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#一次創作 #双子
俺の片割れは何でも持っていた。
綺麗な字を書き、大人たちに褒めそやされ、しかしそれを傲らない。するすると高い木に登っては下で立ちすくむ俺へと林檎を一つ落としてくれた。
それは赤くて甘くて艶があって、俺には決して手の届かない代物だった。
更に彼は俺の好きな人まで持っていた。
街中で出会ったちょっと抜けてて、でも芯があり、花開くように笑う、可愛いい女の子。後から出会ったのに、彼らは俺を置いて惹かれ合っていく。
俺の方が先に好きになったのに。
足元で蹲る彼は俺を見上げて顔を歪めた。それは初めて見る顔だった。
視界がぐるりと回ったかと思うと、 背中に重たい衝撃が走った。喉元の圧迫感から彼が俺を殺そうとしているのだと、そうわかった。
彼の顔と俺の顔が鏡合わせに向かい合う。今まで間近で沢山見てきた筈なのに、何故だか初めて見つめ合った気がした。
やがてふっと手から力が抜け、彼は重力に従ってその体を倒した。肩に落ちた彼の顔は、自嘲の色の混じった穏やかな笑みをたたえていた。あれ程五月蝿かった筈の耳鳴りが遠ざかっていく。
「やっぱりお前はずるいね」
ぽつりと声が聞こえた。
段々と重みを増していく彼は掠れた声で呟いた。
「何でも持ってるくせに」
それきりだった。
ちっとも動かない彼の下から這い出す気には、なんとなくならなかった。
書いた文字は汚かったが、文字を覚えるのは早かった。大人たちからは疎まれたが、同い年の友達は多かった。木に登るのは苦手だったが、魚を捕まえるのは人一倍得意だった。
俺達はきっと、二人共林檎を持っていた。