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#シリアス
頭の中の思考回路が焼き切れる音がした。
キス。……キス?
相手は天馬くんで、ここは暗い体育倉庫で。
なんで?
そんな疑問が浮かぶのに、不思議なことに
先ほどまで僕を支配していた「閉じ込められた恐怖」が、急速に霧散していくのを感じた。
唇から伝わる彼の体温と、微かに香る制汗剤の匂い。
それが現実の輪郭をはっきりさせ、過去のトラウマを塗りつぶしていく。
混乱しているのに、心地いい。
それが余計に怖くて、僕は震える手で彼の肩を押し返した。
「や、やめっ……」
情けない声。
天馬くんは、弾かれたように顔を離した。
「……っ、ごめん、やりすぎた」
彼は顔を背けたが、隠しきれない耳の先までが真っ赤に染まっているのが分かった。
(やりすぎたって、何が……!?)
パニックの対象が「閉所」から「天馬くん」へとすり替わっただけだった。
僕は返事もできず、ただ熱を持ったままの唇を指先でなぞることしかできない。
◆◇◆◇
それから数分。
僕たちはマットの両端に、申し訳程度に距離を空けて座っていた。
倉庫の中は相変わらず静かだが、今はその静寂が、刺すような気まずさとなって肌を刺す。
僕は膝を抱え、震える声を必死に絞り出した。
「……で、なんでキスしたのでしょうか。というか、意味が分からない…」
自分でも変な喋り方だと思う。
でも他に言葉が出なかった。
思考が飽和状態だ。
天馬くんは気まずそうに視線を泳がせ、やがて投げやりな口調で言った。
「……そこに、水瀬がいたから?」
「……?」
哲学的な答えを求めているわけじゃない。
けれど、彼がいつもの「ふざけた陽キャ」の空気を無理やり纏ったことで
僕の脳も防衛本能的に「これは冗談なんだ」という方向へ舵を切り始めた。
「……そ、そうだ。そうに決まってる」
自分に言い聞かせるように、言葉が溢れ出す。
「天馬くんって優しいし、僕がパニックになってるから、ショック療法的な?なんかこう、意識を逸らして安心させようとしてくれたんだよね。うん、そうだ。さすが天馬くん、友達思いだ…っ」
早口で捲し立て、自分を納得させようとする。
けれど、途中で強烈な違和感にブレーキがかかった。
「……いや、待って。やっぱりおかしいよ。キスで安心させようって、発想が飛躍しすぎてる。だって、男同士だよ……?」
僕がジロリと横目で睨むと、天馬くんはこともなげに、どこか挑戦的な表情で言い放った。
「友達なら、これくらい普通にやるって」
「やるわけないでしょ!?」
思わず立ち上がりそうになる。
「天馬くんが陽キャの極みだっていうのは知ってたけど、友達相手にそこまでフレンドリーなのは、もう文化が違いすぎるというか、なんというか……!」
混乱しすぎて支離滅裂な僕を見て、天馬くんがふっと、それまでの無理な笑顔を消した。
少しだけ自嘲気味に、けれど隠しようのない熱を瞳に宿して。
「……いや。水瀬限定だから」
逃げ場を塞ぐような、即答だった。
「……え」
思考が、完全に停止する。
限定?僕だけに?
困惑で固まる僕の瞳を、彼は真っ直ぐに射抜いた。
その視線は、もう「友達」のそれではない。
「……水瀬が、嫌だって拒否らないなら」
一歩、マットの上で距離を詰められる。
「水瀬のこと、俺だけのもんにしたい。……って言ったら、どうする?」
暗い倉庫の中に、彼の真っ直ぐな告白だけが、熱を持って響き渡った。
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