テラーノベル
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対する朱雀は、白虎の余計な一言にチッと小さく舌打ちをすると、バツが悪そうにすっと視線を逸らした。
いつも自信に満ち溢れたその顔に、僅かに「まずい」という文字が見える。
「……なんで……黙ってた」
自分でも驚くほど、低く唸るような声が漏れた。
珍しく、朱雀は押し黙る。あたりに重苦しい沈黙がどろりと漂った。
「なんだなんだ? どぉした鉄拳の巫女。辛気臭いツラしやがって」
「シっ! 白虎様、今は……」
「あん?」
緊迫した空気に気付かない白虎を燕花が嗜めるが、煌の耳にはもう届かない。
「俺が元の世界に戻りたがってる事、知ってたくせに……。なんで嘘を吐いたんだ。なぁ!?」
静まり返った部屋の中で、煌は勢いよく朱雀に詰め寄った。がっちりとその豪奢な襟元を掴んで、至近距離で睨みつける。そして次の瞬間、激情のままに右ストレートを繰り出した。
「うっわ!? お、おい……!」
白虎の驚愕の声。しかし、その拳が朱雀の顔面に届くことはなかった。
ぱしっ、と乾いた音と共に、煌の拳は朱雀の手のひらに受け止められ、その動きを完全に封じられる。
「お主はすぐに手が出るのう」
「……っ、離せ! 一発殴らせろクソ野郎が! 全部わかってて言わなかったお前が悪いだろ!」
「まぁ、そう熱くなるな。怒った顔も可愛らしいが、それでは話し合いにもならんではないか」
朱雀の声はどこまでも穏やかで、しかし捕らえられた腕は万力のようにビクとも動かない。
「……クッ……」
話し合いなんてくそくらえだ。自分の帰るための道を塞いでいる奴の話なんて、本当は一言だって聞きたくない。
それでも、今このまま逆上して我を忘れてしまったら、きっと後悔する。冷静にならなければならない。腹の底で怒りは煮えくり返っているのに、頭の中だけは嫌なほど急速に冷えていく。だが、朱雀の掌の中で握りしめた拳だけは、どうしても緩めることができなかった。
「……チッ。なぁ、白虎……さっき言ったこと、本当なのか?」
煌は朱雀の手を乱暴に振り払い、一歩下がって白虎に尋ねた。
「あ? 元の世界に帰る条件の事か? 俺も詳しく知ってるわけじゃねぇが……。戻る為には俺たち四神全員の『印』が必要だって話は間違いねぇ……。って、あ、あれ? もしかして朱雀……、お前、まさかとは思うが……。コイツに言ってなかったのか?」
白虎がようやく事の重大さに気付いたように、気まずそうに頬を掻く。
「言ってなかった、どころじゃねぇよ。このクソジジイ、自分が帰す方法を握ってるみたいなツラして、俺をいいように足止めしてやがったんだ」
煌の言葉に、部屋の温度がさらに数度下がった。
朱雀は、赤く染まった煌の拳を見つめた後、ふっと自嘲気味に口角を上げた。
黄金の双眸に、いつもの余裕とは違う、ひどく暗く、深い色が混ざり合う。
「……嘘を吐いたつもりは、ないのだがな。わしがお主の『鍵』を握っているのは事実。ただ、四分の一だということを、少々言いそびれただけだ」
「それを世間じゃ『嘘』って言うんだよ!」
相変わらず飄々としていて掴みどころがない。けれど、その底知れなさが、今の煌には酷くもどかしかった。
「なんで……。なんでだよ……っ」
捕まれた腕の奥から、悔しさと困惑がせり上がってくる。なぜ自分を騙すような真似をしたのか。問い詰める煌を、朱雀は吸い込まれそうなほど真摯な、揺るぎない黄金の瞳で見つめ返した。
「……そうでもせねばお主は人の話など聞きもせずに、直ぐにでも他の四神の所へ行ってしまうだろう? あほな白虎の国ならまだしも、青龍、玄武の国は一筋縄ではいかん。お主を危険な目に遭わせたくはなかったのだ。それに――」
朱雀はゆっくりと手を伸ばし、煌の首筋に残る『痕』へとその長い指先を滑らせた。昨夜の沈香の香りが、記憶を乱すように鼻腔を突く。
「一目見て、わしはお主に心を奪われてしまった。……わしの元を去って欲しくなかったんだ」
「っ……!」
あまりにもド直球な、情愛と執着の吐露。
自分を庇おうとする神としての傲慢な優しさと、一人の男としてのあまりに剥き出しな独占欲を同時にぶつけられ、煌の心臓はうるさいほどに跳ね上がった。怒りでカッと熱くなっていた脳内が、今度は別の意味で沸騰しそうになる。
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コメント
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このエピソード、めっちゃ熱かったですね……!朱雀の「言いそぼれただけ」には思わず「いやいや!」ってツッコミ入れそうになりました(笑)でも、あの後の「一目見て心を奪われた」って告白には、怒りで沸騰しかけてた煌くんの頭が別の意味で沸騰しそうになる感じ、めっちゃ共感できます。 なにより、朱雀の「わしの元を去って欲しくなかったんだ」っていう、神としての傲慢さと男としての執着が同時に出てるところ、設定を活かした凄く良いシーンだと思います。BLとしても、センチネルバースの世界観としても、この「鍵」と「印」の仕掛けがどう動くのか、気になって仕方ないです。 煌くんの怒りと困惑、朱雀の真摯だけど狡猾な愛し方、その対比が本当に鮮やかでした。続き、めっちゃ気になります!