「ふぅ。…そんな心配そうに見つめなくても、私は大丈夫よ」
2回の吸血行動の後、ミルキィは心配そうに見つめるレビンにそう伝えた。
心配されるのが嫌なのではなく、見つめられるとレベルドレインとは別の意味で動悸がしそうになるからだ。
「大切(な幼馴染)なんだから、心配するに決まってるよ」
(た、た、た、た、たい、大切!?)
「えっ!?やっぱりどこかおかしいの!?とりあえずこれを飲んで!」
顔を急激に真っ赤にして動揺しだしたミルキィを見て、レビンはやっぱりおかしいと、水を勧めた。
「ば、バカッ!!ここは放っておくところよ!」
「えっ!?そ、そうなの?」
よくわからないが大丈夫との事で、レビンは大人しく身を引いた。
(これはしつこくすると機嫌を損ねるやつだ…)
流石幼馴染である。
元々、二人は行けるところまでダンジョンを深く潜り、レベル上げを行おうと思っていた。
しかし、安全度や効率を考えた結果、ここで粘る事に決めたのだ。
本日の目標値までレベルアップを終了した時、入り口からかなり近い場所だったので街に帰るのかと思いきや、どうやら二人はダンジョン内に泊まるつもりのようだ。
「ここでなら安全に野営訓練が出来るよね」
「そうね。いきなり強い魔物が出る階層で寝泊まりするのは怖いものね」
ここは今まで二人が野営してきたところとは違う。
まずは日が沈まないこと。これだけで自律神経に乱れが生じ、疲れやすくなり集中力もかなり削がれることだろう。
そういったものに慣れてから先に進んだ方がいいと、レビン改め二人は判断したようだ。
冒険は好きだが無謀は嫌う。レビンはミルキィを守る為に少し保守的な考えになっているようだった。
そして2日後。
「『レベル60』になったね!ゴブリンの物とはいえ、魔石もかなりの数になっているし、本格的にダンジョンを進めるよ!」
「ええ。かなり強くなれたと思うわ!ところで…レビンのレベルは?」
今まではミルキィのレベルを60に上げる事だけを考えて行動してきていた。その為、ミルキィはレビンのレベルを把握していなかった。
「今の表示は『レベル4』だね」
「じゃあまだ掛かるわね」
確認の為に時々タグに血を垂らしていた為すぐにわかったが、その表記はレベル7の表記ではなかった。
「それなんだけどさ。今の僕らの強さなら少し先に進んでも大丈夫だと思うんだ。だからこの先でチャチャっとレベル7まであげたいんだけど。どうかな?」
「いいわね。早く出れるなら私は賛成よ」
レビンの意見に基本賛成のミルキィだが、今回はそれだけではない。水が少ない為、身体を拭くことがままならない今の状況から脱したいと思っていたのだ。
気になる異性の前だと女子は大変なのである。異論は認めない。
レビンはレビンで、この2日間でダンジョンに慣れた事から、安全を確認しながらであれば先へ進めると自信をつけていた。
決まるが早いか、早速太陽の方角へと走り出す二人。
「走っている感覚じゃないわね…歩く速度の延長という感じかしら?」
「そうだね。それも無理している訳じゃないのにね!」
計算上、ミルキィは漸くレベル30の時のレビンの身体能力に追いついたことになる。
(これまで私に合わせてくれていたのね……そして今も。ありがとう、レビン)
レビンは生まれた時からミルキィに合わせていた。
しかし、それはミルキィも同じだ。
(良かった。僕がしたくてレベル上げをしていたけど、喜んでくれて。いつも合わせてもらってばかりだな…何かお礼をしなくちゃ)
お互いがお互いを想い合える二人には、この先様々な出来事が待ち受ける。はず……
しかし、これからも想い合うことが出来れば、どんな障害であっても乗り越えられるだろう。この二人であれば。
「あれ?森のままだね」
二時間ほど森を奥に進むと、二人は一瞬光に包まれた。
その現象がダンジョンの次の層へと進んだ合図だと聞いていた為、景色が変わらなかった事に少し戸惑いを覚える。
「そうね。光のカーテンとはよく言ったものね。近づくまで森が続いていたのに、目の前に着いたら先が見えなくなっていたものね」
「うん。それは聞いていた通りだったんだけど…風景や環境が変わるから気をつけろって脅されてたから拍子抜けかな…」
それを聞いてミルキィは(こんな未知の場所でも楽しめるなんて…)と、少し呆れていた。
「よし。ここの敵がどれくらいのモノか試そうか」
「ええ。油断は禁物よ?」
その言葉に、強くなった自身の力を早く試したいと思っていたレビンは……
(!!僕が気をつけなきゃ)
これまでのレベルアップでの高揚感の影響で、少しおかしくなっていた気持ちを落ち着かせた。
そんなレビン達だが、敵はすぐそばにいた。
「!?ミルキィ!伏せて!!」
バシュッ
「えっ!?キャーー!!」
二人を襲ったのは、木の上にいた体長2mはある蜘蛛だった。
ミルキィは悲鳴をあげたが、それは蜘蛛が放った糸による攻撃にではなく、蜘蛛の見た目に対してのものだった。
「えっ!?気持ち悪いわっ!!」
「確かに気持ち悪い見た目だね…」
二人の故郷に蜘蛛型の魔物は現れない。
二人が見慣れた蜘蛛なんて、大きくても3センチくらいのものであり、ここまで大きいと見たくないところまで細かく見えてしまっていた。
「ミルキィは他に注意していて!僕がやるよ!」
レビンが漢気を見せ、自身の大切な剣で斬りかかりたくない相手ではあるが、その思いに蓋をして、大蜘蛛の魔物へと斬り掛かっていく。
ザシュッ
蜘蛛はそこそこ機敏な動きを見せたが、今のレビンの速さには到底ついていけていない。
蜘蛛の背後を取ったレビンは、細くなっているお腹の継ぎ目のようなところを一閃した。
『ギチギチギチッ』
身体を両断された蜘蛛は、暫くその牙を鳴らしながら最後の威嚇をしていたが、何事もなかったかのように事切れた。
「これから魔石を取るのか…」
「レビン…お願い…」
ミルキィのお願いとは何なのか。
自分は解体出来ないから頼んでいるのか、それとも解体自体を見たくなく、更には想像もしたくなくて、魔石を諦めろと言っているのか…
「ごめんね。でもこれが仕事だから…」
そう宣告すると、レビンは意を決して解体用のナイフを使い、蜘蛛を解体していった。
「イヤーーーーッ!?」
その後、ミルキィの悲鳴が何度か森に木霊したところで、あるモノと二度目の邂逅を果たす。
「次の階層だね!」
光のカーテンが二人の前にはあった。
「…えぇ。ごめんなさい。何も出来なくて…」うっぷ
ミルキィは何も出来ない上に、水分を多量に消費していた。
「仕方ないよ。こればかりは慣れだよね」
最初こそ尻込んでいたレビンだが、すでに慣れていた。野生児レビン恐るべし……
「次は…遺跡?」
まだ敵が弱くレベルアップの効率が悪いと考えたレビン達は、次の層へとやって来ていた。
ミルキィが賛成した理由が、効率ではない事は間違いない。
「そうね…屋根はないけど…所々に壁があるから迷いそうね」
「うん。子供の頃に地面に描いてた迷路を思い出すね」
そんな事をしていたのはレビンだけだろう。同年代の子供が二人しかいないからわからないが。
「蜘蛛も楽勝だったからここでもまだまだ余裕だと思うけど、何が出るかわからないから気をつけて進もう」
「ええ。私も協力出来たら良いのだけど…」
すっかり自信を無くしたミルキィを気遣い、レビンは笑顔で先を促した。
二人がいるダンジョンというところは、奥に進むに連れて敵の強さが強くなる事は周知の事実である。
そして強い敵と戦う事が、レベルアップへの近道である事も。
「しっ。いたよ」
壁に身を隠しながら先を覗いたレビンが、手を伸ばしミルキィの前進を止める。
「どんな魔物なの?」
小声で聞き返したミルキィ。
「デカいヘビの魔物だよ」
「…………」
それを聞いたミルキィは何も言えなくなった。
ミルキィがそもそも普通の蛇を苦手にしていた事をレビンは知っている。その為……
「大丈夫だよ。ミルキィはこっちから魔物が来ないようにしてくれていたらいいから。ね?お願い出来るかな?」
「…ええ。ごめんね」
「良いんだよ。苦手な事は誰にでもあるから。僕の苦手な事はミルキィに任せるから、覚悟しててね」
そう言ってミルキィに笑いかけると、レビンは剣を抜き、未だ二人に気付いていない魔物に向かっていった。
「しっ!」
ザシュッ
蛇の長さは5mほど。胴体はレビンの太ももよりも二回りほど太い。
その長い胴体を斬りつけられるまで、蛇がレビンに気付くことはなかった。
「浅かったか…」
『シャーーッ』
攻撃を受けた蛇の魔物は臨戦体制を取るが、半ばまで断ち切られた胴体がいうことを聞かない。
先程の斬撃では断ち切れなかったが、手応えを感じたレビンは……
「くらえっ!」
シュン!
先程より深く、そして力強く剣を振りきった。
ボトッ
『キシャーーッ!?』
最初に斬られたところとは違うところで身体を切断された蛇の魔物はのたうち回る。
バタバタッビチッビチ……
そして、その動きは静かに止まったのだった。
それを最後まで見届けたレビンは、すっかり慣れ始めた高揚感を感じていた。
「やったわね!他に魔物は来なかったわ」
ミルキィが声を掛けるまでその高揚感に浸っていたレビンは、焦ったように声を上げる。
「しまった!!」
蛇の魔物は時間切れにより、消失していた。
「ごめんなさい。気持ち悪くて消えるまで声をかけられなかったの…」
美しくも儚い少女が涙目の上目遣いでそんな風に謝ってきたら、レビンでなくとも大概の男は許すだろう。
「また倒せばいいよ。それよりもレベルが上がったよ!」
「やったわね!…じゃあ、ここでレベル上げをするの…?」
それはやめて欲しい…そう思っているミルキィへと、レビンは元気よく答える。
「うん!なるべく早く済ませるね!」
今度の上目遣いはスルーされた。
可愛くとも、何でも許されるわけではないのだった。
レベル
レビン:5→3(51)→4→5(65)
ミルキィ:46→48→60
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