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学舎設立へのアレックス神父の賛同を得たマリスは、今現在のところで思い描いている構想を語っていた。辺境の魔女と呼ばれはしても、この街のことは神父の方がよく分かっているはずだから、彼の意見を聞いてみたかった。


「こちらに新しい学舎が出来たとしても、通って来るのはこの街の子供達だけでしょう。余裕のある家なら既にイールスへ通わせているはずですし、それが出来ない家庭にとってはイールスでもルシーダでも同じことですから」


近辺の村々からも通学してくることを期待して語るマリスへ、アレックス神父は少しばかり顔を曇らせて訂正する。乗り合い馬車の利用距離の長い短いは関係ない。家によっては馬車の利用そのものが難しいのだと。

また、例え学費が無償であったとしても、実際に通うとなると用意しなければならない物も多い為、近くにあっても全ての子供が通えるとは限らないのが一般領民の現状だ。

当然のことながら、学舎に通わせている間の働き手を失うという意味で、子供を外へ出すのが難しい家庭もある。


「では、最初はそこまで対象を広げることは考えず、ルシーダ内で定着させていくことにしますわ」

「もし規模を広げていこうと考えておられるのなら、大きくするのではなく、小さくても数を増やしていく方が子供達は通い易いと思います」


教会のない町村には簡易祭壇があるように、子供達が学べる学舎にも簡易校舎があっても良い。全ての人が自由に神を信仰できるように、全ての子供達に学びの機会を与えられるよう。


「一般教員については近隣の学舎から人員を回して貰えるようなのですが、魔術教員についてはこれから改めて募集をかけることになります」

「確かに、それは前例がありませんからね」


個人指導ではなく複数の子供を相手に魔術指導をしたことがある人材など、そう滅多にいない。マリスと神父は互いに目を合わせて含み笑った。


「当面は、私達がやるしかありませんね」

「そうですね……」


今も孤児院の魔力持ちの子の指導をしている二人だ、教え子に街の子が何人か加わったところで変わりはない。ただ、既に個人指導を受けている子や、魔力を隠して育てられている子など、ルシーダ内でその魔力教育クラスに通う可能性のある子の数は予測できないでいる。


神父との話し合いで教会の空き部屋を仮の教室として利用することなどが決まると、マリスは応接室を出て隣の建物へと向かった。教会の敷地内に建てられた平屋の孤児院は子供達の賑やかな声が響き渡っている。

廊下を進んで奥から二つ目の部屋の前で、控え目に扉を叩き耳を澄ませる。


「エリーザ。ちょっといいかしら?」


中に向かって声を掛けるが、何の返事もない。仕方なく扉をそっと開いて、子供用の小ぶりなベッドが四台並んだ部屋の中を見回す。女児達に与えられた部屋らしく、棚の上には人形が並び、壁には誰かが描いたらしい鮮やかな花の絵が貼られている。

そこでは幼い少女が一人、窓際のベッドでまるで隠れるように頭まで布団をかぶっていた。


「まだこっちへ来たばかりだから、仕方ないわよね」


ベッドの隅に腰掛けて、布団の上からエリーザの背を撫でながら声を掛ける。可哀そうだとは思うが、ウーノへ戻してやることは出来ない。この子はここでないとダメなのだから。


「知らない子ばっかりなんだもん……エリー、ここでは独りぼっち」

「あら、みんなが仲間に入れてくれないの? ここの子達は意地悪なのかしら? そうだとしたら、困ったわね……」


神父様に相談しないといけないわね、というマリスのわざとらしい呟きに、エリーザは思いも寄らなかったのだろう、慌てたように布団を押しのけて顔を出した。


「そんなことないっ。意地悪なんか、されてないよ。みんな、いろいろ話し掛けてくれたりしてるもん」

「そう、なら良かったわ。じゃあ、その内に仲良しになれそうね」


自分から顔を見せてくれたエリーザに、マリスは満足気に微笑んでみせる。まだ寂しい気持ちが大きいようだが、別にここの院のことが嫌という訳ではなさそうだ。


「そうそう、今度、ここの教会に新しく学舎を作ることが決まりそうなの。勿論、エリーザもみんなと一緒に通ってくれるわよね?」

「学舎って、中央街にあるっていうお勉強するところ?」

「そうよ。しかも、ここのは特別で、魔女になる為の勉強も出来るクラスがあるのよ」


エリーザもそのクラスに入れるのよと伝えると、幼い瞳が一気に期待に満ち始める。特別と魔女の二つのキーワードが、転院で塞ぎ込んでいた少女へ新しい楽しみを生み出したようだ。


「でも、まだこのことは皆には言ってないのよね。だから、エリーから伝えてくれると助かるんだけど」

「うん! エリーがみんなに教えてあげてくる!」


ベッドから飛び降りると、少女は部屋を勢いよく駆け出ていく。その元気な後ろ姿を見送りながら、マリスは子供の切り替えの早さに圧倒されていた。

廊下の向こうからは、「ねえ、ねえ、聞いて聞いてー」というエリーザの声が聞こえてくる。

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