ついに俪杏は「徳州扒鶏の店」という所に辿り着く。
「いらっしゃい!」
30代くらいで腕の太い男性が話しかけてきた。
大きい……!!
俪杏が半ばびっくりしていると、その男性は俪杏の心を探るように「徳州扒鶏なら銀幣4枚になるよ」と答えた。
銀幣4枚って、つまり銅幣40枚ってことだよね!?
もしや杏仁豆腐を買ってしまったから!?
いや、ってか元から銅幣そんなに持ってないし!!
「あの……」
「ちょっと待ってくださいねっ!!」
1、2、3、4、5、6……やっぱ6枚しかないっ!?
これは一回、家に戻るべきか……いや、でも二往復はしたくないしなあ……。
「んーーーー!!」
「あの、お嬢さん、何かお困りですかね?」
俪杏は突然声を掛けられ、俯いた顔を上げる。
そこには、少し太った優しそうな男性が居た。
全然気がつかなかった。
……とりあえず、今までのことを話しておこう。
何かしてくれるかもしれない。
「……って訳なんです」
「ほう、つまりお金が欲しいと?」
「です」
男性は「はっはっは」と高笑いしながら手を引っ張る。
「こっちへおいで」
ま、まさかっ!! 誘拐っ!?
「わ、私を連れてどうするつもりですかっ!!確かに私は杏仁豆腐を食べました!!それも2つ食べました!!」
「いや聞いてないから。それより、やってもらいたいことがあるんだ」
「やってもらいたいこと……?」
一体、何だろう。
いつの間にか、2人は暗い裏道に入っていた。
「ここ。さ、入って」
男性はそう言い扉を開ける。
そこは、古びた看板で「衣服屋 芳(イフクヤ ファン)」と書かれた店だった。
芳とは、この人の名前だろうか。
とりあえず中に入ってみよう。
中は広いとは言えないが、造りはしっかりとしていて、様々な種類の満州服が置かれていた。
すごい……。
「ちょっと待っててね」
そう言って、男性は奥の方へと入っていった。
しばらくすると、何かの衣装を持って戻ってきた。
「じゃーん!」
男性は、そう言って自信満々に、その衣装をこちらに見せる。
その衣装は、詰襟で横に深いスリットが入った赤い衣装だった。
「それ、何ですか……?」
初めて見る衣装に、俪杏は不安を覚える。
「初めて見るもんね。……これはねー、中国初の衣装、中華風ドレスだよ!!」
「ドレ……ス……? って、西洋の衣装じゃ……」
「そうだね。まあ、詳しく言えば、西洋のドレスを真似て作ったって感じかな。……それで、お願いがあるんです!! この衣装を着て、宣伝をしていただけませんかっ!!」
男性は、とても必死だった。
「でも……」
ドレス?を着る勇気なんてないし、一人だけ、その服装っていうのも恥ずかしい。
「やっていただけたら、銀幣60枚を差し上げます!!」
「銀幣60枚っ!?」
やってもいいかも。
すぐ終わることだろうし、これをやれば、さっき買えなかった徳州扒鶏も買えるってことだよねっ!
それに、ちょっと着てみたい気持ちもあるから……。
「やりますっ!! いえ、やらせてくださいっ!!」
「本当にっ!? いやー、よかった、君みたいな可愛い子供を探してたんだよ。きっと中国製のドレスは人気が出ること間違いなしだな!!」
少し大げさな気もするが、本当にそうなるのかもしれない。
この清潔感のある服装は、今までの衣装とは違ってきっと人気の出ることだろう。
不安混じりに楽しみでもある俪杏なのだった。
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