テラーノベル
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暗がりから抜け出たプラットホームの灯りは眩くて、天井部のむき出しの配管や、設置されて間もないレールの白銀色が、鷹野の感覚を刺激した。その色は、どこかで見たことある景色と同じ色をしていたからだ。
それは、東京ジェノサイド発生時の渋谷に積もった雪と、充満する可燃性ガスの中の女の微笑みとリンクしている、
鷹野は、加瀬や仲間らと共に18番ゲート中央新幹線分離区域、首都防衛ライン仮設ホームへと降り立つも、救えなかった女の残像に目眩を覚え、足取りは重たかった。
真新しい駅構内と古びた機関車、それに、旧式の戦車群が時空を同化させている。
過去から未来へとタイムスリップして来た旅人であったなら、自分はどんなに幸せだろうと鷹野は思った。
渋谷で見た女の微笑みが、鷹野の全てを変えた。
ひとりの生命をも救えない非力さと、職業としての自衛官である自分の存在意義を見失って、毎晩女の幻影に悩まされては睡眠薬に頼りきっていた。
側に居てくれる妻のマリの存在に感謝しつつも、甲斐甲斐しい愛情は時折苦しく切ない。
だから、子供を授かったと聞かされた日も、喜びよりも不安が大きかった。
自分は、子供に人生を教えられる性分では無い。
分をわきまえているつもりで、マリには中絶を勧めた。
だが、彼女はキッパリと言ってのけた。
「この子に罪は無いの!私はあなたとこの子を守ります!守るから、だからお願い、そんな事はもう絶対に口にしないで!」
マリは泣いていた。
涙の匂いは海の潮の香りと同じだ…鷹野はそう感じた。
だからその日は2人きりで泣いた。
自分は、気が触れてしまったのだろうかと悩んでいた。
東京サイケデリッククリエイターズに入会したのも、その頃である。
後戻りは出来ない状況だった。
鷹野は、乾いた喉を潤そうと、トイレの水をガブガブと飲んだ。
外で声が聞こえる。
加瀬の声だ。
「会えて嬉しいよ。あなたにはずっと前から会いたかった」
鷹野は慌てて外へ出た。
加瀬の目の前には、黒の防護服とフェイスマスク姿の十数人の隊員の姿が見えた。
最前列の隊長と思われる人物は、女性であることが胸の膨らみで判る。
加瀬と握手を交わしながら、トイレから出てきた鷹野に一礼した後に女は言った。
「わたしも、お会いできて光栄です」
フェイスマスクを外した女の黒髪が風に舞う。
厚い唇をした女の黒い瞳は、加瀬を見上げながら数回まばたきを繰り返していた。
「はじめまして、水陸特務隊…いえ、今は違いますね。東京国防衛軍海兵隊隊長、摂津志以下12名。命を預けに参りました!」
その声は、澄みわたる空と同じだと鷹野は思った。
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