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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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俺は絶望して言った。


『人間って…… 喉元…… 短すぎじゃね?』


『ウフゥン、旦那様…… ス・テ・キっ!』


『お、おう…… ま、まあな!』


しかし、しかし、しかし、然しなのである!


喉元短いのは…… 自分たちこそ、その謗(そし)りをうけて然る(しかる)べきは我ら、サバンナの勇者こそ、で有るべきだ!

惜しむらくは、俺自身こそが、その際たる物であろう……


あの日、サツキ先輩は言った……


『ご飯の後、口を大きく開いているだけでええんやで? 簡単やんか? やってみそ?』


その、純粋な彼女の言葉に、俺は、何と答えたのだったか? 確か……


『いやいやいやいや、姉さん? 媚び過ぎじゃねっすか?』


であった。


今であれば分かる事がその時の自分には考えも付かない事だった。

人間に媚びる事なんて、水辺の覇者としての誇りを汚す行為だと思っていた。


野生の仲間達にとっての誇りは確かにそうであろう、しかし、自分が特別な存在、凡百の『カバ』ではない『選ばれし者』である事に気が付いていなかったのだ。

意味は知らないが、アーバンでパリシュトゥな場所で暮らす事を許された、謂(い)わば『スーパーカバゴッド』的な立場だった。

そんな超越カバにとっての最大の役割は、常に格上の存在である自分達に憧れや恋慕、期待を込めた視線を向けてくる人間達を喜ばせてやる事であったのだ。


優れた個体に楽しませて貰う、ただその一点のみを得る為に、少なく無い金銭と人手を掛けて、都心の一等地に我らの豪邸を準備しているのである。

健気な物ではないか……


媚びる?


それが何だと言うのか?


ここまで献身的に尽くしてくれている人間を喜ばせる為なら造作も無い事だ。

今ならば簡単に言える事だが、あの時は思う事すら出来なかった。


だが、あの大災害に肩を落とし嘆き悲しみ、ゲンパツジコとやらに絶望し、行く末の恐怖を隠そうともせずに園内を闊歩(かっぽ)する人間達を目にした時、俺は自分の存在意義、人々を元気付ける事を正しく理解したのであった。


そうして、やって来たユイと共に、毎夜毎夜飼育スタッフと監視カメラの目を盗んで、信じられないほどの時間を練習、訓練に当ててきたのだ。

日本中、いや世界中の視線が東京に集まる、五輪開催の日にその特訓の成果をお披露目し、この国の復興に花を添える為に、そう思って心待ちにしていたのである。

ゆえに、その運命の日、Xデーが一年先送りされた事に、又それを何の相談も無く決定した人間の独断に憤慨したのであった。


しかし、その怒りは突然消失する事になった。



冬も終わりに近付いたある日、動物園からおきゃくさんの姿が消えた。

大震災の時でも一ヶ月弱だった休園は、驚く事に四ヶ月もの長期に渡って続いていた。

その間に動物園のスタッフの人間達は、あらゆる場所を消毒して回り、園内のあちらこちらに『密』を避ける為の注意書きを設置して行った。


彼らは口々にある生き物? に対する恐怖を語り合っていた。

その生き物の名は、『シンガタコロナ』と言うらしい。

聞いた事もない生き物だったが、彼らの話しによると、大発生したそいつが世界中の人間相手に、猛威を振るっているらしい事が窺い知れた。


さらにそいつに襲われ無い為に、行政? とかいう人間のリーダー達が表に出る事を、難しい言葉で言えば『外出』を禁じている事も分かった。(※あくまでも自粛要請です)


それらの情報をユイに伝えた所、


『確かぁ? 人間達のシンってゆうのは、新しいって意味だったよ』


まだ若いと言うのに大した物だ、時々感心させられる事がある。

彼女の知識のお蔭で、人間達を戦々恐々とさせている生き物について、理解を深めることができた。

つまり、新しい『ガタコロナ』、ガタコロナという猛獣の新種が現れたと言う事だろう。


大方、新種発見に盛り上がった人間達がその捕獲を試みたのではなかろうか?

その目的は、ここの様な保護施設に連れてきて、俺たちと同じ様に愛でる為なのだろう。

ところが、新種の『ガタコロナ』が想像していたより強かった為に捕獲に失敗、怒った『ガタコロナ』が群れを成して人間達を狙うようになり、その数を増やしていると、こんな所で間違い無いと思われる。


しかし、意識し始めると人間達が発する言葉の、殆ど(ほとんど)全てに『新ガタコロナ』が含まれている事に気が付いた。

無理もないか、何しろ動物園のスタッフなのだから、新発見の珍獣には興味津々にもなろうってもんだろう。

そう考えた俺の予想は、四ヶ月ぶりに園が再開された日に、大挙して訪れたおきゃくさんの会話によって、見事に裏切られる事になった。

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