ー決して怪しいものではありませんー
部屋の中を右往左往しながら、夢主は頭を抱えていた。
夢主(心の声):
「どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ……っ!」
「返さなきゃまずいよね……でも、どうやって会えばいいの?」
少し立ち止まって、考え込む。
夢主(心の声):
「学校まで行く?いや、それは流石に……。」
「……捕まるよね?アウトだよね?」
「ダメだ、まだ犯罪者にはなりたくない……!」
悩みに悩んだ末、夢主はふと顔を上げた。
夢主(心の声):
「でも……近くに行くだけなら……。」
「いやいや、同じ学校の人に頼むとか……?それも……無理ぃぃ!」
胃を押さえながら、ため息をつく。
夢主(心の声):
「考えただけで、胃がキリキリしてきた……。万年オタク喪女にはハードルが高すぎるっっ!」
数分間、沈黙が続く。
夢主:
「……ぐぅぅぅ。」
(拳を握りしめて決意)
「……行くしかない!」
校門前
夢主は冷たい風に震えながら、学校の校門前に立っていた。
夢主(心の声):
「……結局来てしまった……。」
「……あぁ、やばい……私、完全に不審者っぽい。」
深呼吸を何度も繰り返し、意を決して警備員に声をかけた。
夢主:
「あ、あのぅ……。」
「い、糸師凛くんは……居ませんか……?」
「彼に……渡すものがあって……。」
警備員:
「あぁ、また糸師凛のファンか……。」
「困るんだよねぇ、学校にまで来られると。」
夢主:
「ヒィッ……!」
「ち、違うんです!私、怪しいものではなくて!」
「あの……ほんとに、返さなきゃいけないものがあって……その……!」
警備員は明らかに疑いの目を向けている。
警備員:
「怪しい人はみんな自分のこと怪しくないって言うんだよねぇ。」
「……あんまりしつこいと、通報せざるを得なくなるよ?」
遠くからの声
男子生徒A:
「おい、糸師!お前の追っかけ、また来てるぞ!」
糸師凛:
「興味ねぇ。」
男子生徒B:
「今回は随分年上じゃん。お前すげーな、女子高生だけじゃなく、大人のファンもいるのか?」
「でも……あの人大丈夫か?警備員に連れてかれそうになってるぞ。」
凛はその言葉に、ちらりと校門の方向を見る。
そして――目を見開いた。
糸師凛:
「……あいつ……。」
「……こんなとこまで来て、何やってんだ……クソが。」
無言で立ち上がり、早足で校門へ向かう。
男子生徒B:
「おい、糸師?……あれ、いない!?」
校門
警備員:
「大丈夫、素直に話せば罪は軽いから。」
夢主:
「ちがっ、ちがうんですぅぅっ!!!」
(涙目で震える)
その時――。
糸師凛:
「おい、バカ女……ちょっと来いっっ!!」
夢主:
「ひぃっっ!!!」
警備員:
「あ、糸師凛くん!君、今から授業でしょ?教室に戻り――」
凛は警備員を無言で睨む。
警備員(心の声):
「きゅん……睨んでもイケメン……。」
そして、凛は夢主の頭を鷲掴みにし、そのまま引きずるように歩き出した。
夢主:
「いだだだだっ!痛いっ、頭……もげるぅぅぅ!」
人気の少ない場所
凛は夢主を無理やり連れて行き、静かな場所で手を離した。
糸師凛:
「テメェはバカか、何しに来た!」
夢主:
「あ……あの……これを……返しに……。」
(おずおずと服を差し出す)
糸師凛:
「いらねぇよ。テメェが吐いた服なんか着れるかっ!」
夢主(心の声):
「えっ、理不尽……!!!」
「返せって言ったから頑張って洗って持ってきたのにぃぃ……!」
「やっぱり大怪獣だっ!」
夢主:
「で、でもせっかく持ってきたから、受け取って!」
(無理やり服を押し付ける)
糸師凛:
「……いらねぇ。」
(服を受け取るが、不思議そうに触る)
「……てか、硬ぇな。服の硬さじゃねぇ。何入れてんだ、これ?」
夢主:
「えっ?そんなはず――。」
(ゴトッ。服を落とし、中身が散らばる)
夢主:
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
(地面に散らばる無数のディスク)
「……しまったぁぁぁぁぁぁ……っっ!!!」
夢主(心の声):
「これ……ホラーゲーム類と……
新作テスト用のソフト……!!」
「友人に貸すはずだったのにっっ!」
「バカすぎる……なんで気づかなかった私……!!」
夢主:
「あ、あはは……!これはその……うっかりというか……いや……その……。」
「人間は失敗して成長するといいますか……っ!」
糸師凛:
「……やってない。」
夢主:
「……はい?」
糸師凛:
「これ、俺やってない。」
(散らばったディスクの中から新作ソフトを拾い上げる)
夢主(心の声):
「……えっ、大怪獣様……なんか目が輝いてません……?」
あとがき
警備員さんこそきっと糸師凛のファンです。
きっと、顔の良さに当てられて、
キュンキュンしてます。間違いないです。