テラーノベル
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あれから数日、力の家に寝泊まりしている(ブラックロック)のメンバーは今は家の地下にある防音スタジオに集合していた
力が作った広々とした地下スタジオには大きなスピーカーと機材があちこちに設置され、さまざまな楽器と、床にはメンバーが飲み干した空のエナジードリンク缶がゴロゴロ転がっている
スピーカーが鳴り響き、いつものように新曲の作曲セッションが始まっているが、案の定、4人の自己主張が火花を散らし、戦場と化していた
力はマイクスタンドに歌詞ノートをバシバシ叩いて吠えているし、ギターの拓哉は前下がりの黒髪を後ろでちょんまげに結んでコードを弾きまくる
キーボードの海斗は金髪のショートカットをガシガシ掻きながら、シンセのツマミをいじり倒し、ドラムの誠はドラムスティックを振り回しながらリズムを刻む
「どうでもいいから、早くしてくれよ!」
「一度合わせてみよう!そしたら改善策が見つかるぜ」
拓哉が叫ぶ
「だから違うんだって!俺のビジョンは夜の高速道路をぶっ飛ばすような疾走感!サビでガツンと爆発させるんだ」
力が眉をしかめる
「ダメだ!AメロはEマイナーからDで、サビはパワーコードでガツン! これの何が不満だ!」
力は試しにリフを弾き、重厚な音がスタジオに響く、海斗がそこに口を挟む
「ちょっと待てよ、そのコードじゃキーボードを入れるとダサくなるぞ!めっちゃベタじゃね? アルペジオのコード進行だせよ!」
海斗はシンセをいじり、キラキラしたエレクトロニクスな音を重ねる、それを聞いた誠がドラムを『ドン!』と叩き、プードル頭を揺らしながら口を挟む
「お前ら、コードとか音色とかどうでもいいからさ、まずリズムに乗せろよ! 僕のビートに合わせろ!」
とバドドドドドカン!とドラムを鳴らし、 スティックがシンバルを叩くとスタジオが揺れる
そこにまた力がノートパソコン片手に、サウンドを食い込ませる
「もっと歌詞が映えるようにしてくれよ!」
「お前ら全員コード書き直せ!まるで80年代のハードロックじゃねーか!」
「TikTokでは80年代はバズッてるぞ!」
「俺レベッカ好き」
「ジュディマリもいいな」
「どうしてこんなに話が脱線するんだ!これではライブのオープニング編曲には使えない!」
「ええ?そうだったの?これライブで使う気か?今初めて聞いたぞ!」
「うるせー!プードル」
この時点で4人は完全に喧嘩モードでスタジオはカオス状態だ
ギターのノイズ、ドラムの爆音、キーボードのチリチリ音、力の叫び声がこだまする、それをジフンがオロオロして見守っていた
暫くして散々口論して疲れた力、拓哉、海斗、誠の4人がソファーにぐったりと座り込んでいた。ジフンが床に転がっているエナジードリンクの缶をせっせと片付ける、テーブルに置かれた灰皿はタバコの吸いカスが山積みになった
いつものように熱い議論(というか喧嘩)で新曲の方向性は決まらず、スタジオには疲れと情熱の残り香が漂っていた
ガチャッ!
「パパーーーー!」
音々が勢いよくスタジオのドアを押し開け、まるで小さなロケットのように飛び込んできた、ピンクのスイミングキャップをちょこんと被ったプール帰りの弾ける笑顔が、スタジオの疲れた空気を一瞬で吹き飛ばした
力の顔がパッと輝き、コード表を放り投げて立ち上がる
「音々ちゅわーーーん♪ お帰りぃ~~ん♪」
彼は父親モード全開で両手を広げた、音々がピョン♪と力に飛びつき、小さな腕を首に絡ませる、力は娘をぎゅっと抱きしめ、まるで世界一の宝物を見つけたような笑顔を浮かべた
「スイミング、楽しかった?」
力が音々のほっぺをツンツンしながら聞く
「うん! 今日はおじいちゃんが迎えに来てくれたよ」
「そう~♪よかったねぇ~! さぁ上に行って髪を乾かそう、ここは空気悪いから、子供がこんな汚い空気を吸ったら大変!今日もほっぺ大福みたいだねぇ~♪かわいいねぇ~♪」
力は音々を軽々と抱えたまま、スタジオのメンバーに向かって
「今日は解散!」
と、一方的に宣言してスタスタと洗面所へ向かってしまった、スタジオには呆気にとられた4人が残された
クス・・・
「本当にあの親子そっくりだな、力のあのメロメロっぷり、クールが売りの力のファンが見たら卒倒するだろうな」
海斗がキーボードの電源を切りながら笑う
「もともとクールなイメージに無理があんだよ、イメージ変えるか?」
拓哉もタバコに火を付けて言う
「力さん頭痛の発作も出ていない様で何よりです」
ニコニコしてジフンも言う、誠はドラムスティックを放り投げ、プードルのぬいぐるみを撫でながらポツリと呟いた
「ツアー始まったら・・・力・・・音々ちゃんに会えなくて可哀想だね・・・」
「仕方ないだろ!それが俺らの仕事だ!」
四人はお互いの顔を見合わせ、寂しく微笑んだ
キィ~・・
「あのぉ~~~~」
「あのぉ~~~~」
スタジオのドアがゆっくり開き、真由美と陽子がひょっこりトーテムポールみたいに顔を出した
二人ともメイクはバッチリで髪型も美容院帰りの様に決まっている、実際行ってきたのだろう、陽子においては目をパチパチしてまつ毛エクステもつけて来たに違いない、バサバサのまつ毛を揺らしている
「よかったらあたし達、お庭でバーベキューするんですけどぉ~」
「一緒に食べませんかぁ~?」
真由美と陽子は推しのロックバンドを前にして目はキラキラと輝いていた
「ええっ!ありがとうございます、皆さん行きましょう!」
「いよっしゃぁ~! バーベキュー!? そりゃ行くしかねえ!」
「腹減ったぁ~~~!」
「パンだけじゃねえんだな、サラ・ベーカリー!」
四人は、はしゃいでソファーから立ち上がった、真由美と陽子は顔を赤らめて女子学生の様にクスクス笑い、陽子はバサバサまつ毛をさらに激しく揺らした
夕暮れの力の家の広い庭では、すでにバーベキューの準備が始まっていた
大きなドラム缶を半分に切ったバーべキューグリルは、力が幼い頃に使っていたもので、健一が家の倉庫から持って来ていた、すでに網の上にはジューシーな肉が焦げ目をつけて焼けている
健一が楽しそうに肉を焼き、子供たちの笑い声が響く
音々は力にドライヤーで乾かせてもらった髪を揺らし、浩紀や陽子の子供達と庭を駆け回っている
拓哉は焼きそばを炒める真由美に「マヨネーズ多めね!」と注文をつけていた、ジフンと海斗はビール片手に子供達とフリスビーを投げ、誠は陽子と一緒にテーブルセッティングをしながら楽しくおしゃべりをしている
「韓国の一般家庭ってさ、普通の冷蔵庫の他に、どの家もキムチ専用の冷蔵庫があるんだぜ!びっくりしちゃった」
「あらぁ~♪関西人の一家に一台タコ焼き器、みたいなものかしらぁ~」
「そうそう!ジャージャー麺にたくあん必須みたいな?」
「あらぁ~♪おんなじね~」
「・・・違えよ・・・」
天然の陽子と誠がまったくかみ合わない会話で盛り上がっている、それを海斗が突っ込む、横でジフンがクスクス笑っている
夕陽が庭をオレンジ色に染め、煙と笑い声が空に溶けていく
そんな賑やかな庭から少し離れたキッチンでは、沙羅がバーベキュー用の焼きおにぎりを握っていた
「こらっ、つまみ食いしちゃダメ!」
沙羅が眉をひそめて視線を飛ばす、彼女の横では力がまるでいたずらっ子のようなニヤニヤ顔でおにぎりを頬張っている
タンクトップにショートパンツと言うラフな格好の彼は、こんな頭がボサボサでも沙羅の胸をときめかせる
「お醤油で焼くから、お米味付けしてないのよ? おいしくないでしょう?」
沙羅は呆れたように言う、力は口いっぱいにおにぎりを詰め込み、モグモグしながら言う
「旨いよ」
クスクス「もう~~~焼く前になくなっちゃうでしょ」
沙羅は笑いを抑えきれず言った、力の無邪気な笑顔がやっぱり好きだ、今は米粒を口の端につけたまま、彼は柔らかい微笑みを沙羅に向けている
「ありがとう、みんな君に良くしてもらって喜んでるよ」
力の声は穏やかで心からの感謝が滲んでいた、沙羅は一瞬ドキッとして、頬を赤らめながらギュッギュッと三角おにぎりを握る
「べっ・・・別に! 音々ちゃんや陽子達が毎日ここに来たがるから、それならもう、みんなでごはん済ませちゃった方が一石二鳥でいいじゃない?」
サラは照れ隠しにせっせと握った、ここ数日、力を慕ってやって来たブラック・ロックのメンバーの為に沙羅は進んで食事の世話をしていた、そこに陽子や真由美も手伝った
韓国にいる時は、食事はほとんどテイクアウトかUber Eatsで、ツアーが始まるとホテルのルームサービスしか食べさせてもらえないと言う力から以前聞いた言葉が心に引っかかっていたからだ
力のその言葉を思い出す度、沙羅は思った、日本にいる間くらい温かい家庭料理をたっぷり食べさせてやりたいと・・・彼女の手作りハンバーグやカレーはすでにメンバーの間で大好評だった、彼らは何を出してもペロリと平らげ
「力嫁の飯、ヤバい!」
と評判になりつつあった、その度沙羅は
「嫁ではない!」
と訂正するが、彼らは聞き入れなかった、力やメンバーが日本にいる間、こうやって賑やかな食卓を囲めることが、沙羅にとってはいつの間にか小さな幸せになっていた
とその時、力の目がキラリと光り、もう一つのおにぎりに手が伸びた
「おっ!中身シャケ、いただき!」
沙羅が素早く力の手首をガッチリ掴む
グググ・・・「もう~~ダ~~~メ! お肉食べて来なさい~~!」
グググ・・・「これがいい~~~~!」
子供を叱る母親の様な沙羅に力はニヤニヤしながら抵抗し、おにぎりに手を伸ばし続ける、力の手が伸び、沙羅がそれを押し返す
ガンッ!「痛ッ!!」
その時力が悲鳴を上げた、沙羅が開けっ放しにしていた上の戸棚の扉に、彼のおでこがクリーンヒットしたのだ
「いってぇ~~~~(泣)」
「キャア! 力! 大丈夫?」
勢いよくしゃがみ込み、おでこを抑えてうずくまる力、沙羅は慌ててしゃがみ込み、力の顔を覗き込む
「血、出てる?」
力は涙目で呻く、その顔がなんとも可愛い
思わずクスクス笑いが沙羅から漏れる、前髪をかきわけ、力のおでこを確認するとかなり赤くなってるが、特に大したことは無い
クスクス・・・
「 血は出てないよ、ただ赤くなってるだけ、痛いの痛いのとんでけ~~~」
チュッ・・・
・:.。.・:.。.
ハッと二人は目を見合わせた、無意識に沙羅が力のおでこにキスしたのだった
―私ったら今何をしたの?―
「ごっ・・・ごめんなさいっ・・・」
恥ずかしくて咄嗟にその場を離れて、沙羅は食料品庫へ逃げる、穴があったら入りたい、途端に力が逃がさないとまでに三歩で追いついた、そしてぐいっと沙羅の二の腕をひっぱって自分の方へ向かせた
「今の何?」
力に真剣な顔で沙羅の両手を掴んで見つめられる、途端に髪の生え際まで真っ赤になった、どうしよう・・・力の顔が恥ずかしくて見れない・・・両腕も掴まれていてこれじゃ逃げれない
「べっ・・・べつに・・・意味なんか・・・ただ音々と同じ顔してるから、つい・・・」
「僕もしていい?」
「ダッ!ダメ・・・」
「したい!」
「ダメだってば!」
つい八年前の・・・まだお互いがお互いのモノだった時の気安さが出てしまった
沙羅はじっと力を見つめた、かつては目の前のこの体は沙羅のモノだった、彼の手を握ったり、抱きしめたり、キスをしたりするのに躊躇はなかった、そしてそれは今も変わらないと力の瞳は語っていた
力が欲しくてたまらない、決して欲しがってはいけないとわかっているのに・・・
あまりにも長い間抑え込んでいた欲望が一気に高まっていく
この欲望を解き放ってくれるのは・・・
あの弾ける様な解放感を与えてくれるのは、目の前のこの男性ただ一人・・・
「見ろよ、こんなになっちゃったじゃないか」
ぶすっと力が顔をしかめて言う、沙羅の体を抱き寄せて腰をぴったりひっつけ、大きくなった股間を押し当てて来た
それはとても硬く、たぎっていて、服の上からも熱が伝わって来る
「沙羅が僕をこうさせるんだ」
「わっ・・・私のせいだって言うの?」
驚き、あきれながらも沙羅の体はまるでひからびた植物が水を求めるように、力の逞しい胸板に引き寄せられる、小さな震えが駆け抜け、呼吸が苦しい
「沙羅だって同じだろう?目がそう言ってる・・・かつて僕達は言葉にしなくてもお互いの気持ちが通じていた」
「む・・・昔のことよ、力」
「僕は今でも感じている」
さらに強く腰を引き寄せられ・・・力の硬い股間をぴったりお腹に引っ付けられる
途端にこれが自分の体の中に入った時の、あの痺れるような感覚が鮮明に記憶に蘇った、その甘い誘惑にブラジャーの中の胸の先が尖り、脚の付け根が急速に熱を帯びる、沙羅はあまりにも敏感な自分に困惑した
「だっ・・・誰かに見られるわ・・・」
「見られたって誰も何も言わないよ」
壁に背中を押し付けられ、二の腕を力に優しく撫でられるととろけそうになる
ハァ・・・
「ねぇ・・・沙羅・・・これ以上じらさないでよ・・・僕が君にしか反応しないの知ってるでしょ?他のヤツは「人間」としか認識してないよ、男も女も・・・それは八年間変わらない、こんなに近くにいて綺麗な君に触れないなんて拷問だよ、僕からお願いするなんて厚かましい事は出来ないよ、だからずっと君から来てくれるのを待ってるんだよ?そろそろ限界」
「力・・・」
ドキン・・・ドキン・・・
・:.。.・:.。.
肌も燃えるように熱くなっているが、力の冷たい手が触れた所に火が点くせいで、もう熱いのか冷たいのかわからない、感じるのは触れ合いたいと言う欲求だけ
「ね?お願い・・・ちゅ~だけ」
「ダメ!」
「ちょっと目を閉じてみない?」
クスクス・・・「閉じない」
やがてお互いの顔がキスをしやすいように反対側に倒れ・・・二人同時に目を閉じた
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
・:.。.・:.。.
バター―――ンッ
「ママーーーー!シャボン玉どこーーーー!!」
「ハッハーイ!今行くわ(焦)」
音々と浩紀の声にパッと沙羅は力から離れ、力は壁に頭突きをし、そのまま固まった
みんなのいる庭に戻ってバーベキューを続けていても、沙羅はずっと力が自分を熱く見つめているのを感じていた
チラリと力を見ると、彼はセクシーな唇を皮肉っぽくゆがめた、沙羅の頬が熱くなり、冷静を装っている仮面の下で、力を求めて体が疼き、その疼きが何も増して沙羅を狼狽させていた
次に力に迫られたら私はもう拒めないかもしれない・・・
・:.。.・:.。.
沙羅は目の前にあるコカ・コーラを一気に飲み干した
・:.。.・:.。.
その時、遠くの方で力邸の庭の様子を伺っている一台の真っ黒な車がいることを、その時は誰も気が付かなかった
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