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同日 23:45 東京臨海旅客ふ頭ターミナル
東京湾岸エリア・台場地区にあるさくらテレビ局から、この有明の船乗り場への道のりを、甲本涼平は明確に説明出来なかった。
それは脳が混濁し、酩酊し、機能停止状態に陥った為で、理由は殺人現場を目撃したからである。
十数人の仲間とさくらテレビ局へなだれ込み、隠し持っていた銃を掲げながら、生放送中のスタジオ目掛けて突き進む瞬間は高揚していた。
武装といっても、各人小銃とバタフライナイフを与えられていただけで、みな不安を口にしていたが、リーダーである布施の発言が真実を物語っていると思い知らされた。
「日本人の頭ん中はお花畑だ。ハジキ見せりゃあ、蜘蛛の子散らす様に逃げてくさ」
事実、布施が放った銃弾にテレビ局フロアの人間は一目散に逃げ去り、砕け散る照明器具の破片が床に散乱すると。聞いた事もない悲鳴があちらこちらからこだました。
それでも職務に忠実な警備員は、先頭を切って進む布施の前に立ち塞がった。
両腕を水平に伸ばして叫んでいる数人の男達に、布施は躊躇なく発砲した。
最後尾にいた甲本の耳に、乾ききった銃声と薬莢が転がる音が響いた。
足元に横たわる警備員の頭部は吹き飛び、ピンク色の肉片が溢れているのが見えた。
それが何なのかを考えた瞬間、甲本は強烈な吐き気を感じて脇道へ逸れて嘔吐を繰り返した。
そこから先は、うろ覚えだった。
無我夢中でテレビ局から出ると、外には泣き喚く女子社員や、呆然と突っ立っている男性社員らの姿があった。
漆黒の天空には死のオーロラが不気味に浮かんで、それはまるで白蛇のように身をくねらせていた。
甲本は、湾岸りんかい線に沿って走っていた。
くたびれたスーツの懐の小銃も、腰につけたバタフライナイフも意味がなかった。
途中泣いていたのかもしれない。
もしかすると笑っていたのかもしれない。
このまま消えたかった。
白蛇が、赤い舌を覗かせながらせせら笑っている。
「どうかその猛毒でひと思いに…」
甲本の願望は虚しく宙を舞った。
死のオーロラが、それを丸呑みしていく。
教師だった自分の過去が、教え子達の軽蔑の眼差しと一緒に砕け散った瞬間。
流れる人間の血液の中に、そんな幻を見た気がした。