テラーノベル
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夜。
夕飯も終わって、風呂も上がって、あとは寝るだけの時間。
リビングの照明は少し落とされていて、
ソファーに座ったタクヤは、台本を手に集中していた。
ページをめくる音とゲーム機を片付ける音が、静かに響く。
「……リョウガ」
ゲーム機を片付けかけていたリョウガが振り返る。
「先に寝てて」
「は?」
「俺、もうちょいこれ読んでから寝るから」
リョウガは一瞬タクヤを見て、ため息をついた。
「そこで寝たら風邪ひくんだから、早く部屋行けよ」
「寝ないって」
「寝るから言ってんだよ」
タクヤは小さく笑って、また台本に目を落とす。
「大丈夫」
「……はいはい」
それ以上は言わず、
リョウガは自分の部屋へ戻った。
止めなかったのは、
邪魔をしたくなかったから。
――優しさ、ってやつ。
翌日はオフ。
時間を気にせず、リョウガはゲームをしてから布団に入った。
「……そろそろ寝たかな」
時計を見ると、もう小一時間は経っている。
気になって、タクヤの部屋へ向かう。
ドアをそっと開ける。
……いない。
「だよな」
予想通りすぎて、思わず小さく笑う。
そのままリビングを覗くと――
電気はまだ点いたまま。
ソファー。
タクヤが、
台本を胸に抱えたまま、静かに寝落ちしていた。
「……ったく」
小さく呟いて、近づく。
完全に眠っている。
呼吸も穏やかで、起こすのが惜しいくらい。
リョウガは、
タクヤの手から台本をそっと抜き取って、
ページを閉じ、テーブルに置いた。
起きない。
「ほんとに……」
そう言いながら、
迷いなくタクヤを抱き上げる。
慣れた感覚。 重さも、腕の中の温度も。
タクヤの部屋。
ベッドに近づいて、
起こさないように、ゆっくり、丁寧に下ろす。
布団をかけて、
髪をそっと撫でる。
無防備な寝顔。
リョウガは、少しだけ微笑んで、
タクヤのおでこに軽くキスをした。
「……おやすみ」
声は、ほとんど息みたいに小さく。
返事はないけど、 それでいい。
ドアを静かに閉めて、 自分の寝室に戻る。
ベッドに入って、天井を見上げながら、
リョウガは思う。
――こうなるって、分かってた。
でも、
それも含めて、放っておいたんだ。
ちゃんと迎えに行くために。
「……おやすみ」
誰に言うでもなく呟いて、
リョウガも目を閉じた。
夜は、静かに更けていった。
カーテンの隙間から、朝の光が細く差し込む。
静かな部屋。
コンコン。
「タクヤ」
返事なし。
リョウガはドアを少し開けて、顔だけ覗かせる。
「午後から撮影でしょー?」
反応ゼロ。
「……あーあ」
完全に寝てる。
ゆっくり部屋に入り、ベッドの横に腰掛ける。
昨日、ここに下ろしたときと同じ体勢。
布団をぎゅっと掴んで、少しだけ丸まっている。
「タークーヤーさーんー」
軽く肩を揺らす。
「……ん」
小さな声だけ返る。
「朝だよ」
「……やだ」
「いや子どもか」
リョウガは笑いながら、前髪を指で整える。
「撮影ある人が“やだ”って何」
「……あと5分」
「その5分って」
タクヤは目を開けないまま、布団を引き寄せる。
リョウガの手首まで巻き込んだ。
「……」
「起きろ」
「……あったかい」
ぼそり。
リョウガは一瞬固まる。
「寝ぼけてる?」
「……起きてる」
「嘘だね」
タクヤはうっすら目を開ける。
半分しか開いてない。
「……昨日、迎えに来たろ」
「ん?」
「起きてたの?」
「……物音がして」
少しだけ笑う。
「起きてたんなら自分で部屋行けたろ」
「…運んで欲しかったから」
「もぉ重労働させやがってぇ!こんにゃろう!」
「はぁ…重かったんだからなぁ?俺の筋肉を褒めて欲しいわっ!ドヤ」
「がんばったねー」
「適当だな!おい笑」
タクヤは、布団の中からリョウガの袖を握る。
「……今日、オフだろ」
「うん」
「いいな」
「いいだろー!羨ましいだろー!」
「……送って」
リョウガは目を細める。
「何その特権みたいな言い方」
「特権じゃん」
即答。
「…はいはい」
リョウガは少し屈んで、タクヤの額に軽く手を当てる。
「体調は?」
「問題ない」
「眠気は?」
「ある」
「正直でよろしいw」
ふっと笑って、
布団を少しだけめくる。
「おし、起きろっ!」
「……」
タクヤはしばらく動かない。
でも、ゆっくり上半身を起こす。
寝癖だらけ。
「ボッサボサw」
「んー」
「可愛いやつw」
リョウガは頭を撫でると立ち上がって、ドアの方へ向かう。
「早く着替えて、顔洗って。
コーヒー淹れて待ってるから」
「……」
タクヤはその背中を見て、
「リョウガ」
「ん?」
「……ありがと」
リョウガは振り返らずに答える。
「はーい」
朝の光が、少し強くなる。
タクヤは深呼吸して、ベッドから降りた。
今日もちゃんと頑張れる。
そう思える朝だった。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
1件
神作品過ぎて泣ける
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