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次の日。
動画を開いた瞬間、悠真は固まった。
「……え?」
蒼はコーヒーを淹れながら振り返る。
「どうした」
悠真は無言でスマホを向ける。
通知欄。
見たことない量だった。
コメント。
メッセージ。
タグ付け。
切り抜き動画。
数字が異常だった。
再生数は、一晩で数千万を超えている。
「何これ」
蒼も画面を見る。
動画サイトのトップページ。
そこに、自分たちのサムネイルが出ていた。
雨の屋上。
制服姿。
抱き合う二人。
タイトル。
『世界が戻り始めました』
「……やば」
悠真が小さく呟く。
コメント欄はほとんど祭り状態だった。
『ニュースから来た』
『本当に存在してたんだ』
『作り物じゃなかったの?』
『二人とも無事でいて』
『政府動いてるらしい』
『世界線のズレってマジ?』
蒼は眉をひそめる。
「ニュース?」
悠真は急いで検索を開く。
そこには。
自分たちの記事が大量に並んでいた。
『“無人世界の二人”――三年間動画を投稿し続けた少年たち』
『世界規模で注目される謎の映像』
『専門家「現代科学では説明不可能」』
『二人は本当に別世界に存在するのか』
記事。
考察動画。
ニュース番組の切り抜き。
向こうの世界では、もう大事件になっていた。
悠真はソファへ座り込む。
「……え、怖」
蒼も静かに画面を見る。
ニュース映像の中。
キャスターが、自分たちの動画を真面目な顔で解説している。
夕焼けの学校。
雪の山奥。
誰もいない渋谷。
三年間の景色。
自分たちの日常。
それが、“異世界の記録”として世界中に流れていた。
『彼らは本当に実在するのでしょうか』
『もし事実なら、人類史上初の現象です』
『現在、複数の研究機関が解析を――』
悠真が思わず笑う。
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「なんか急にスケールでかくなったな」
蒼も苦笑する。
「俺ら普通にコンビニ行ってるだけなんだけどな」
でも。
少し不思議だった。
三年間。
二人だけだった世界。
誰にも届かないと思っていた動画。
それを今、何億人もの人が見ている。
その日の動画撮影。
カメラの前で、悠真が珍しく緊張していた。
「えー……」
蒼が横で笑う。
「ニュースデビューおめでとう」
「茶化すな」
でも蒼も少し落ち着かない。
カメラの向こうには、もう“誰か”どころじゃない。
世界中の人がいる。
悠真は深呼吸して、レンズを見る。
「こんばんは」
静かな声。
「なんか、ニュースになってました」
少し笑う。
「正直、俺らもびっくりしてます」
蒼が続ける。
「でも、ちゃんと見えてるんだなって思いました」
その言葉は、三年前とは重みが違った。
最初は、本当に誰もいないと思っていたから。
コメント欄には、今まで以上に沢山の言葉が届いた。
『ずっと見てます』
『帰ってきてほしい』
『二人とも生きててくれてありがとう』
『世界中が応援してる』
『泣いた』
その中で、一つのコメントに悠真が止まる。
『あなたたちは、三年間“希望”を配信していたんです』
悠真は少し黙った。
蒼もその文章を見る。
希望。
そんな大層なものだとは思っていなかった。
ただ。
二人で寂しくならないように、動画を撮っていただけだった。
でも。
画面の向こうには、その景色に救われた人たちがいた。
夜。
屋上。
雨上がりの空。
星が見える。
悠真はフェンスにもたれて笑う。
「俺ら、有名人じゃん」
「実感ない」
「わかる」
風が吹く。
遠くの街が光っている。
静かな世界。
でも今は、その静けさの向こうに沢山の人の気配を感じた。
悠真は空を見る。
「三年前さ」
「うん」
「動画投稿しようって言った時、0回再生だったの覚えてる?」
蒼は笑った。
「覚えてる」
「まさかニュースになるとはな」
「人生わかんないな」
二人は並んで空を見上げる。
世界は、ゆっくり戻り始めている。
そして。
二人だけの終末だったはずの日々は、いつの間にか“世界中が知っている物語”になっていた。