前書き
今回の話には、
『7.薄い本 (挿絵あり)』
の内容が含まれています。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います^^
倒れこんだパズスとラマシュトゥの、横に立ったコユキにパズスが転がったまま声を掛ける。
『見事だ、新ガタコロナ殿、我等の負けだ…… 運命に終止符、ピリオドを打つが良い、兄たちと同じく我等を、喰らうが良い!』
コユキが答えて言った。
「だれが新型コロナよ! 風評被害もいいトコよ! それに、オルクス君とモラクス君だったら、アタシん家、じゃなくてアタシの世話になっている家で、元気にしてるわよ! アタシはあの子達に言われてアンタ達二人を迎えに来たのよ! 食べる訳無いじゃない!!」
『『マジで?』』
「マジよマジ、さ、分かったら起きて、ブースの中に戻んなさい!」
コユキの言葉を信じたのか、だるそーに、イヤイヤムードを前面に出しながら二体はカバ舎の中にトボトボ入って行った。
付き添いの様に、一緒に入って行ったコユキの指示で、ラマシュトゥが『強靭治癒(エニシァシ)』で壊れた柵と壁を修繕した後、コユキがパズス、ラマシュトゥの順にプスッとやって行く。
オレンジとピンクのオーラが霧散した後には、すやすや眠るジロー君とユイちゃんの姿があった。
その脇から赤い石を二つ、大切そうに拾い上げたコユキは眠っている二頭を撫でながら優しく声を掛けた。
「ジロー君、ユイちゃん、私達の心配してくれてありがとうね。 でも、新型コロナには、私達人類の努力で必ず打ち勝って見せるから! 来年の春頃には『ワクチン』も登場するみたいだし、厳しい戦いでもアタシ達人間はあきらめない、そして打ち勝った暁には、また会いに来るわね! 元気で待っていてね!」
そう言うと、一回大きく腹の肉を揺らすと、勢い良く上空に飛び上がり、カバ舎の前の通路に降り立ったのであった。
そんなデブコユキを、太ったおばんさんを、キラキラとした目で見つめながら駆け寄ってくる少年の姿があった。
先程、R18から庇った少年だと、気付いたコユキが声をかける。
「ぼく、大丈夫だった?」
ニッと笑いかける狂気のデブに、少し離れた場所で見守っていた母親が、耐え切れずに駆け寄りながら反応した。
「あっちへ行って、この化け物! ナガチカちゃんっ!」
そう言うと我が子を庇うように、バッと抱き抱えてコユキの顔をキッと睨んできた。
脅威(きょうい)から子供を守らなくては! という正しい母性本能なのだろう。
睨まれた事など歯牙(しが)にも掛けず、コユキはふっと笑って少年を見つめるのだった。
「ナガチカ? ……いい名前ね!」
――――ナガチカ、ね、まだ髭もないしツルンツルンだわ、ふふ、育てようによっては、ナガチカ様になれそうね
「……格好良くなりな、ナガチカ!」
デブから救ってくれたデブ、いや、大きな人にナガチカは元気に返事をするのであった。
「うんっ! ぼく格好良くなるよ、大きな人、っていうか、名前なんて言うの?」
「アタシ? アタシは茶糖コユキだよ」
「サトウコユキ、分かったよ、ぼくは、幸福(こうふく)長短(ながちか)だよ! またね!」
「ああ、またね♪ アクセル」
笑顔で再会を約束したコユキは掻き消すように姿を消すのであった。
「き、消えた……」
母親の呟く声は、遠巻きにスマホで動画撮影をしていた人々の中で、次第に脅威の渦を巻き起こして行ったのであった。
消えた筈(はず)のコユキはすぐ脇の通路でこそこそとツナギを着込み、キャップを目深にかぶり、何食わぬ顔で『さる山食堂』を目指して歩き始めるのだった。
さる山食堂でのオーダーは、皆大好きお馴染みの、割かし当たり前のメニューに舌鼓を打つ事となった。
ビーフカツカレー五杯、チキンバスケット四個、けんちんうどん六杯。
パンダちゃんホットケーキを十二皿かきこみ、とりあえずの腹ごしらえを終えたコユキは大満足であった。
どれもこれも普通以上に美味しかったが、善悪が熱烈にお薦めしていたけんちんうどんは最高、いや絶品と言っていいだろう。
――――けんちんうどんだけだったら軽く二十杯はいけるわね…… 美味さの秘密は根菜、ね!
ふと、テーブルの上にあったアンケート用紙を手に取り、
『パンダちゃんホットケーキとても美味、ジロー君とユイちゃんの名物もキボンヌ ^_^ 』
と記入し、アンケート用紙入れにスッと投函すると、笑顔で席を立つのであった。