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突然そんなことを言われて驚いた俺は、体を引いて答える。
「な、何言ってるんですか」
そう言って目を泳がせる俺を見て、彼はふふっと笑った。
「冗談ですよ。僕はただ、あなたと友達になりたいんです」
「え?俺と友達にですか?」
「はい。なので、まずは今夜、食事にでも行きましょう」
彼の優しい笑顔のせいだろうか。さっきと変わらずデートに誘われている様に聞こえてしまう。
「それじゃあ僕、昼休憩終わっちゃうのでもう行きますね。19時頃、お店の前で待ってます」
余分にあげた分のお金を俺に渡し、彼は店から出ていった。これは行くべきだろうか。いや、僕が要望を聞いたのだから、行くべきだろう。そう決意して俺は業務に戻った。
そして約束の時間。俺が店の外へ出ると、彼は既に来ていた。
「すみません、待たせちゃいましたかね」
「さっき来たばかりなので大丈夫ですよ」
彼は笑顔でそう言う。初めて会った時は少し怖いと思っていたけど、意外とよく笑うようだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「どこに行くんですか?」
「ラーメンなんですけど、大丈夫ですか?」
「はい、ラーメンは好きです」
「よかったです。それじゃあ、行きましょうか」
そして俺達はラーメン屋へ向かう。ラーメン屋に入ると、彼は俺を席で待たせて、慣れた手つきで水をついで持ってくる。
「ここ、水セルフなので」
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、ラーメン、どれにします?」
彼からメニューを受け取り、ざっと見てみる。
「う~ん…いろいろあるんですね…」
悩んでいる俺を見て、彼は言う。
「僕のおすすめのラーメンがあるんです。」
彼はメニューをペラペラめくった後、指をさす。
「これ、とても美味しいんです。良かったら」
彼が指を指したのは特製豚骨ラーメンだった。
「これにします」
即決した俺を見て、彼はふふっと笑う。
「それじゃあ券、買ってきます」
「あっ、お金…」
彼は立ち上がり、財布を取り出そうとする俺の手を止めた。
「僕が払います。今日のこと、結構強引に決めちゃいましたし」
「いや、いいんですよ!これ、昼のお礼だし。むしろ俺が出すべきなんで、俺が出しますよ」
「僕が出したいんです。僕のわがまま、聞いてくれませんか?」
そう言って俺の目を見てくる。あまりにも真っ直ぐ見つめてくるので、俺は頷いてしまった。彼は券売機へ向かい、券を買って戻ってきた。
「あとは待つだけですね」
少し嬉しそうに彼はそう言う。
「あの、お名前なんていうんですか?」
友達になるのなら、まずは名前を聞くべきかと思いそう尋ねる。
「あっ、すみません!僕が友達になりたいなんて言ったのに自己紹介もしないで…僕、矢野衛二(やの えいじ)って言います」
「矢野さん…ですか」
「衛二でいいですよ、友達だし」
「あっ、そうですね、衛二さん。…あ、俺は土岐奏人です!呼び方はなんでも大丈夫ですよ」
「奏人くん、よろしくね」
手を差し出しながらそういうので私も手を差し出し握手をする。
「ここにはよく来るんですか?」
「はい、夜はよくここに来てます。ここのラーメン、すごく美味しいので。きっと奏人くんも気にいると思うよ」
「そうなんですね、ラーメン、楽しみです!」
そしてしばらく待つと、番号が呼ばれる。
「呼ばれましたね、行きましょう」
そしてラーメンをもって席に戻る。
「さぁ、食べてみてください」
衛二さんにそう言われて僕は箸を持つ。特製豚骨ラーメン。白いスープに麺が入り、チャーシューや卵が乗っかっている。とても美味しそうだ。俺は麺をひと口、ズーッと啜る。
「…美味い」
自然とそう出ていた。それを見て衛二さんも1口食べる。
「やっぱり美味しいな、ここのラーメンは」
「凄いですね、こんなとこにこんな美味いラーメン屋があったなんて…ずっとこの町に住んでるのに知らなかったです」
「僕もビックリしました。実は最近引っ越してきたばかりなんですけど、なんとなくラーメン食べたくてこの店入ったら、こんなに美味しいラーメンに巡り合えるなんて」
最近引っ越してきた。その事が気になって俺は聞く。
「最近引っ越してきたんですか?」
「はい、今年大学を卒業して就職したので、職場の近くに引っ越して来たんです」
「そうだったんですね…じゃあ家も職場もこの辺なんですね!」
「はい、奏人くんの家はこの辺なんですか?」
「あ、俺の家、きらくにの上なんです。」
「そーなんですね!なんか上にあるって思ったら、奏人くんの家だったんだね」
「そうなんです」
ラーメンを食べながらそんな会話をしていると、ふと昼の出来後を思い出す。きらくにの話をしたからだろう。俺は衛二さんに疑問に思っていたことを聞く。
「そういえばお昼のあれ、どうやってやったんですか?」
衛二さんはその質問でラーメンを食べる手が一瞬止まるが、1口食べ飲み込んだ後に言う。
「…いや、僕もよくわかんないです。意外と素直だったみたいです。あのYouTuberたち」
「そうですか…」
なんとなく気まずい空気が流れてしまい、俺は咄嗟に質問する。
「ランチセットA、いつも頼んでくれますよね!あぁいうシンプルなサンドイッチが好きなんですか?」
「あ、まぁ、それもありますけど…」
衛二さんは俺の目を見て、ニコニコしながら言う。
「奏人くんのおすすめなので」
そういえば初めて来た時、おすすめを聞かれてランチセットAをおすすめした。それにしても、そんな事サラッと言うなんて。俺が女だったら今頃惚れてしまっていただろう。
「そうですか…なんかありがとうございます」
「い~え」
そんな感じでしばらく話してラーメンを食べ終え、店を出た。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ奢ってもらっちゃってすみません」
「いいんですよ、また食事行きましょう、今度は別のところに行ってみたいですし」
「あぁ…そうですね」
別のところ。もしかしたら昼もきらくに以外の所に行ってしまうかもしれない。謎に不安になった俺はつい聞いてしまう。
「お昼も他のとこ行きたいとか思ったりするんですかね」
それを聞いた衛二さんはふふっと笑ってから答える。
「思わないですよ。お昼はきらくにでのんびりするのが好きですし。それに…」
そう言いかけて、俺の傍により、耳元で囁く。
「奏人くんに会いたいので」
その行動に痺れを切らした俺は、つい聞いてしまう。
「あの、衛二さんってよくタラシって言われません?」
それを聞いた衛二さんは、ふふっと笑う。
「そんな事、初めて言われました。僕、むしろ人に避けられるタイプなので」
確かにイケメンではあるものの、その鋭い目と目があったら誰でも距離をとってしまうと思う。本当はこんなによく笑う人なのに。
「あぁ…そうでしたか、なんかすみません。タラシなんて言っちゃって」
「いえ、いいんですよ。あ、そうだ!」
衛二さんはスマホを取り出す。
「連絡先、交換しません?」
「あぁ、そうですね!」
俺もスマホを取り出し、連絡先を交換する。
「これでいつでも連絡出来ますね。家まで送りましょうか?」
「あ、いえ!大丈夫です!では、また」
「はい、また。」