テラーノベル
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写真の裏に書かれた文字を見つめたまま、四人は何も言えなかった。
――『最後の日』
勇斗は写真を裏返したり、表に戻したりを繰り返していた。
「……なんで、これだけ思い出せないんだ」
「ほんまにな」
舜太が写真を覗き込む。
「俺ら、ここまで覚えとるのに。最後の日だけ、なんでこんな抜けとんねん」
「何かあったんじゃない?」
太智が静かに言った。
「俺たちが忘れたんじゃなくて……忘れさせられてるみたいな」
その言葉に、柔太朗が顔を上げた。
「忘れさせられてる?」
「うん。だって不自然すぎるやろ」
太智は写真の中の仁人を指差した。
「仁人だけ、何か知ってるんじゃないか?」
四人の視線が写真に集まる。 笑っている仁人。四 人の真ん中で、いつものように笑っている。
けれど、 その笑顔を見れば見るほど、勇斗の胸は苦しくなった。
「……あいつ、俺たちが何も知らないと思ってる」
「どういうこと?」
「昨日、会ったときの顔」
勇斗は写真を握りしめた。
「俺たちを見た瞬間、絶対に何か思い出してた」
「……俺もそう思う」
柔太朗が頷く。
「じゃあ、仁人は全部覚えてる?」
「たぶん」
舜太が小さく息を吐いた。
「でも、それやったら余計分からんな」
「何が?」
「なんで俺らから逃げるんやろ」
誰も答えられなかった。
*
翌日、四人は仁人の学校へ向かった。
けれど、今日は声をかけるつもりはなかった。 ただ、姿を見るだけ。 それだけにしようと決めていた。
校門の向こう、 友達と歩く仁人を見つけた。 笑っている。 楽しそうに話している。 その姿を見て、太智が少しだけ笑った。
「……元気そうやん」
「うん」
勇斗も笑う。
「それなら、よかった」
仁人がこちらに気づいた。 一瞬、笑顔が消える。 けれど、今日は逃げなかった。 ただ、四人を見つめている。 遠く離れているのに 何かを伝えようとしているような目だった。 勇斗は手を振った。
仁人は、ほんの少しだけ迷ってから――
小さく手を振り返した。
「……え」
舜太が目を丸くする。
「今、振ったよな?」
「うん」
「俺らに?」
「たぶん」
四人の顔に、自然と笑みが浮かぶ。 仁人はすぐに友達の後ろへ隠れるようにして歩いていった。
でも昨日までとは違った。 少しだけ、距離が縮まった。
*
その夜、仁人は自分の部屋で、机の引き出しを開けていた。 中には、古びた箱が一つ。 その中には、何枚もの写真が入っている。 全部、前世のもの。
五人で撮った写真。 笑っている写真。 ふざけている写真。 何気ない日常の写真。 仁人は一枚ずつ、指でなぞった。
「……会わないって決めたのに」
声が震える。 今日、手を振ってしまった。
本当は話したかった。 名前を呼びたかった。 四人のところへ戻りたかった。
でも。
箱の一番下に入っていた一枚の紙を取り出す。 そこには、前世の自分の字で書かれていた。
『五人でいられるのは、今日が最後』
その下には、何度も書き直した跡があった。
『もし来世があるなら――』
そこで文章は途切れている。 仁人は紙を裏返した。 そこに続きがあった。
『もう、誰も俺を探しませんように。』
「……ごめん」
仁人は紙を胸に押し当てた。
「勇斗、舜太、柔太朗、太智……」
久しぶりに。四人の名前を声に出した。 それだけで涙がこぼれた。
「……俺だって、会いたかったよ」
誰にも聞かれないように、声を殺して泣いた。
同じ頃、勇斗たちは、あの写真をもう一度見ていた。
「ねえ」
柔太朗が言う。
「この写真、本当に最後の日なのかな」
「どういうこと?」
「仁人が撮ったなら、最後の日にしては変じゃない?」
四人が写真を見る。 確かに五人とも笑っている。 けれど、よく見ると 仁人だけが、少しだけ寂しそうだった。
「……このあと、何かあったんだ」
勇斗が呟く。 舜太が写真を裏返す。 そして、息を呑んだ。
「……これ」
写真の裏。 今まで気づかなかった、小さな文字。 薄く消されていた。 けれど、確かに読める。
――『次は、五人じゃなくていい』
四人の表情が変わった。
「……仁人が書いたんかな」
太智が呟く。
「でも、なんで?」
勇斗は答えなかった。 ただ、その言葉が胸に引っかかった。 次は、五人じゃなくていい。 それはまるで。
仁人が最初から――
自分だけがいなくなることを決めていたみたいだった。
そしてその頃、仁人は一人、窓の外を見ていた。 夜空に浮かぶ月を眺めながら、小さく呟く。
「……今度こそ、俺なしで幸せになって」
けれどその願いとは反対に、五人 はもう一度、仁人を迎えに行くことを決めていた。
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コメント
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あおいです🌷 このエピソード、胸がぎゅっとなりました。「もう、誰も俺を探しませんように」——仁人が自分を消そうとする気持ちと、それでも名前を呼んで泣く姿のギャップが切なくて。一方で、写真の裏に書かれた「次は、五人じゃなくていい」という言葉を無視して、それでも迎えに行く四人の強さに、読んでいて心が温かくなりました。仁人が何を背負っているのか、とても気になります。続きが待ち遠しいです📖