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バタンッ
勇斗との食事を終えて部屋へと帰ってきた。
「…ふう…」
今日の事をもし書き記しておくとしたら、俺はどうまとめるだろう。
テーブルに置きっぱなしになっていた作曲の痕跡を目にし、ふとそう考える。
「……」
温かい恋愛の温度。
ここのところずっと探していた気持ち。
勇斗に…俺が聞いたんだ。
何気なくメッセージを送った日。
いつものように軽い気持ちで話しかけた翌日。
…どうして勇斗だったんだろう。
1番付き合いが長いから?
でもそれなら大智もそうだ。
1番…聞きやすかったから。
俺の話を聞いて、きっと答えてくれるって。
勇斗はいつもそうだった。
軽口を叩きながらも、結局は親身になってくれた。
真剣に向き合ってくれた。
…今回だってそうだ。
本当は答えたくない質問もあったかもしれない。
好きな相手に好きな人の質問をされるって、どんな気持ちだったろう…。
もしかすると俺は今までも無意識に勇斗の気持ちを振り回していたのかもしれない。
(やっぱり仁人がいいって、なるんだよね)
「……」
…勇斗に最初の彼女が出来た時のことを思い出した。
あれは、まだお互いに10代で…恋愛事に興味津々な時だった。
―「俺彼女できた!」
「おま、声がでかい!てかまじ!?」
「ごめんっ、でもさ、めっちゃ可愛いの!」
「えー。まあ俺の彼女の方が可愛いと思うけど」
「…また惚気かよ。まあこれからは俺も惚気けるけどね〜」
「……」
確かに笑ってた。
…俺に初めての恋人が出来たのもそのくらいの時期で。
そう、そうだ。俺が話す前に勇斗が気が付いたんだ。
―「…最近ずっと携帯いじってんね」
「うーん…彼女に返事してるから」
「…彼女できたの?」
「うん」
「…俺知らなかったけど」
「だって言ってないもん」
買ったばかりのスマートフォンをタップしながら何の気なしに答えた気がする。
「勇ちゃんも彼女作りな?恋愛はいいよ」
「…うるさいな」
少し大人ぶってそう言った俺に、珍しく不貞腐れたような声が返ってきてふっと目をやると、まだ幼さの残る勇斗の顔が少し怒ってた。
「…拗ねんなって」
「拗ねてないよ」
「…だって怒ってる顔してる」
「…別に、怒ってないよ」
「…」
その僅か1、2ヶ月後に勇斗に初めての彼女が出来た。そう記憶してる。
「…まさか…あの頃から…俺のこと…?」
ゾクリと身体が震えた。
熱いのか冷たいのかわからないザワザワとしたものが足先から首筋を駆け抜けた。
「そんなに…前から…?」
今まで触れてきた、色んな勇斗の顔や言葉が湧き出るように浮かんだ。
あの時も…もしかするとあの言葉も…?
全部全部、俺のことが好きだったから…?
「……」
考えを巡らせたあと、頬が熱いのに気が付いて、
ふと卓上の鏡に目をやると、ぼんやりと見つめる瞳と耳まで赤く染めた俺がいた…。
「……勇斗」
力が抜けるようだった…。
こんなに誰かに想われたことなんて人生で多分なかった。
それが、自分の一番近くにいた勇斗だったなんて…。
―――
昨夜はあまり深くは眠れなかった。
目を閉じると勇斗の顔が浮かんできて。
消えては浮かび、俺に優しく微笑んだ。
(仁ちゃんが好き)
(ずっと昔から好きだった)
(仁人のこと考えすぎて眠れない夜もあったよ)
「……今度は俺が眠れないよ」
勇斗のことは好きだ。
でもそれが恋愛としての好きなのか…
正直わからないし考えたこともなかった。
(あと顔が好き。笑顔が好き。凄い可愛い)
(気づいたら近くにいたりして)
「……」
(…うーん。もう解放されたい気持ちもあったかな)
(仁ちゃんの事好きだけど…この先一生手に入らないなら…)
(…もう終わらせようかなって)
「…終わらせるって…どういうこと?」
俺への恋心を終わらせた勇斗はどうするのか。
もう…いつもの様に優しくしてくれない?
あんな風に笑いかけてくれなくなる?
まるでヒーローみたいに俺が困ったら助けに来てくれる勇斗が、消えていなくなる?
「……」
今まで、冗談みたいに好きとか、大好きとか、可愛いって言われたことはあった。
いちいち本気にしてなかった。
軽く流してた。
…あの言葉たちに本気の勇斗の気持ちが込められていたかもしれないなんて、知らなかったんだ。
…知ってたらどうしてた?
俺は……
「…準備しないと」
今日もまた勇斗と顔を合わせる。
待ってくれと言った俺に、勇斗はどんな言葉をかけるのだろう。
―――
「……」
ポツンと一人現場に置かれたテーブルの前に座っていた。
近くで勇斗の声がする。
他のメンバーと話しているようだ。
「あはは、それやべえっ」
なんだかとても楽しそう。
「ひいっひいっひいっ」
本気の笑い声が聞こえる。
勇斗の爆笑する様子が見なくてもわかる。
…チラッとそちらを見てみた。
4人で楽しそうに立ちっぱなしで談笑している。
他の3人は動きが多いのに対して勇斗はひたすらに笑っているだけで。
…一見微笑ましいメンバーの談笑のひと時が今の俺には何故か苦しい。
ぼっちだからかな……。
勇斗が楽しそうで…それはいいことなんだけど。
その時大智と舜太が離れていって柔太朗と勇斗が二人になった。
…勇斗を上目遣いで見て弾けるような笑顔を見せた柔太朗に、勇斗の手が触れる。
目元を触っている手がなにかを掴んで離れるとまた柔太朗がニッコリと笑って見せた。
……二人とも高身長で絵になるなあ。
気持ちがザワザワとする。
…なんで俺なんだ、という思いが込み上げる。
周りを見れば魅力的な人間ばかりの世界に身を置いているのに、何故俺のことを?
それも何年も。
まるで女の子みたいな表情の柔太朗とかっこいい彼氏みたいな勇斗。
…なんだよ。
…俺じゃなくてもいいのかよ。
「……」
その時勇斗がこちらに振り向いた。
…目が合う。
二人はなにかを話してすぐに離れた。
「どしたの」
「……別に」
「…元気なくない?」
「…全然。元気だし」
「……」
「……」
俯いて、ぶっきらぼうに答えてる自覚はあった。
なんだ、この気持ち…。
「…俺に話しかけられんの、やだ?」
「…ッちがう」
言葉を耳が聞いた瞬間否定していた。
「…ほんと、どうしたの?」
「……」
隣に座った勇斗が優しい声でそう聞いてきた。
「…なんで俺なんだって、思ってただけ」
「…なんでって言われてもなあ」
「…ここは美人やかっこいい人がたくさんいるだろ」
「……」
「じ、柔太朗だって、凄く、綺麗だし……、なのに…なんで俺なの」
「……仁ちゃん」
「……」
「もしかしてだけど…」
「……」
「ヤキモチ妬いちゃった?」
言われた瞬間一点を見つめて身体が固まった。
ヤキモチ…?
俺が?
「…なにか嫌なことあったんでしょ?…なにが嫌だったの?」
覗き込んでくる勇斗の顔が見れない。
「……」
「…っ!」
そっと頬に手が触れた。
その手はするりと俺の顎へ滑り、ゆっくりと勇斗の方へ顔を向かされる…。
なんの抵抗も出来なかった…。
「……」
「…なんちゅう顔してんの」
俺の顔を見た勇斗がバッと顔を赤くした。
え…どういう、顔?
「待って…仁人、俺…ダメかも」
「…なにが」
「…期待しちゃうよ」
「…期待…って」
「そんな…可愛い顔しないでよ」
胸ポケットから折りたたみの鏡を取り出した勇斗がそれを開いて俺を写した。
「……っ」
多分きっと、勇斗の目線から見た俺。
睨みつけるような目とは裏腹に、顔を赤く染め唇を少し突き出して困ったように眉を寄せて見上げていた。
「こ…殺す気ですか」
「ち、ちが、」
「なにが違うの…?」
スっと目線を合わされる。
今の俺は……どんな顔してる…?
「そんな…見んなっ」
「…ねえ。今日仕事終わったら…うち来る?」
「……」
「それは嫌…?」
「……嫌じゃない、よ」
「…じゃあ、あとでね」
「…おう」
「あんまさっきみたいな顔しちゃダメだよ!俺以外には!」
「…っ」
顔から火が出そうな程恥ずかしい。
自分の知らなかった感情が次々に襲いかかってきて、どうしていいのかわからない。
勇斗の態度や言動に一喜一憂している自分に気付いて、熱い溜め息を吐いた…。
―――