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それは、本当に突然だった。
まるで誰かが世界のスイッチを切ったみたいに。
その日。
二人はマンションの部屋で、ニュース番組の切り抜きを見ていた。
向こうの世界では、まだ騒ぎが続いている。
『無人世界の二人』
『帰還は可能なのか』
『異常現象の正体とは』
悠真が笑いながら言う。
「なんか俺ら都市伝説みたい」
蒼はコーヒーを飲みながら苦笑する。
その時だった。
部屋の光が、ふっと暗くなる。
「……ん?」
悠真が窓を見る。
蒼も振り返った。
さっきまで夕焼けだった空が、一瞬で黒く染まっていく。
太陽が消える。
まるで最初の時みたいに。
夜が落ちてきた。
「……は?」
悠真が立ち上がる。
窓の外。
真っ暗な街。
街灯だけが光っている。
鳥の声も消えた。
風だけが静かに吹いている。
三年前の景色。
いや。
もっと静かだった。
世界が、また閉じていくみたいだった。
二人は急いで屋上へ向かった。
階段を駆け上がる。
扉を開ける。
冷たい夜風。
空には星。
深い夜。
完全な夜。
さっきまであった夕焼けの気配なんて、どこにも残っていなかった。
悠真は息を切らしながら空を見る。
「……嘘だろ」
蒼も言葉が出ない。
戻っていたはずだった。
朝も。
夕方も。
雨も。
希望も。
全部。
なのに。
世界はまた、“夜だけ”へ戻ってしまった。
風が強く吹く。
フェンスが軋む。
悠真はその場に座り込んだ。
「なんで……」
小さな声。
怒りとも、不安とも違う。
ただ、力が抜けたみたいな声だった。
蒼は空を見上げたまま動かない。
期待してしまった。
帰れるかもしれないって。
普通の世界へ戻れるかもしれないって。
その希望が大きかった分、落差も大きかった。
スマホが震える。
通知。
コメント欄。
『空どうした!?』
『急に真っ暗になった』
『戻ったと思ったのに……』
『大丈夫?』
『怖い』
向こうの世界でも、変化は見えていた。
リアルタイムで。
世界中の人たちが、自分たちと同じように驚いている。
悠真はスマホを握ったまま笑う。
乾いた笑い。
「なんだよそれ」
蒼が隣へ座る。
悠真は俯いたまま続ける。
「ちょっと期待したじゃん」
その声が少し震えていた。
三年間。
ずっと二人で耐えてきた。
でも。
“戻れる”という希望は、それ以上に大きかった。
だから今。
胸の中にぽっかり穴が空いたみたいだった。
しばらく沈黙。
夜風だけが吹いている。
遠くの街灯が小さく揺れる。
やがて。
蒼が静かに言った。
「……でも」
悠真は顔を上げない。
「変わったのは本当だった」
風が吹く。
星が滲む。
「朝も来たし」
「夕方にもなった」
「雨も降った」
蒼は空を見る。
真っ暗な夜空。
でも。
最初の頃とは少し違う気がした。
世界は、一度確かに動いた。
それは消えない。
悠真はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……また動くかな」
蒼は少し笑う。
「たぶんな」
その返事に、悠真も少しだけ笑った。
完全には消えていない。
希望は。
その夜。
二人は久しぶりに動画を撮らなかった。
ただ屋上に座っていた。
静かな夜。
誰もいない街。
三年前に戻ったみたいな景色。
でも。
違うことが一つだけあった。
もう二人は知っていた。
世界は、本当に変わることがある。
止まったままじゃない。
だから。
また朝が来るかもしれない。
そんなことを、少しだけ信じられるようになっていた。