桃side
本当にたまたまだった
地元は田舎で高校卒業と同時に家を出た俺は久しぶりに地元に帰ってきていた
久しぶりに降りたった駅は変わらず人気がなくてしんと静まり返っていた
もう夕方で都会だと帰宅ラッシュの時間だと言うのにだ
久しぶりに歩く駅から実家への道
その道中に、大きな木があった
その木は数年たった今でも元気で葉が生い茂っていた
その木の根元に座り込む人が1人
莉犬だ
遠目からだが分かる
あの前髪に黒メッシュの入った真っ赤な髪の毛に特徴的な犬耳
赤い毛のしっぽ
間違いない
俺は急いで駆け寄った
桃「莉犬」
赤「ふぇ… 」
桃「どうした、こんな所で」
桃「家帰んねぇのか?」
赤「…うん」
ん…?
嫌な予感がした
モゾッと身動きした時に見えたような…
腕に包帯があるかもしれない
そう思うといてもたってもいられなくなった
桃 「莉犬、立てる? 」
赤「…ん」
桃「ありがとう」
たってもらってよく見ると服はボロボロ
あの赤い特徴的な髪の毛もしっぽも犬耳も輝きが失われていた
桃「…」
赤「ぁ…ごめんなさ…」
桃「今すぐななもり先生のとこ行くぞ」
赤「ぇ…ぁ…」
そのまま俺は莉犬を抱き抱え、地元で開業医として働いているななもり先生のところまで向かった
紫side
時間も夕暮れ
そろそろ閉めようかと締め作業に入っている時、扉を勢いよく叩く音がした
俺一人でやってる小さな病院
閉める時間なんて特に決まってないから扉の鍵を開けて外の患者さんを招き入れた
桃「ひさしぶり」
紫「さとみくん…久しぶりだね」
さとみくん
昔は同じ学校に通い切磋琢磨した仲間
一時期同じ病院に務めていたが俺は上下関係に嫌になって地元で開業医を始めたが彼はそのまま病院に務めていた
そんな彼が1人の子供を抱いていた
見た感じ小学生くらいだろうか
紫「その子は…?」
桃「あぁ…実はさ…」
そう行って彼は経緯を話してくれた
久しぶりにこっちに帰ってきたこと
あの大木の根元にいたというこの子は彼の従兄弟だということ
紫「こんにちは」
赤「ぁ…」
赤「こ…んにち…は…」
桃「ちょい手当してやって欲しい」
紫「わかった」
桃「俺も手伝えること手伝う」
紫「了解、ありがとう」
紫「改めてこんにちは」
紫「医師のななもりです」
紫「体の傷を見させて欲しいから服脱いでもらっていいかな」
赤「ぁ…」
赤「…」
桃「莉犬、大丈夫」
桃「優しい先生だ、何も心配しなくていい」
赤「…」
しばらく迷う素振りを見せたあと静かに頷き服を脱いでくれた
体の傷は酷く悪かった
たくさんの痣に古い火傷の跡、たくさんの切り傷
浅いものから深いものまで両腕にたくさん
本来アザは湿布を貼って対処するがあまりにも数が多すぎるため、自然治癒に任せることにした
浅い切り傷は薬を塗ってガーゼで覆う
傷が深いところは消毒して薬を塗ってガーゼを貼る
幸いにも縫合が必要なほど深い傷はなく一安心
赤「…」
紫「よし、おつかれさま」
紫「これでもう大丈夫」
桃「頑張ったな(頭 撫」
赤「ひっ…(酷 怯」
赤「やッ…ごめんなさッ…」
赤「やだッ…なぐらないでッ…」
桃「莉犬…?」
赤「はぁッ…はッ…はぁ…ケホケホ」
桃side
手当を終えよく頑張ったなと頭を撫でようとした時急にパニックに陥った
頭を抱え酷く怯えている
息がとても荒く、過呼吸の1歩手前
赤「はッ…はぁッ…」
桃「莉犬、大丈夫」
桃「目開けて、俺の声聞こえてる?」
赤「はぁッ…はッ…はぁッ…」
うっすらと目を開け、軽く頷いてくれた
声は届いている
桃「大丈夫、ここは安全なところ」
おそらくフラッシュバックだろう
意識が過去に戻ってしまっている
だが声は通るからまだ完全に戻ってはいない
桃「大丈夫、俺だよ、さとにぃだよ」
俺は莉犬の肩を両手でつかみ、目を合わせに行く
そしてここは安全だ、大丈夫な場所だと伝える
赤「はぁッ…はぁッ…」
まだ息は荒いがさっきよりは穏やかになった
もう大丈夫だ
あとは深呼吸を促し、意識を完全にこちら側に戻す
桃「そう、深呼吸意識して(背 摩」
背中をさすり、深呼吸を促す
赤「はぁ…はぁッ…」
必死に深呼吸をしようとする莉犬
もう大丈夫だ、上手に出来てる
桃「今周りに何が見える?」
赤「ベッド…はぁッ…」
桃「そうだね、莉犬が座ってるベッド」
桃「あと4つ、何が見える?」
これは意識をこちらに戻すための方法の一つ
周囲に何が見えるか、何があるのか、頭で理解することで過去のことだと認識させるのだ
赤「時計…はぁ…」
赤「トレー…はぁ…せんせい…」
桃「うん、ほかには?」
赤「さとにぃ…はぁ…けほっ…」
桃「うん、よく出来ました」
桃「ゆっくり息整えて」
かなり落ち着いた
もう大丈夫だろう
紫「がんばったね、つかれたね」
なーくんも肩の当たりを優しくさすり声掛けをする
赤「すー…はー…」
赤「ごめんなさ…」
桃「大丈夫だよ、疲れちゃったね」
桃「今日は俺と一緒に休もうか」
久しぶりに帰ってきた地元
両親は既に他界しているから実家もない
休む場所はホテルだ
桃「お風呂は明日でいいから今日はもう寝ちゃいな」
赤「ぁ…ぅん…」
大人しく布団に入り目をつぶる莉犬
寝れるといいけどな…
モゾモゾ、モゾモゾと何度も何度も体制を変える莉犬
桃「莉犬?眠れない?」
赤「ぁ…だいじょうぶッ…」
大丈夫とはいうがかれこれ1時間が経とうとしている
この1時間少しでも寝付いた気配は無い
おそらく眠れないのだろう
入眠困難もあるか…
俺は腕枕をしてお腹の当たりを優しくポンポンと叩く
そしてあとは声掛けだ
桃「大丈夫、安全な場所だよ」
桃「誰も怒ってないよ、安心してね」
不安や恐怖などが強いのだろうと見て取れた
眠れないのも仕方の無いことだ
赤「すぅ…すぅ…」
…案外すぐ眠った
入眠困難は寝かしつけで難なくクリアできそうだな
薬は必要ないかもしれない
直ぐに起きる可能性も考えてまだしばらくはお腹を優しく優しくポンポンと叩き腕枕はしたまま
どれくらい時間が経っただろうか
時折モゾっと身動きはするもののよく眠っているようだ
そっと頭の下から腕を抜き俺は1人お風呂に向かった
のんびり湯船に使っているとなーくんからの連絡
「あの子大丈夫だった?」
「大丈夫、もう今は寝てる」
「そっか」
今後どうするべきか
引き取ることも考えた
だが俺は精神科医として働いている
小さなクリニックではなく大学病院に
入院病床もある大きな病院だ
夜勤もあり、帰宅時間は日によってバラバラ
家にいない時間も多い
赤「んぅ…」
桃「ん…」
桃「目さめちゃった?」
赤「ん…さとに…」
桃「ん?」
赤「俺明日家帰る…?」
桃「ッ…」
桃「帰んなくていいよ」
赤「ぅん…」
桃「ほら、もっかい寝な」
俺はもう一度同じように寝かしつけをして莉犬をもう一度寝かせた
赤「すぅ…」
やっぱりすぐ寝た
入眠困難は薬がなくても大丈夫だな
赤「んぅ…」
桃「ん…」
赤「さとに…」
桃「ん…おはよ…」
赤「おはよ…」
俺はあのあとこれからどうしたものかと頭を悩ませていたせいか寝不足
だけどそれを悟られるときっと気にされる
夜勤も経験あるし大丈夫だ
桃「莉犬」
赤「んぅ?」
フラッシュバックと体の傷
時系列順に整理したくて俺は朝ごはんを食べながら軽く診察をすることにした
桃「今家には誰がいる?」
赤「おかあさん…いるかな…?」
桃「いない時が多いの?」
赤「えと…ずっと…痛いことされてて…」
赤「はぁッ…でもッ…はッ…」
桃「莉犬、ゆっくりでいい」
桃「ここは安全な場所だ」
赤「はッ…いッ…まはッ…はぁッ…」
桃「莉犬、話しにくかったら話さなくていいよ」
桃「まずは呼吸を整えよう」
肩をつかみここは安全だと伝え、呼吸を整えようと声をかけるも頷きはするが話すのをやめようとはしなかった
話してしまいたいのかと無理に止めるのはやめることにした
赤「かッ…帰ってッ…はぁっ…」
赤「こなッ…いッ…はッ…」
桃「うん、昔は痛いことされてて」
桃「今はほとんど帰ってこないんだな」
赤「はぁッ…はッ…けほっ… 」
やけどの古傷があったのはそのせいか
ダメだ、考えるより先に助けろ
桃「莉犬、大丈夫」
桃「ここは安全な場所だよ」
赤「はッ…..はッ…..けほッ…」
桃「莉犬!」
声が届かない
そう判断した俺は勢いよく肩を強くつかみ、大きな声で名前を呼ぶ
赤「はッ……けほ…」
桃「大丈夫、安全な場所だよ」
赤「はぁッ……はッ……」
桃「ゆっくり呼吸して、大丈夫」
赤「はぁッ……はぁッ……」
桃「そう、上手」
声が通じた
良かった
肩を掴んでいた手を離し、優しく背中をさする
桃「もう大丈夫、こわかったね」
赤「はぁ……はぁ……」
桃「そうだよ、ゆっくりね」
桃「ここはホテル、2人だけの部屋」
赤「ほて…る……」
桃「そう、ホテルの部屋」
桃「部屋に何が見える?」
赤「べっど…」
桃「そう、ベッドあるね」
桃「戻ってきたね」
赤「ん…」
赤「さとに…」
桃「ん?」
赤「ずっといっしょいてね…」
桃「…」
桃「あぁ」
ずっといっしょ
それは難しい
けど、莉犬にとっては望むこと
……考えてみるか
次の日、朝一番で警察に向かった俺は諸々の手続きを踏まえて莉犬の保護者となった
桃「莉犬」
赤「…?」
桃「帰るか、家」
赤「ぇ…」
赤「やだッ…」
赤「あの家いや…」
桃「あの家じゃないよ」
赤「ぇ…?」
桃「俺の住む家」
赤「ぁ…」
俺の住む家、そう伝えると莉犬の目から涙がこぼれた
赤「いくッ…いくッ…!」
桃「あぁ、行こうか」
泣き出した莉犬を1度強く、ぎゅっと抱きしめ、もう大丈夫だと声をかけたあと体を離した
赤「もっかい…」
桃「いくらでもしてやるよ」
もう1回
そう強請られおれはもう一度ぎゅっと抱きしめた
朝からホテルの部屋にひとりで不安が強かったんだろう
一緒に連れていけばよかったかとも思うが手間がかかるし疲れる
骨が折れる作業だったため置いていて正解だっただろう
そして、その日はゆっくりとすごし、その次の日お昼頃の電車に乗って帰路に着く
赤「ふんふん…」
桃「ふっ…」
ご機嫌
鼻歌なんて歌ってるんるんだ
1度病院で俺の診察を受けさせないとと思いながらとりあえずは様子見に決めて俺は目を閉じた
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