ、結構キツイな……」
――――――こんな辛い罵声や暴力の飛び交う状況を、ロキは今まで何度体験してきたのだろうか?
――――――ロキはこの辛い境遇をを、どうやって一人で耐え続けてきたのだろうか?
――――――セージと出会うまで、どうやって乗り越えてきたのだろうか?
「もういい……もう僕のことはいいから、アホヒナとあのガキ連れてさっさと……」
「…………て、…………だろ……」
俺は、拳を強く握りしめて前を向く。
「大事なダチを傷つけられて……自分らだけ逃げるなんて、できるわけねぇだろう!」
俺は一度、大きく息を吸う。そして腹の底から――――。
「うるせぇ! いいから全員、黙って俺の話を聞けぇぇぇぇええ!」
罵声を全てかき消すように、俺は大声でそう叫んだ。
すると、先程まで隙あらば反論しようとしていた住民たちは、驚くほど静かになった。
「魔族だの異端者だのと、さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃと……うっせぇな!︎︎ んなこと、今は関係ねぇって言ってんだろうがよ!︎︎ お前らが今、石や罵声を浴びせるべきは、ロキじゃねぇだろ!︎︎ 誰よりも命はって犠牲者を一人も出さなかったロキに言っていい言葉は、『ありがとう』という感謝の気持ちだけだろうがよ!」
感情的になってはいけないと分かっていながらも、心の奥底ではロキを傷つけた心無い行動や言葉に怒りが込み上げてくる。
――――――できるだけ、冷静に。言葉を選べ。
今俺がすべきことは、ロキに対して謝罪をさせることじゃない。
「そりゃあ、俺は外部の人間だし。この国の事情なんて、詳しくは知らない……でもな、一つだけ言えることがある」
何度か深呼吸を繰り返し、息を整えて静かに口を開く。
真っ直ぐ、真摯に目の前の人々に向けて――――。
「コイツは……ロキは、この街を一緒に守った『仲間』だろ?」
俺のその言葉に、住民たちが『ハッ』とする。
先程と流れが変わったことを感じとった俺は、できるだけ冷静に……そして淡々と言葉を紡ぐ。
「アンタらがどれだけこの街が好きで、大切に思っているかは、この一週間でよく分かった。こんなに活気があって、みんなに愛されてる街なんて、そうそうねぇよ」
俺の言葉に、住民たちは黙って俯く。この街の人々は、本当にこの街のことが、心の底から好きなのだろう。
毎日毎日……街を早く復興させるため、誰一人文句や不満を言わずに作業を続けている。
だからこそ――――!
「街が魔獣に襲われてめちゃくちゃになったことが悲しくて、許せないのも分かる……でもさ、その責任を『誰か一人に押し付ける』っていうのは間違っているって……俺は思うんだよ」
「「「…………っ!!」」」
少しして、ポツポツと住民たちがザワつき始める。
「……っ、確かに」
「あの兄ちゃんの言う通りかもしれない……」
「俺たち……街がめちゃくちゃになって、気が立っていたんだ……」
「街や、街のみんなを守ってくれた恩人なのに……」
誰かが呟いた同調の言葉から波紋が広がり、徐々に浸透していく。
「実は俺、あの子に危ないところを助けてもらったんだ」
「私も……子どもを助けてもらったんだ」
「それにあの子……いつも神官様のそばにいる子じゃないかい?」
「そうだよ。あのいつもお優しい神官様の傍にずっといる子だよ」
「神官様がずっとお傍に置くってことは……」
予想外のセージに少し驚きつつも、みんな納得したように頷き合う。ココにいないにもかかわらず、みんなを納得させてしまうセージ。いかに日頃の行いがよいのかが、よく分かる。
そしてまた。口ではなんだかんだ言いながらもたくさんの人々を助けたロキも、例に等しい。
何が起きたのか分からずに呆然とするロキの頭を、俺はそっと撫でる。
俯くロキが今どんな気持ちで、どんな表情をしているのか……俺は何も考えないことにした。