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〈ストーリー〉
「夜だ。みんな、仕事するぞ」
先輩が言うと、くつろいでいたみんなはそれぞれの担当場所に散って作業を始める。
僕の職業は天気職人。雲の上で、明日の空を作る。
そして担当は「雨」。ついこの間異動になったばかりで、その前は「晴れ」を作っていた。
「雨って悲しいよな。僕らが生み出した天気でさ、地上の人たちの気分をどんよりとさせちゃう。やっぱ晴れが良かったな」
一緒に「天気の素」の準備をしている同僚に愚痴を吐いてみる。
「まあ、確かに。俺はずっと雨だからわかんないけど、晴れってどんな感じで作るの?」
「えーっとね、雲を入れたり入れなかったり、あと青の量も多めから少なめまでけっこうあったよ」
へえ、と感心された。ここでは雲をたくさん入れることがほとんどだ。
まずは雨雲の素を機械にたくさん入れて、雨粒も投入。
それから気持ちも織り込むんだけど……。
「気持ちってどうしよう」
隣の同僚に訊く。
「俺は、地上の人たちの涙を隠してくれますようにって祈りながら作るよ」
今度は自分が感嘆する番だった。「すごい」
「まあ先輩の受け売りだけどね」
教えられた通りに気持ちを込め、明日の空色が完成した。
雲の家に帰ると、先に戻っていた同僚が何やら荷物を片付けている。
「え、もしかして雨卒業するの? 異動?」
とびっくりしていると、けらけらと笑った。
「違うよ、地上に帰ってもいいって言われたから、明日から行ってくる。1週間で戻るからさ」
そうか、と理解する。
天気職人は、年に一度だけ地上に帰ることを許されるのだ。
「君はまだ?」
「もうそろそろ1年経つから、あとちょっとかな」
「そっか。楽しみだね」
彼の住処は、たしかヨーロッパと言っていた。
それぞれが持つモニターで現地の空色を確認してみると、どんより曇っている。
「うわあ、曇りだね」
「俺のとこ?」
うん、とうなずく。
「晴れは少ないんだよ、あそこは。いつものことだから」とまた笑う。
僕もそろそろ帰れるかな、とわくわくする気持ちが湧きあがった。
続く