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「なるほどな・・・。正直お前に会社を救ってもらうなんて夢にも思わなかったからな。あの時はお前をあのまま結婚させることで会社もお前も救うと思ってた」
「オレを救うって・・・?」
あの時の麻弥ちゃんのことだよね・・・。
ホントは麻弥ちゃんと結婚すれば会社は安泰だったはずだから・・・。
だけど、樹も・・・?
「私と母さんは幸せな結婚生活を送れたとは決して言えなかった。だから、お前には同じ道を歩んでほしくなかったんだ」
きっとそれは社長が親として思いやった愛情。
「だからって、望まない結婚させられたら意味がない」
だけど、樹は社長の言葉に少し強く反論する。
「樹。それはあなたが今大切に想える相手が出来たから言えるんじゃないかしら?」
「母さん、それどういう意味・・?」
「以前までのあなたはどうだった?本当に誰か一人でも大切に想える女性はいた?一生共にしたいと思えるほど愛しく想えた女性はいた?」
「いや・・それは・・・」
「だからなのよ、樹」
「え・・?」
「あなたにはそういう相手が今まで現れなかった。それならせめて、樹のずっと側で支えてくれて想ってくれる女性をパートナーにとお父さんは思ったんじゃないかしら」
「そうなの・・?親父」
「あぁ・・。そういう存在が側で支えてくれていたのなら、お前も変われるんじゃないかと思ってな。いつかそういう相手が現れたとしても、私のような後悔はしてほしくなかった」
そっか・・・。
やっぱり社長はずっと樹の幸せを願ってたんだ。
自分たちみたいに離れてしまわなきゃいけないツラさを、きっと樹には味わってほしくなかった。
きっとそれが親としての愛情なんだよね。
自分の子供には幸せになってほしい。
ただそう願ってただけなのかもしれない。
「だけど。オレは今誰より大切で何があっても守りたい人がいる。一生一緒に生きて行きたい。一緒にいられるならオレは何もかも捨てても構わない。彼女を・・透子を幸せにしたい」
樹は私の方を見ながら力強く言い切る。
その目は決してひるまず、ブレることなく、まっすぐに。
何よりも嬉しいその言葉を、その想いを、ただまっすぐに。
「そんな考えで・・お前は本当に幸せに出来ると思ってるのか・・?」
だけど、その樹の言葉に冷静に静かに、呆れたような素振りをしながら社長は言葉を返す。
やっぱりどうやったって受け入れてもらえないってことなのかな・・・。
もう仕方ないのかもしれない。
二人の痛いくらい樹への想いをもう知ってしまったから。
きっと樹ももうそれを充分わかってる。
今まで厳しくされたことも、離れてた時間も、親として二人にしてもらったすべてのことを、きっと今はそれが樹への愛だったということに気付いてるはず。
お互いがお互いを想って、それぞれちゃんと伝えられなくて。
それは少しずつ掛け違ったボタンのように、ずっと誤解したまますれ違っていただけ。
だけど。
両親の愛情をそこまで知った状態ででも、樹は私への想いを貫こうとしてくれた。
それだけでもう充分だ。
私はこんなに深い愛情を裏切ってまで、樹を手にするなんて出来ない。
ただ今は、その想いを知れただけで、幸せだと思えるから。
「何もかも捨てて?そんな責任も取れないような、男としてどうしようもないそんないい加減な状態で、幸せに出来るはずがないだろう」
樹の言葉を待つことなく、次々と冷静に現実を突きつける社長の言葉。
そうだよね・・。
そんな希望も何もない将来をわかってて祝福してくれるはずがない。
さすがに樹も、その言葉を受け入れるしかなかったのか、そのまま何も言えないでいる。
何があっても気持ちを貫こうとしてくれて、樹は私をご両親二人に紹介してくれた。
だけど、今初めて知るご両親の大きな愛情。
樹にとってずっと引っ掛かっていた家族との関係。
だけど、今お互いちゃんと向き合って、心を見せていくことで、一つずつ取り戻して行く家族の絆。
それを乗り越えていってる樹にも、きっと少しずつ答えは出始めてる。