私はあの日、溺れるような甘い恋をした。
今もそれは変わらない。あの時のことは、一生忘れられない思い出となった。
登場人物紹介
・刹那李 菜夢(せつない なむ)説明:絵が上手で勉強もできる。悠に片想い中。風歌と親友。
・片虎 悠(かたとら ゆう)説明:勉強もスポーツも優秀。女の子全員に冷たい。でも、菜夢にだけは…?晴翔の幼馴染。
・恋夏 風歌(こいか ふうか)説明:スポーツは上手いけど勉強はそこそこ。菜夢が悠のことを好きなのを知っている。恋愛経験者で今は彼氏はいない。菜夢の親友。
・柄内 晴翔(つかない はると)説明:スポーツはとても上手だが、勉強は壊滅的。女の子からは太陽のような人だと思われている。悠の幼馴染。
菜夢side
突然ですが、私は片虎くんのことが好き。
話したことはないけれど、とてもクールでかっこいいのだ。
片虎くんは、女の子全員に冷たい。だから私もイヤな気持ちになりたくないから話しかけない。
それが2人の幸せだと思う。私も眺めているだけで十分。前までは。
私が片虎くんを好きになった理由は、ある放課後の時だった。
私が学校に忘れ物をしたのだ。急いで教室に入ろうとした時、誰かいることに気がついてそっと物陰に身を潜めた。人影が一瞬、片虎くんの物に見えたから。そして案の定、片虎くんが教室の中にいた。
私はこの時から少し片虎くんが気になっていた。
どうしよう。入りずらいな…。
そう思っていたら、片虎くんは学級文庫の本を綺麗に並べたり、みんなの集めたノートを綺麗に整えたり、教室の小さなところを綺麗に直してくれていた。
片虎くん、優しいんだな。
私は片虎くんのことがもっと好きになった。
私は思い切って教室に入った。片虎くんは少しびっくりしていたが、そのあとすぐにいつものクールな調子に戻った。そして教室を出ようとしていた。
私はお礼が言いたかった。いつも教室を綺麗にしてくれてありがとう。それだけでもいいから言いたかった。
でも、片虎くんは迷惑だよね。それでもありがとうって言いたい。そう心の中で矛盾した気持ちが渦を作っていた時、
「今の、見てたろ」
片虎くんはそう口にした。え!?片虎くんから話しかけてきた!?私の心の中は大パニック!
「う…ん…」
この言葉を絞り出したのでやっとだった。
「さっきのこと、誰にもいうなよ」
いうわけないじゃん。だって誰かに言ってしまったら、片虎くんのこと絶対好きになる。
……私みたいに。
そう、私はもうこの時から片虎くんが好きになっていた。優しい一面を知ったことだけじゃない。
凛とした透き通った声。整った顔。少しだけふわっとした髪。鋭いけれど優しさを隠しきれていない瞳。
片虎くんの全てがとても愛おしく見えた。恋は盲目って本当だな。
「ありがとう…」
言いたかった言葉が言えて、少しだけホッとする。ありがとうだけだけど言えてよかった…
「…」
片虎くんは何も言わずに行ってしまった。残念な気持ちと嬉しい気持ちが入り混じって、よくわからない。
でも、片虎くんと会話(会話と言っていいかわからないけど)ができたことに喜びを感じていた。
まあ、私の初恋はこんな感じ。その時に感じた気持ちは今も昔も変わらない。
あれからは、ちょっとした会話ぐらいなら片虎くんと話せるようになった。それもこれも…
「な〜む〜!!!」
「風歌ちゃん!」
風歌ちゃんが私をギュッと抱きしめてくれた。この子は私の大親友で、スポーツ万能な風歌ちゃん!
私の片思いを知っている唯一の人。それに風歌ちゃんは恋愛経験豊富。恋愛相談は全部風歌ちゃんにしている。
それにしても…
「風歌ちゃん?そろそろ離れてくれない…?」
「無理。今、菜夢充電中だから」
そんなのあるのっ!?学校遅れちゃいそう…
「風歌ちゃん…?学校遅れちゃうよ…?」
「それはダメだけど…菜夢も足りないし…」
「学校着いたらいっぱいぎゅうしてあげるから…だめ?」
「うッ!?菜夢の上目遣い…破壊力鬼強い…」
「え!?風歌ちゃん!?」
どうしよう!?風歌ちゃんがすごい幸せそうな顔して倒れちゃった!?(?)
「風歌ちゃん!起きて!」
「はい起きます」
「学校早く行こ?」
「うん!早く行って菜夢充電しないと…」
なんかブツブツ言ってるけど……まあいいや!学校楽しみだな〜♪
「みんな〜!おっはよ〜!!」
朝からこんな大きい声で挨拶できるなんて…スポーツ女子は違う…
「おう!菜夢ちゃん!風歌!おはよ!」
もう1人いた…スポーツ男子…
「おはよう、晴翔くん」
この子は片虎くんの幼馴染の晴翔くん。クラスの太陽のような存在で、とても人気者だ。
「片虎くんも、おはよう」
「…はよ」
この冷たさはちょっと傷つくけど、とてもかっこいい。こういうクールさも私は大好きだ。
「菜夢、片虎。話がある」
?どうしたんだろう、風歌ちゃんが珍しく真剣な表情で私と片虎くんを見ている。一体なにが…
「今夜、苺神社でお祭りがあるのは知ってるよね?」
そういえば、クラスメイトが騒いでたな。確か、そこにカップルで行けば必ず結ばれるって言い伝えがあるとかないとか…
「そこに、2人で行ってきなさいよ」
えええええええええ!?私が!?片虎くんと!?嘘でしょ!?何言ってるの風歌ちゃん!?第一、片虎くんは私なんかと一緒に行きたいはずが…
「分かった」
ええええええええええええええ!?片虎くんまで!?何言ってんの!?私と行くんだよ!?こんな芋女な私と一緒に行くんだよ!?分かってる!?
「菜夢は?行きたくないの?」
「そそッそんなことないよッ!」
行きたいに決まってるじゃんっ!大好きな人とお祭りデート!これを逃す手はない!!絶対に告白して見せるんだから!!
キーコーンカーンコーン
あ、鳴っちゃった。急いで席に戻らなきゃ。そう思って私は片虎くんの側を離れた。
そして向かっている途中、ちらっと風歌ちゃんの方を見たら、こっちを見て少しだけ舌を見せた。
意地悪な顔してる笑
さっきまでのパニックだった心は少し和らいだ。
「悠、実は菜夢ちゃんのこと好きでしょ笑」
「悪いかよ」
そんな会話は私の耳には届かなかった。
「お母さん。ここ変じゃない?」
「もう〜何回も同じ質問しないの!菜夢はどこも変じゃないしかわいいわよ」
「ありがとう〜あ!ここは!?」
「も〜変じゃんないってば」
何回もお母さんに質問している私。だってちゃんと可愛い私で行きたいんだもん。
これから片虎くんと苺神社にお祭りデートをしに行くんだ。告白もしたいから、ちゃんと可愛い格好で行かなきゃ。髪も浴衣もちゃんと可愛くして崩れないように…
「あら?もう行く時間じゃないのかしら?」
「え…?ほんとだ!早く行かなきゃ!行ってきますっ!」
「ちょっと菜夢!忘れ物はない?あんまり遅くなっちゃダメよ?」
「分かってるよ!行ってきます!」
「もう…」
私は家を出て小走りで苺神社に向かった。
もう、お母さんったら…心配性なんだから!
そんな心配しなくていいのにと、家を出た時のお母さんの顔を思い出した。
少しだけ悲しそうな心配している顔。ちょっと冷たく当たりすぎちゃったかも…ごめんねお母さん…
と、心の中で反省しながら急いで苺神社に向かう。
悠side
少し早く来すぎてしまったかもしれない。心の中で楽しみにしている自分がいる。
俺は、刹那李のことが好きだ。あの可愛らしい顔も声も性格も全部が好きだ。
俺は女子が嫌いだ。あのスポーツと勉学ができるってだけで鼓膜が破れそうなくらい黄色い声を出す。
どこからそんな声が出るんだ…
俺はつくづくそう思う。そしてある日、いつものように最後の教室の整頓をしていた時、誰かが入ってきた。女子だ。
俺は身構えた。きっと振り返ったら気持ち悪いくらいニヤニヤした顔が待っている。でも、振り返らないのも気が引けたので、思い切って振り返る。俺は目を見開いた。
そこには、いつもの俺を見る女子の目ではなく、少し強張った、それでも凛とした顔がそこにはあった。
可愛い。不覚にもそう思ってしまった。そしてすぐに頭から拭い取った。いやいや、俺が女子を可愛い?馬鹿げた話だ。でも、そう思っても仕方がないくらいそいつの顔は整っていた。
他の女子にこのことを話されても困る。
そう思った。俺が放課後1人残って教室の整頓をしているなんて他の女子が知ったら、クラスの女子全員教室に残りそうだ。先生も俺もいい迷惑だ。
だからその女子に釘を刺す。このこと喋るなよ。そういうと、そいつは声を絞り出すかのように返事をした。他の女子は俺に喋る暇を与えないくらいずっと喋っているのに…
俺は、その子のことがだんだん気になってきた。
どうして君はあいつらのような言動をしないのか?行動をしないのか?どうしてそこまで可愛いのか?いつも何をしているのか?何が好きなのか?
自分でも気持ち悪いくらいにその子のことが気になった。気になってしかたなかった。でも、俺が急に話しかけても迷惑なだけだ。そう思って教室を出ようとした。その時に、鈴のような透き通った声が耳に入ってきた。
「ありがとう…」
そんな声が聞こえて俺は、声が出なかった。ありがとう?何が。教室を整頓したことに?
俺に感謝の気持ちを伝えるなんて…今まであった女子たちは自分勝手で自分が良ければそれでいいような奴らばかりだった。感謝を伝えるなんて…多分今までの奴らにはそんな考えはなかった。
俺は、そいつのことがもっと知りたくなった。でも、今更だ。じゃあ、後ろにいる感謝を伝えてくれたそいつになんて答えればいい?なんて言えばいい?その答えなんてない気がした。いや、あったとしても俺には分からない。とりあえず何も言わずに出て行った。今思えばあの時からそいつに好意を寄せていたのかもしれない。
とまあ、これが俺が初めて刹那李と話した時なわけで…
そこからちょっとずつ話していくうちに、刹那李の良いところをもっと知って行ったわけで…
俺はもう、刹那李の虜だった。そして、刹那李のことを好きになっていくうちに、刹那李は結構モテるということが分かった。クラスの男子の中では、刹那李か恋夏が1位2位を争っていた。まあ、俺の中では、刹那李が常に1位で恋夏なんて眼中にないけど…
俺はそんな話を聞くたびに嫉妬していた。俺って結構独占欲強いのかな…?
なんて、そんなこと言ったら刹那李に嫌われる未来しか見えない。今はただ刹那李を心の奥底で見守っていることにする。そんなある日、恋夏が急に俺と刹那李で夏祭りに行けと言い出した。どうゆうことだ?俺は別にいい。というか行きたい。あの大好きな刹那李と夏祭りに2人で…それはつまり…デ、デートってことで…いいんだよな…?でも、刹那李はいいのか?こんな好きでもない男と一緒に夏祭りになんて…でも、断ってほしくもないし…
俺は本当に刹那李に断られたら嫌だから即答で答えた。
「分かった」
一緒に行けと言われている相手が即答で行くと言ったら断りずらいだろ。刹那李、行くと言ってくれ。
「菜夢は?行きたくないの?」
「そそッそんなことないよッ!」
よかった…。内心すごくホッとした。刹那李と…デ、デートに行ける…!どんな服で行こうか。先に屋台を回るか。屋台ではどこから順番に…。何を食べたら刹那李にかっこいいと思ってもらえるだろうか…。むしろ食べないほうがいいのか?刹那李に買わせるわけには行かないからお金は多めに持って行って…。
キーンコーンカーンコーン
そんなチャイムの音が俺の脳を1回停止した。ちっ…。せっかく刹那李へのサプライズについて考えていたのに…。でも、刹那李とデートに行ける。率直に嬉しい。そんな思いが顔から溢れていたのか、晴翔が俺の顔を覗き込んでニヤついた顔でこう言った。
「悠、実は菜夢ちゃんのこと好きでしょ笑」
なっ…!バレただと…!クソ…晴翔にバレるとか最悪すぎる…。ずっといじられる確定じゃん。でも、ここで否定したら晴翔のことだから、
「ふ〜ん?ニヤじゃあ僕が菜夢ちゃん貰っちゃうよ〜ニヤ」
なんて言われるに決まってる。そんなのは幼馴染だろうと嘘でも許せない…。クソ…ここは本当のこと言うしかねぇのか…。
「悪いかよ」
そういうと晴翔はもっと意地の悪い顔をした。なんだよこいつ…。面白がりやがって…。こっちは本気だっつーのに…
「まっ!頑張れよ!」
「るせぇ」
はぁ…マジでこいつ疲れるな。まあ菜夢と夏祭りに行けるならいい。絶対に付き合って晴翔にぎゃふんと言わせてやる。
そして当日、時間よりも大幅に早く来てしまった。期待しすぎなのでは?と不安になる。もしかしたら刹那李は俺と付き合ってくれないかもしれない。だったらあまり期待しないでおこうと思うのだが、俺の脳内はどうしても刹那李のことが気になってしまうのかもしれない。刹那李はどんな服で来るのか。どんな気持ちでくるのか。どんなものを食べるのか。気になって仕方がない。そんなことを永遠と考えているとふとたくさんの視線が俺に集まっていることに気がついた。9割が女子。またか…。呆れているとある女子グループが近づいてきて、
「あの〜お兄さん?今日この近くでお祭りやってるんで一緒に行きませんか?♡」
キモい。とっさにそんな考えが頭に浮かぶ。そんなにキモい声を出して自己嫌悪にならないのか。それに話し方も断られると思ってないのだろう。そんな考えが見え透いていて余計に腹が立つ。
「俺、待ってる人いるんで」
そういうと話しかけてきた女は顔を青ざめて信じられないとでも言いたげな顔をした。周りにいる男子も信じられなさそうに眉を寄せヒソヒソと話をしている。なんだ?この女がなんなんだ…。うるさいなぁ…
めんどくさくて腕につけている時計に目を向ける。約束の時間を少しすぎている。菜夢は?遅れているのか?と思ってスマホの通知を確認する。連絡も来ていない。まさか…事故とか誘拐?その考えが頭をよぎった。その瞬間背筋が凍りついたように嫌な汗が流れた。菜夢…!俺は焦ったように辺りを見渡す。
その瞬間俺はホッとした。なぜなら少し離れた木に隠れながらこちらの様子を伺う菜夢の姿があったのだから。はぁ。俺は急いでその木の近くに向かう。それまで近くにいた女どもは目をギョッと見開き、俺を凝視している。まあ、今はそんなことはどうでもいい。
「菜夢!すまない、待たせて」
「へっ!///」
?なぜ照れているのだ。菜夢は可愛くてこちらが照れそうなくらいなのに。
「なッ…名前ッ…!///」
「?」
少し上擦った声で話す菜夢。名前?名前がどうし…。ああっ!!
「っ!//悪い…!///」
「ううんッ!?全然っ!?//」
傍観者side
その時、その場にいる全員(主に女子)はこう思っていた。
「こいつら両片思いか…。はよくっつけ!見てるこっちが胸焼けするわッ!」
菜夢side
どッどうしよっ!片虎くんに菜夢って呼ばれちゃったッ!片虎くん謝ってくれてるし、悪いわけじゃないし、なにより嬉しいし。それに悲しそうな顔の片虎くんじゃなくて普通の(できれば笑った)顔にのほうが私はかっこいいと思うし。
「片虎くんッ!片虎くんは悪くないよ!これから菜夢でいいよ!」
片虎くんはほんと?と言うと少しだけはにかんだ後、ありがとう。菜夢。とまた名前を呼ばれた。名前で呼ばれると照れるな…//
ま、まあ。そんな気持ちは置いておいて!
「片虎くんっ!今日の服どうかな…?」
なんてちょっと彼女っぽいことを言ってみる。本当に答えなくていい。私は可愛くないって自覚済みなので!
「今日の浴衣すごい似合ってる。かわいい。」
なんて言われると思っていなかった所存でございます。かわいい!?///
「あ、、ありがと…///」
「じゃあ、行こっか?」
はっ!そうだ!片虎くんに見惚れている場合じゃないっ!今はお祭りをちゃんと楽しまないと!お祭り行ったら何食べようかな?何あるかなっ!だんだん楽しみになってきてさっきまでの気持ちはすぐに心の隅に押しやられてしまった。
なんだかんだで片虎くんと屋台を回っているとある一つの屋台が目に入った。駄菓子屋?お祭りに駄菓子屋なんて珍しいな…。そう思って片虎くんの方を見ると片虎くんもその駄菓子屋の屋台の方を向いていた。片虎くんも気になるのかな?
「あそこの屋台、行ってみる?」
「そうだね」
駄菓子屋と書いたのれんを下げている屋台の中を覗く。するとその中は本当に色々な種類の駄菓子が所狭しと並んでいた。久しぶりの駄菓子で不覚にも私はテンションが上がってしまった。
「ねぇねぇっ!駄菓子、買っていかない?」
「ああ。これなんてどうだ?」
そうして片虎くんが手にしたのは、いちごの形をした飴。通称、いちご飴である。美味しそうっ…!
「その飴、買っていく?」
そう話しかけてきたのは、屋台の中にいる若そうな女の人だった。髪色は白く、目は黄色と紫というオッドアイ。不思議な人だなと思ったが私はそれよりも片虎くんが持っているいちご飴に気を取られていた。食べたい…!そんな気持ちが私の心を満たしていく。食べてもいないのに、口の中に甘い風味が広がっていく。私たちは、そのいちご飴を1つずつ買った。
「この駄菓子はね、なんでも好きな人と一緒に食べると恋が実るらしいよ。まあ、両片思いの場合だけどね。」
屋台の人のそんな話を聴いて、私は顔が熱くなるのを感じた。もしかしたら、片虎くんと付き合える?!そんな淡い期待が私の心を甘酸っぱく駆け抜けていく。だが、そんな期待も一瞬にして泡のように弾け飛んだ。そんなわけないか。片虎くんが私のことを好きなんて、天と地がひっくり返ってもありえないもん。
私はより一層告白を頑張ろうと心に決めた。
私たちは片虎くんのおすすめの穴場スポットに来ている。なんでも、ここは地元の人にも知られていない隠れスポットで、ベンチが開いてあるし一部ひらけているからお祭りの時はここが一番見やすいそうだ。なんでここを見つけたの?と聴いたら、小さい頃晴翔くんとふざけて奥まで走って遊んでいたら偶然ここを見つけたんだとか。可笑しいな。微笑ましくなってしまった。そんなヤンチャな片虎くん、想像できなかったから。そんな話をしながら私たちはさっき買ったいちご飴を食べた。甘く、それでいても甘すぎない酸っぱさが舌の上で踊る。口の中で飽きないような絶妙なハーモニーを奏でているそのいちご飴は今まで食べたいちご飴の中でも1番においしい。そんなことを思っていると…
ドン!!
最初の花火が打ち上がった。綺麗な金色と青色が組み合わされていてとても綺麗…。横を見ると、片虎くんもうっとりとした瞳で花火を見ていた。かっこいい。不覚にもそう思ってしまった。だって、花火を見る片虎くんの瞳が、、い、色気たっぷりで、、、カッコよかったんだもんっ!なんて1人思っては恥ずかしくなって片虎くんの横顔から視線を逸らす。顔を赤らめて。
「菜夢」
片虎くんに名前を呼ばれたいと思っていた。片虎くんの低音の落ち着いた柔らかい声で菜夢と呼んでほしいと思ったことは何回もあった。だが、その瞬間は突然だった。いきなり、妄想が叶ったことに驚きかおをあげると、花火を見ていた時と同じようなうっとりとした顔で私を見ていた。さっきまで鼓膜を震わせていた花火の音なんて遠いBGMのように聞きながら、次の片虎くんの言葉を待った。
「俺と付き合ってください」
私が散々片虎くんに思っていたことを片虎くんの口から…?するりと飲め込めなかったその言葉は次第に意味を理解し始め、顔を赤く染め上げてゆく。付き合ってほしい…?片虎くんが?私と?
花火の色が片虎くんの顔の半分を照らしている。片虎くんは真っ直ぐに私の目を見つめている。私もそれに応えるように片虎くんに目線を合わせる。よく見ると、片虎くんの方も少し赤らんでいる。
しばらくの沈黙の後、私はゆっくりと口を開いた。
「よろしくお願いします」
「うちの商品は恋を呼び集めるんですよ?」
暗い店の奥、白い髪に、凛と立った犬耳、黄色と紫の瞳、少しだけ赤く入ったメッシュに、高いポニーテールをした店主がそこには居た。
そっと人差し指を艶やかな唇に当て、しーっと秘密めいた仕草をするのであった。
コメント
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さすが私!天才ですね!!
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