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「祐希さん!今日って何か予定ありま、すか…」
何気ない調子で聞いたつもりだった。
けれど、達宣は言い終わった直後に、少しだけ後悔した。
付き合い始めてから、まだ日が浅い。
二人きりで会うこと自体は初めてではないけれど、今までと同じように誘っていいのか、いまいちわからなかった。
「特にないよ。どうしたの?」
「いや、えっと……」
達宣は視線を泳がせた。
「……暇だったら、一緒にどっか行きません?」
祐希は一瞬、目を丸くした。
ほんの一瞬だけ。
すぐにいつもの表情に戻ったけれど、達宣はその変化に気づかなかった。
「いいよ。行こうか」
「ほんとですか?」
「うん」
「やった!」
思わず声が弾んだ。
言ってから、達宣はぴたりと止まった。
「……あ」
「ん?」
「な、なんでもないです!」
祐希は笑いそうになるのをこらえた。
うれしい。
誘ってくれたことも、即答した自分の返事に達宣があんなに喜んでくれたことも。
全部、うれしかった。
でも、ここでからかったら、きっと達宣は恥ずかしがってしまう。
だから祐希は、いつも通りの声で言った。
「何時にする?」
「……お昼くらいで!」
「わかった」
それだけの約束だった。
けれど、その日一日、祐希は何度もスマートフォンを確認してしまった。
待ち合わせの時間を確認する。
行き先を調べる。
達宣が好きそうな店を思い浮かべる。
自分でも、少し浮かれすぎていると思った。
たった数時間、一緒に出かけるだけなのに。
(……まあ、楽しみなんだから仕方ないか)
そう考えて、祐希は小さく笑った。
一方の達宣も、似たようなものだった。
服を選んで、着替えて、また別の服に着替える。
結局、いつもと大して変わらない格好に落ち着いたのに、家を出る直前までそわそわしていた。
(いや、別にデートってわけじゃ……)
そこまで考えて、達宣は自分で首を傾げた。
付き合っているのだから、デートなのでは?
「……うわぁ」
ひとりで小さく声を上げた。
今さらそんなことを意識している自分が、なんだか恥ずかしかった。
待ち合わせ場所に着くと、祐希はもう来ていた。
「大塚」
「あっ、祐希さん!」
顔を見た瞬間、自然と笑顔になる。
そのことに、達宣自身は気づいていなかった。
祐希だけは、ちゃんと見ていた。
「待ちました?」
「全然。今来たところ」
「絶対うそだぁ」
「ほんとだよ」
「……まあ、いいですけど!」
二人で歩き始める。
憂海歌
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Haru
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心
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最初は少しだけぎこちなかった会話も、気づけばいつも通りになっていた。
店を見て回って、食事をして、くだらない話で笑う。
特別なことは何もない。
それでも達宣は、ふとした瞬間に思ってしまう。
――あ、今、祐希さんとデートしてるんだ。
そのたびに、少しだけ顔が熱くなる。
祐希はその様子に気づいていたけれど、何も言わなかった。
ただ、達宣が楽しそうにしているのを見て、自分も自然と笑っていた。
「祐希さん、こっち見てください!」
達宣が少し先から手を振る。
「これ、めっちゃ面白くないですか?」
正直、大塚が示したものよりも、大塚の笑顔に惹かれた。
でも、
「……ふは、ほんとだ」
「でしょ!?」
達宣が笑う。
祐希も笑う。
それだけで、十分だった。
帰り道。
達宣は隣を歩きながら、ぽつりと言った。
「……今日、楽しかったです」
「うん。俺も」
「また行きたいです」
その言葉に、祐希は少しだけ足を緩めた。
「……また行こう」
「はい!」
返事は、迷いなく明るかった。
祐希は前を向いたまま、静かに笑った。
また、がある。
次も、その次も。
達宣と一緒に過ごす時間を、これからも増やしていける。
それが、こんなにも幸せだった。