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そこには何もありませんでした。広く開けた空間の真ん中にただ独り、女神が佇んでいる以外には、何も。
「さぁ、心機一転張り切っていきましょー!」
広くて真っ白い部屋の真ん中で女性が1人、薄い石板のようなものを抱えたままで声を張り上げています。整った顔立ちに金の髪。青い瞳に白い衣。彼女こそが女神様。今まさに世界を創ろうとしているところなのです。
「スティン・ザウル、起動!」
寂しさを紛らわせるためでしょうか。大きな独り言とともに抱えていた神器に軽く力を流します。石板の表面にうっすらと幾何学模様が生じ、そこから広がるように部屋中に透明な光の板が無数に現れました。
「まずは名前ね。レ、オ、ノ、ラっと…」
女神は光の板に触れて、世界に自分の名を1文字ずつ刻んでいきます。名を与えられた世界は産声を上げました。女神レオノラはいそいそと世界を創り込んでいきます。これまでの失敗を思い返しながら地形を操作し、環境を細かく設定し、生物種を産み出していきます。あぁでもない、こうでもない。神は何日も不眠不休で作業を行いました。もっとも、神は基本的に眠ることはありませんので、大したことはありません。そうこうしているうちに、ようやく終わったようです。
「もうさ、こんなもんで良いよね。私、頑張ったと思うのよ…」
レオノラは大きく伸びを一つ。その顔にはやり切ったという満足感と疲れの色が浮かんでいます。
「よーし、それじゃ行っちゃうぞー!」
部屋の真ん中には美しい世界が浮かんでいました。それを眺めながら、彼女は微笑み、いつの間にか出現していたベッドに座って神器をその胸に抱きしめます。神器は彼女から力を吸い上げ世界に注ぎ込みます。創世の最終段階です。神の力を受けて、すべての歯車が動き出していきます。
「今度こそ、良い世界になるといいね…」
レオノラは神としての力の大きさに恵まれていましたが、世界を創るセンスにやや欠けていました。おかげでこれまでに何度も失敗しています。生命が生まれるより先に異常気象で世界が滅んだことがありました。極めて強い魔力を持った種族に世界を乗っ取られたこともありました。その度に女神は世界を放棄し、新しい世界を創りました。神器を抱えて優しい顔つきで世界を眺める彼女の姿は、まるで赤子を抱きかかえる母親であり、慈愛に満ちた女神そのものです。もっとも本当のところは世界創りに疲れて寝落ちているだけなのですが。ビジュアルが良いとこんなときに得をする、そういうものなのです。