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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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日が暮れる頃。

勉強合宿を終えた生徒たちは帰りのバスに乗り込む。


とても濃い時間だった。


雪乃はバスに乗り込み、窓から旧校舎を見た。


『おいで』

『いかないで』


何故だか呼ばれている気がする。


正直来た時から感じていたが、ここはゴーストポケモン達の巣窟だ。


昨夜ここで肝試しをしたアホ達もいたらしいが、無事だったのだろうか。


そうしてバスは走り出す。


「どう?チーノくんに勝てそう?」


隣に座る美希が雪乃に聞いた。


雪乃は窓の外の景色を見ながら、うーんと唸る。


「どうかなぁ…」














そして時は過ぎ、期末テストの結果が以前と同じように廊下に張り出された。


勿論上位には入っておらず。


群がる生徒達の一歩後ろで、雪乃は持っていた短冊に目を落とす。



「100位か」


「っ、おい!」



耳元から聞こえてきた声に、雪乃は飛び退きその人物を見上げる。


「毎回毎回、人の成績覗き見んなグルグル眼鏡!」


背後から雪乃の手元を覗き込んでいたのは、チーノだった。

その一連の流れに、雪乃は既視感を覚える。


「だから、見たくて見たんちゃうって」


「はいはい。高身長アピール乙」


「お前がチビなだけやろ」


ムキーッ!!と憤怒し持っていた短冊を握りしめる雪乃。

相変わらず減らず口でムカつく。


「てか100位じゃないし、102位だし!!」


「変わらんやろ。細かいな」


順位上げてやってんのに何怒っとんねん、と冷静に言われ更にムカつく。

確かにそうだけども。


それより、と空気が張り詰める。


「お前の順位は……?」


ここで勝敗が決まる。


勝てばこいつが風紀を辞める。

負ければ私が風紀を辞める。


雪乃はごくりと唾を飲み、ジッとチーノを見つめた。


「…残念やったな」


チーノの言葉に、目を見開く。


分かっていた。

勝てないことくらい。


最初から勝算なんてなかった。

勝てる見込みなんてなかった。


それでも、引き下がれなかった。


クシャリと短冊を握りしめながら、俯く。

終わった。

春翔に何て言われるだろう。



「引き分けや」



続くチーノの言葉に、雪乃は顔を上げた。


え…?

引き分け…?


チーノが自分の短冊を見せてくる。

確かにそこには、“102位”と書いてあった。


え?同じ順位?

嘘でしょ?


そんな事あるのか、と信じられず固まる。


「いやー残念残念。お前を陥れるチャンスやったのになぁ。意外と順位上げてきてびっくりやわ」


短冊をヒラヒラと扇ぎ息をついてわざとらしくそう言うチーノ。


ほんとか…?と疑うが、確かに短冊にはこいつの名前が書かれていた。

おかしなところはない。


それに、順位が被ることもなくはない。


でも、まさか。

こんな結果になるとは。


「…引き分けの場合、どうなるの?」


「決めてへんかったからなぁ。まぁ、現状維持やろな」


「…なんか腑に落ちない」


「首の皮一枚繋ぎ止めたんやから、喜んだらええやろ。本来なら俺に負けてるところを」


「負けてないし」


「いやー、これこそ奇跡やな」


「うるさい」


睨みつければフン、と鼻で笑うチーノ。


「…まぁ、そんだけ順位上げれたんやから、草凪先輩も褒めてくれるんちゃう?」


そう言いながら背を向ける。

らしくない言葉に、雪乃は気持ち悪さを感じていた。


「じゃあな、おチビさん」


ひらひらと手を振り去っていくチーノの背中に、雪乃は口を開いた。


「借りは返したから」


その言葉に一瞬立ち止まったチーノは、何も言わずに再び歩き出す。



「…お返しが大きすぎるわ、アホ」



1人呟いた言葉は、誰にも届かず。





雪乃はチーノが去っていった方向を見つめていた。

雪乃がずっと引っかかっていたこと。


それは、チーノが以前緑の悪魔から庇ってくれたこと。


雪乃はずっとその事を引きずっていた。


最終的に恥をかかされたが、助かったのは事実。

それを『借り』として、ずっと抱え続けてきた。


それに何より、不安な気持ちになった時、頰を撫でてくれたあの優しい尻尾に、救われたから。



「…次は負けないから」



雪乃は背を向け、廊下を歩き出した。


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