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「あ〜、死ぬかと思ったよ〜」
戦いの後、私のヒールを受けて体の傷が癒えるとリカードは大きく伸びをすると、そのまま両腕で私に抱きついてくる。最前線で魔物と斬り結んでいたリカードを優しく抱きしめると、その頭を撫でてやる。
「へへへ、にーちゃん大好き〜」
嬉しそうに頭をスリスリと擦り付けてくるリカード。狼族なのだが、行動は完全にワンコキャラである。撫でながらフランツとレイの様子を確認すると、フランツと目が合う。
「あっ……えっと、勝てて良かったですね」
少しぎこちなく声をかけてくるフランツ。気になってフランツのところに移動すると、目を逸らしてしまう。その姿に、思わず頭をポンポンする。
「えっ!?」
「フランツもよく頑張ったね」
驚きの声とともに、顔を真っ赤にさせるフランツ。もしかしたら、フランツも褒めてほしかったのかもしれない。こころなしか顔がにやけているように感じる。
「二人共、お子様だね」
レイがそんな私達に冷たい言葉をかける。なんとなく、拗ねているような気がするのは気のせいだろうか。
「レイもありがとう。あのピンチのタイミングで冷静に風の魔法を放ってくれて。あれで一気に場の雰囲気が変わったよ」
「やめろっ。単に俺は離れていたから攻撃できただけだし、あんたは攻撃手段がないでしょ」
レイのことも労いながら頭を撫でようとしたが、距離を取られて辛辣な言葉を投げかけられる。思わず『反抗期』という三文字が頭に浮かんでかわいく感じる。
「にーちゃんに失礼だぞ〜」
「ビビリくんは黙ってなよ」
「レイ、そんな言い方はないだろ」
「私のことで争わないで〜」
軽い言い争いが発生するが、それだけみんなの気持ちに余裕ができたということだろう。私もふざけながら言い争いを止めるのだった。
********************
「では、今度こそ任務達成ということで帰りましょうか」
フランツが代表して宣言すると帰路につくことになった。そちらでも特に魔物に遭遇するようなことはなく、無事に田舎村まで戻ることが出来た。ゴブリンだけでなく、さらに強力な魔物まで無事に討伐できたということでささやかな宴会が開かれ、村長の家に泊まることになる。
「俺、馬鹿騒ぎは嫌いだから」
しかし、レイは宴会には参加せずにさっさと部屋に戻ってしまった。レイのことが気になったし私も賑やかなのは苦手だったが、村をあげて開かれた宴会なので、とりあえずは参加する。
酒を勧められてリカードが飲もうとするのをフランツが止めている。村人達の口ぶりではこの世界では成人前から酒を飲むことも珍しくないようだが、フランツは騎士の家柄だけあって厳しいようだ。
なお、当然成人している私ではあるが、酒が苦手なので固辞した。アルコールが駄目な上にエールの苦味も苦手だった。結果、フランツだけが村人みんなに酒を振る舞われるという構図になってしまった。
ちなみにリカードは気持ちを切り替えて食事を楽しむことにしたようで、ご当地グルメとも言うべき特産品を楽しんでいるようだった。もちろん、私もご当地グルメはしっかりと堪能させてもらうのだった。
しばらくご当地グルメを楽しんだ後、先に戻ってしまったレイの様子を窺いに行くことにした。ノックをしてレイの部屋に入ると、彼はベッドの上で本を読んでいた。
「何? もう戻ってきたの?」
「うん。お酒飲めないし、騒がしいのも苦手だからね」
「へぇ、酒を飲めない大人もいるんだね」
レイと他愛のない話をしながら、改めてレイが未成年であることを思い出す。フランツは見た目に反して成人していたので、背丈的には一番長身なレイもそうだと錯覚してしまう。
よく観察すると、美しい顔立ちながらどこか幼さの残る部分はあるのだが、エルフという種族も影響しているのかフランツはともかくリカードよりはやはり年上に見えてしまうのだった。
「レイは早くお酒が飲めるようになりたいの?」
「まさかっ。俺は絶対にあんなものは飲まないよ!」
私の質問に吐き捨てるように答えるレイ。どうやら、なにか地雷を踏んでしまったらしい。うっかり飲んで大変な目に遭ったのか、酔っ払った大人に大変な目に遭わされたのか。
「ごめん、なんか嫌なことを思い出させちゃったかな」
「ごめんじゃないよ。罰として……俺の頭を撫でろ」
「え? 良いの?」
「良いから言ってるんだろっ」
レイの言葉に私はレイの隣に座り、金属のようなキラキラした銀髪の頭を撫でようとする。だが、頭に手を伸ばした瞬間、レイは反射的に身を仰け反らせる。そういえば、アニメのレイは親から虐待を受けていたという設定があった。目の前のレイもその背景を持っている可能性は高い。
「あっ……」
「やっぱり、嫌だった?」
「嫌じゃないって言ってるだろっ」
レイは身を仰け反らせた自分に驚き、腹が立っているようだった。それこそ、親から殴られていた子どもが大人の手を怖がるような反射的な反応だったのだと思う。レイは当時の恐怖を乗り越えようとしているのかもしれない。そこで、私はレイの手を握る。不安からか冷たくなった手を温めるように優しく包み込む。
「……あんたの手、あったかいな」
「ありがとう」
そう言いながら、静かに身体を寄せて髪を撫でる。見た目は金属のような光沢を放っているが、撫でてみると意外と柔らかい。ショタの頭を撫でるなんて、罰どころかショタコンにとってはご褒美である。レイの頬も若干赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。
頭を撫でられたレイは、そのまま額を私の胸に当ててくる。それだけ安心できているということだろうか。冒険の後ということもあり、レイの身体は少ししっとりと湿っていた。思わず、レイの肩を掴んでしまう。
「……ちょっと、調子に乗らないでくれる?」
そう言いながらも、離れようとはしないレイ。いつもはふわりとしたローブを纏っているからわからないが、身体の線も非常に細くて頼りない。エルフだということもあるだろうけど、エルフにしては背も低いから小さい頃に栄養がちゃんと摂れていなかったのかもしれない。
「ごめん。でも、レイのことが大切だから」
「……そんな大人もいるんだね」
口から出た言葉は自分でもちょっとキザだった。その言葉に対し、レイは少し表情を暗くしてポツリと呟く。
「大人と言っても色々だから。私はレイに嫌われないような大人になるね」
「……バカ」
私が笑顔でそう宣言すると、レイは顔を赤らめてそっぽを向く。ツンデレショタ、かわいい!
「タカヒロさん、ここにいる?」
「バカ! ノックしなって言ってるだろ!」
ツンデレショタ……じゃない、レイと親睦を深めていると、リカードが部屋に入ってきた。相変わらずノック無しで突然ドアを開けるので心臓に悪い。レイの顔色が別の意味でさらに赤くなってしまった。
「ごめ〜ん、急いでたからさ〜。フランツが飲みすぎてダウンしちゃったんだよ」
「生真面目さが売りって感じなのに、飲みすぎたのかぁ。いや、生真面目だから断れなくて飲みすぎたのかな。とにかく、介抱してくるね」
私はリカードの言葉に真面目な美少年の酔い潰れた姿を想像しながら、宴会場に駆けつけることにした。