コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ふと、春翔の声がフラッシュバックする。
ボールに…。
ここからボールを投げれば、ニャオハに当たるかもしれない。
そしたら近寄らずにニャオハを救い出せる。
雪乃は空のモンスターボールに手を掛けた。
でも、そこで手は止まる。
「おーい、いつまで待たせるんや」
ゾムが欠伸をする。
「こーへんのやったら」
そして片手でボールを投げた。
そこから出てきたのはルガルガン。
ゾムはニャオハをルガルガンに渡し、こちらに近寄る。
「こっちから行くけど」
「!!!」
近付くゾムに、恐怖が最高潮に達した時、
「ーーーワッシャァァァァ!!!」
ワシボンが開いていた窓から飛び込んできて、ゾムの周りでバサバサと羽ばたく。
それに気を取られているうちに、雪乃は逃げ出した。
息もつかず、どこまでも、どこまでも走った。
走って、走って。
ボロボロと涙を流しながら、膝から崩れ落ちた。
「どうして…っ」
どうしてこんなに、情けないの。
どうしてこんなに、弱いの。
嫌いだ。
こんな弱い自分、大嫌いだ。
トレーナー失格だ。
「ニャオハ…っ」
ニャオハだって、怖かったろうに。
1人で逃げ出して。
何が覚悟だ。
口ばっかりで。
全然守れてないじゃないか。
「何で…、こんなに弱いの…っ、嫌だ、嫌…。最低だ、ほんと、最低…」
ボロボロと流れる涙。
止まらない自分への卑屈な言葉。
「ダメだよ、そんなに自分を貶しちゃ」
ふわりと、落ち着いた声音が降ってくる。
温かい手が、俯く頭を包み込む。
「君は最低なんかじゃない。強くて真っ直ぐで、優しい女の子だよ」
「……でも、」
「僕が言うんだから間違いない」
そう言って瀬戸は、いつものように微笑んだ。
「けど、たまに繊細で、折れそうになる。そんな時は周りを見てほしい」
雪乃は顔を上げた。
「君の周りには、君のことを助けてくれる人がちゃんといるから。
もちろん僕も」
微笑む瀬戸に、思い切り抱きつく。
肩口を涙で濡らしながら、ギュッと力を込める。
「そうよ。あんた1人の世界じゃないのよ」
涙で滲んだ視線を上げると、そこには美希が立っていた。
「何1人で暴走してんの。一緒にいるって言ったでしょ」
ほんと、馬鹿なんだから。と美希は腕を組んで怒った後、手を差し伸べる。
「ほら、いつまでも泣いてないで、行くわよ」
雪乃はさらにボロボロと涙をこぼしながら、その手をとった。
あたたかい。
私はこんなにも支えられている。
こんなとこで止まっている場合じゃない。
「ありがとう」と呟いて、雪乃は涙を拭いた。