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Q太♀です…。
Q太♀の二次創作がゼロで死にかけてて、じゃあ自分で書いて仕舞えばいいじゃないか!となったので書きます。
余談ですが私はQのことを勝手に女の子だと思っています。理由は男の娘みたいな女の子が大好きだからです(自論暴論)
窓のない部屋の隅で、夢野久作は呪いの人形を抱きしめていた。
白と黒に綺麗に分かれた髪を揺らし、星と円の形をした風変わりな瞳で、ただ一枚の鉄の扉を見つめている。
ここはポートマフィアの最深部。光すら這入るのを躊躇うような、冷たい座敷牢だ。
夢野久作という存在をこの世に繋ぎ止めるのは、抱えた人形の不気味な感触と、いつかここを開けてくれる「あの人」の記憶だけだった。
あの人――太宰治は、マフィアの最年少幹部であり、久作をこの地獄へ閉じ込めた張本人でもある。
久作の持つ異能『ドグラ・マグラ』は、他者に精神変調をもたらし、自傷と破壊の渦に叩き込む最悪の呪いだ。そのあまりの危険性ゆえに、太宰の『人間失格』という無効化の異能がなければ、久作は一歩も外へ出ることを許されない。
けれど、久作にとって太宰は、自由を奪った怨敵であると同時に、唯一無二の光だった。
太宰がその白く、包帯の巻かれた手で久作に触れるとき、世界を満たすドス黒い呪詛の霧は綺麗に消え去る。頭を掻きむしりたくなるような狂気の痛みが、嘘のように引いていく。その瞬間の安らぎが、久作に奇妙な感情を植え付けていた。
それは、一般に「恋」と呼ばれるものによく似ていた。
いや、それよりももっと歪で、もっと必死な、縋るような何かだった。
「ねえ、太宰さん。今日は僕に、どんなお話をしてくれるの?」
鉄の扉が重々しい音を立てて開いたとき、久作は弾かれたように跳び起きた。人形の頭をきつく握り締め、満面の笑みを浮かべて駆け寄る。
現れた太宰は、黒い外套を肩にかけ、相変わらず片目を包帯で隠したまま、ひどく退屈そうな顔をしていた。
「話すことなんて何もないよ、Q。私はただの定期見回りだ。君がここで大人しく腐っているか、確認しに来ただけさ」
太宰の声は、いつだって驚くほど冷ややかだ。子供をあやすような優しさは微塵もない。
それでも久作は嬉しかった。太宰が自分を見ている。その冷徹な瞳の中に、自分の姿が映っている。それだけで、胸の奥がじりじりと熱くなった。
久作の性別を、太宰は知らない。
このマフィアにおいて、Qという少年の姿をした異能者の「中身」が男であるか女であるかなど、誰も興味を持たなかった。衣服に隠された身体の線は細く、声は幼く高い。一人称はいつも「僕」だ。太宰もまた、あえてそれを詮索しようとはしなかった。彼にとって重要組織の「戦略兵器」としての価値であり、それ以上の個人情報など、道端の石転びの組成を調べるようなものだったからだ。
しかし、久作の側は違った。
「僕」という枠組みの中に閉じこもりながらも、太宰を見る自分の視線が、単なる懐古や依存ではないことに気づいていた。
太宰が歩くたびに揺れる外套の裾、時折首元からのぞく白い肌、死を渇望している特有の昏い色気。それらすべてに、狂おしいほどに惹かれていた。男として好きなのか、女として求めているのか、そんな明確な区別すらつかないほどに、久作の心は太宰という存在そのものに恋をしていた。
「冷たいなあ。僕は、太宰さんが来てくれるのを、ずうっと待っていたのに」
久作はわざとらしく唇を尖らせ、太宰の外套の袖を掴もうと手を伸ばした。
だが、その手が触れる直前、太宰はひらりと身を翻してそれをかわした。
「おっと、許可なく触ろうとしないでくれ。君の呪いは、今の私には少々、鬱陶しい」
「ちぇっ。太宰さんが触ってくれたら、僕、もっといい子にしてあげるのに」
人形をわざとらしく振り回しながら、久作は太宰の顔色を窺った。
太宰は表情を崩さない。底の知れない硝子玉のような琥珀色の瞳で、ただ久作を見下ろしている。
実は、太宰は気づいていた。
久作が自分に向ける、その異様なほどに熱を帯びた視線の正体に。それが単なる恐怖の裏返しでも、懐柔のための甘えでもなく、一人の人間としての、狂信的なまでの「片思い」であるということに。
太宰の明晰すぎる頭脳は、久作の些細な呼吸の乱れや、瞳の揺らぎ、言葉の裏に隠された必死な情念を、いとも容易く看破していた。
気づいていながら、太宰はあえて何も言わなかった。
「君のその感情は、私には届かないよ」と突き放すこともしなければ、「可愛いね」と受け入れる仕草もしない。
ただ、徹底的な「不在」としてそこに佇んでいる。
なぜなら、太宰にとって久作の想いは、あまりにも重く、そしてあまりにも無意味だったからだ。
もしここで久作の想いを拒絶すれば、この不安定な人形は完全に壊れ、マフィアの街を文字通り血の海に変えるだろう。逆に、その想いを利用して優しくしてやれば、久作はさらに深く太宰に依存し、いつか太宰の命そのものを巻き込んで心中を図ろうとするかもしれない。
だからこそ、太宰は「気づかない振り」を完璧に演じ続けていた。それがこの歪な関係性を維持するための、最も効率的で、最も残酷な最適解だった。
「太宰さん、太宰さん。あのね、昨日ね、夢を見たんだ」
久作は、太宰が何も言ってくれないことを分かっていながら、必死に言葉を紡ぐ。
沈黙が恐ろしかった。太宰がここから立ち去ってしまうことが、何よりも怖かった。
「どんな夢だい」
太宰は壁に背を預け、ポケットに手を突っ込んだまま、気のない返事をした。その声のトーン一つとっても、相手に一切の期待を抱かせないための計算が成り立っている。
「世界中の人が、みんな死んじゃう夢。痛くて、苦しくて、みんな泣き叫んでいるの。でもね、その真ん中で、太宰さんと僕だけが、手を繋いで笑っているんだ。太宰さんが僕の頭を撫でて、よく頑張ったねって言ってくれるの。……素敵な夢でしょう?」
星型の瞳を爛々と輝かせながら語る久作は、狂気と無垢が同居した、恐るべき子供の姿そのものだった。
だが、その言葉の奥にある願いは、あまりにも切実だった。
世界なんてどうなってもいい。ただ、あなたに認められたい。あなたに触れられたい。その一念だけで、久作はこの暗闇を生きていた。
太宰は、ふっと小さく息を漏らした。それは笑みというにはあまりにも冷たく、溜息というにはあまりにも平坦だった。
「それは、随分と悪趣味な夢だね。世界が滅びるとき、私が君の隣にいるはずがないじゃないか。私はね、もっと綺麗で、苦しくない死に方を探しているんだよ。君の呪いに巻き込まれて死ぬなんて、真っ平御免だ」
「ひどいなあ! 僕は太宰さんと一緒なら、どんな死に方だっていいのに!」
久作は声を弾ませて言った。冗談めかした口調の裏に、本気度をこれでもかと詰め込んで。
太宰はそれを、正面から受け流す。
「私は嫌だね。何より、君と手を繋ぐ理由がマフィアの仕事以外に見当たらない」
その言葉は、久作の胸に鋭い針のように突き刺さる。
太宰はいつもそうだ。どれだけ久作が感情を揺さぶり、境界線を越えようとしても、ガラスの壁が一枚隔てられているかのように、絶対にその内側へ入れてはくれない。
(ねえ、太宰さん。本当は分かっているんでしょう?)
久作は心の中で、届かない問いかけを繰り返す。
太宰治という女が、他人の感情にこれほどまでに鈍感なはずがない。自分の視線が、呼吸が、何を求めているか、あの聡明な幹部が気づいていないはずがないのだ。
分かっていて、あえて踏み込ませないように、冷たい言葉の盾を構えている。
その事実が、久作をたまらなく愛おしくさせ、同時に、発狂しそうなほどの絶望へといざなう。
「ねえ、太宰さんは、僕のこと、男の子だと思う? それとも、女の子だと思う?」
唐突に、久作はそんな質問を口にした。
抱きしめた人形の顔が、久作の歪んだ笑みと重なる。
太宰はわずかに眉を動かしたが、すぐにいつもの退屈そうな表情に戻った。
「さあね。興味がないから考えたこともないよ。君がどちらであろうと、ポートマフィアの『Q』であることに変わりはない。首領の命令に従い、敵を呪い殺す生体兵器。それが君のすべてだ。性別なんて、その道具の装飾に過ぎないよ」
冷酷な、完璧なまでの模範解答だった。
久作がどんなに内面を曝け出そうとしても、太宰はそれを「組織の部品」という枠組みに押し戻す。
「あはは! やっぱり太宰さんは凄いなあ。僕の体なんて、どうでもいいんだね」
久作は笑った。笑いながら、人形の喉元に仕込まれた剃刀を、自分の指先でそっとなぞる。
小さな痛みが走り、一滴の赤い血が人形の白い布を汚した。
「ねぇ、何してるの」
太宰の声に、初めて明確な不快感が混じった。
久作の血が流れ、それが他者の悪意によって刺激されれば、異能が暴走しかねない。太宰は足早に久作へ近づくと、その細い手首を容赦なく掴んだ。
肌と肌が触れ合う。
その瞬間、久作の脳内に響き渡っていた、世界のあらゆる雑音が静まった。
太宰の『人間失格』が、久作の異能を、そしてその身に宿る呪いを、一瞬にして押さえつける。
「……あ」
久作の口から、小さな吐息が漏れた。
手首を掴む太宰の手は、驚くほど力強く、そして冷たい。けれど、久作にとってはどんな暖炉の火よりも温かく感じられた。
太宰の顔が、すぐ目の前にある。片目で自分を睨みつけるその表情に、久作は陶酔した。
(あぁ、やっぱり。太宰さんは、僕をちゃんと見てくれている)
暴走を止めるためという、事務的な理由であっても構わなかった。こうして自分に触れ、自分を縛り付けてくれるのは、世界中で太宰治だけなのだから。
太宰は久作の手から人形を奪い取り、床に放り投げた。そして、掴んだ手首をじっと見つめる。
久作の手首は、同年代の少年にしても、あまりにも細く、繊細だった。衣服の隙間から見える肌の質感や、掴んだときの骨の脆さは、どこか少女のような危うさを孕んでいる。
太宰の頭脳なら、この瞬間の感触だけで、久作の本当の性別を推測することなど容易だったはずだ。
けれど、太宰は何も言わなかった。
その瞳に一瞬だけ浮かんだ深い思考の光を、すぐに包帯の奥へと隠し、ただ冷ややかに手首を放した。
「自傷行為で私を呼ぶのは、次からは無しにしてくれ。幹部は君の我儘に付き合うほど暇ではないんだ」
太宰は衣服の乱れを整えるように外套を翻し、鉄の扉へと歩き出す。
「待って! もう行っちゃうの?」
久作は床に這いつくばったまま、去りゆく太宰の背中に向かって手を伸ばした。
行かないでほしい。もっとその冷たい手で、僕を組み伏せてほしい。僕のすべてを、あなたの異能で塗りつぶしてほしい。
扉の前に立った太宰は、振り返ることはしなかった。
ただ、ドアノブに手をかけたまま、背中で語るように静かに言った。
「大人しくしているんだよ、Q。君が有能な道具である限り、私はまたここに来る。……それだけだ」
カチャリ、と重い鉄の扉が閉まり、鍵が閉まる音が響く。
部屋は再び、完全な暗闇と沈黙に包まれた。
久作は床に転がった人形を拾い上げ、愛おしそうに胸に抱いた。
先ほど太宰に掴まれた手首には、まだ微かに、彼の指の感触が残っているような気がした。
「道具、か……」
久作は暗闇の中で、一人呟いた。
太宰が自分の想いに気づいていることも、それを徹底的に無視していることも、すべて分かっている。太宰は決して、久作の愛を受け入れない。気づかない振りをすることで、久作をこの部屋に、マフィアの鎖に繋ぎ止め続けているのだ。
それはあまりにも残虐な仕打ちだった。
けれど、久作にとっては、それこそが太宰から与えられた唯一の「絆」だった。
気づいていながら何も言わないという太宰の沈黙は、裏を返せば、久作の狂気を受け流し、生かし続けるための、彼なりの特別な扱いであるとも言えた。
「いいよ、太宰さん。何だっていい。僕が男の子でも、女の子でも、ただの人形でも」
久作は星の瞳を細め、誰もいない扉に向かって、甘く、歪んだ笑みを向けた。
「あなたが僕をここに閉じ込めて、僕の呪いを止めてくれるなら。僕はいくらでも、あなたの最高の人形になってあげる」
叶うことのない片思い。それを知りながらも、久作の胸に灯った昏い炎は、消えるどころか益々激しく燃え盛っていく。
窓のない座敷牢の中で、夢野久作は今日も、太宰治という名の底なしの沼に、深く、深く、沈んでいくのだった。
コメント
5件
久作ッッッ見た目のわりに歪んでて可愛い(?) (・∀・)イイネ!!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
うわ、これ重くて美しくてたまらん話だった…! Q太♀(という解釈)の久作の、太宰への執着が完全に恋愛の形しててグッときた。特に「道具」って言われても笑って受け入れるとこ、ヤバいほど刺さる…。太宰は絶対気づいてて、あえて距離置いてるんだよな。その計算高い優しさと残酷さのバランスが天才的。久作の性別が曖昧なままだからこそ、「太宰に恋する存在」としてのアイデンティティが際立ってて、それがもう最高だった。続き待ってる🔥
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