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レスバ強強よっちゃん良き…! 後日談キャラの解像度高すぎて脳内再生されましたね…
最高でした!烏潔大好きで!ほんとにおもしろかったです! リクエスト…?失礼します!士潔の兄弟パロ見てみたいです!(ちなみに潔兄で士道弟だと嬉しいです…m(_ _)m)
非凡か凡か。世の中はその二択であると烏旅人は考える。無論、旅人自身は自分を”凡”だと感じている。馬鹿にされればで悲しみ、普通のことで感動する。昔からそんな平凡な自分に嫌気が差していた。一方、旅人の実の弟である烏世一は”非凡”である。世間一般でいう天才。凡の皮を被った非凡_。まさに隠れ狼である。
周囲からは兄の旅人の影に隠れ弟の世一は評価されずに埋もれているが、やはり個人の能力として世一の力は素晴らしい。兄として世一の本当の力を周りにひけらかしたい気持ちはある。が、『世一の本当の価値は自分だけが知っていればいい』と”兄弟愛”という言葉では片付けられない程の歪んだ感情が旅人の中を蝕んでいっている。
「兄さーん?朝ご飯出来とるってー!」
「…」
ドタドタ。と階段を忙しなく上がる音が聞こえ、旅人は身構える。…と、同時に世一がバーンと勢いよく扉を開けた。いつものことながら扉が心配になるほどである。
「…起きとるやろ!」
だんまりを決め込む旅人に違和感を覚えたのか、はたまた己の空間認識能力が働いたのか、定かではないが、寝ているにしては呼吸に均一性がないことに気づいた世一は頬を膨らませながらも
、部屋のカーテンをバッ、と開ける。思わず「まぶしっ」と言葉を零した旅人。反応がない世一の背中を見て聞かれてなかったか…と安心したのも束の間、ニコニコと言い笑顔をした世一が旅人に迫り来る。
「に・い・さ・ん?」
ゴゴゴゴゴ。と圧を背後に感じながらもまだ寝たフリを続ける旅人。大分肝が据わっている。一方の世一はまたもや頬を膨らませ、もういいや、と思い、「待っとるかんね、」と声をかけ、旅人の部屋を後にしようと扉に向かった。_はずだった。
「…兄さっ!?」
方向転換をした際に手が僅かに後ろに出た瞬間、布団から旅人の長い腕が出てくる。驚く世一を気に留めることもなく長い腕で世一の手首を掴み、自分の入っている布団へと引きずり込む。しばらくは抵抗しようともがいていた世一だったが、旅人の腕力の前では無力。フィジカルも特にない世一は更にキツく旅人に抱きしめられる。
「逃げへんから…、ちょい痛いって!」
世一の決死の訴えは旅人に聞き入れられたようで、僅かに抱きしめる力が弱まった。
(…休日でこんなに天気もええんに…もー!)
内心悪態をつきながらも、先程自分で開けたカーテンから漏れる光と実の兄である旅人の体温によってぽかぽかとしてきた世一の意識は夢の中へと沈んでいった。
「…ったく、可愛げがなくなりよって…」
自分の腕の中で幸せそうに眠る世一の顔を拝めながらも、幼い頃の世一の非力さを思い浮かべる。
(まぁ、けどええわ。あんときみたいにならんだろうしな。)
あの時とは。
この年になってもまだ旅人が引きずっている話であることから相当重いものであることが分かる。その話の当人である世一はそこまで気にしていない_、というか、覚えていないようだが。
あの話とは、
_世一が攫われた時の話である。
◇◆◇
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「ん、なんや世一。そないにくっついて。」
お兄ちゃん、とまだ幼い世一が旅人の足元に抱きつく。
近所の広い公園に兄弟でサッカーをやりにきた。先程まで姉と母もさっきまで一緒に来ていたが、道中でショッピングモールを見つけたようでそちらに吸い寄せられていった。二人とも自分たちが公園に行くことは分かっているだろうし、なにせ日常茶飯事の出来事であったため、旅人らは特に気にすることなく公園に世一を連れて行った。
日曜日の公園には烏兄弟が来たときには既に多くの人が居り、端っこでサッカーをすることになった。
「パス!」
「!?」
「お兄ちゃん!」と言い、いきなり自分から離れたかと思えばボールを足元に収めていたようで、ドン。と勢いのあるボールを蹴り出した。
それに驚きながらも危なげなくボールを足元に収める。いきなりボールを蹴り出したことに驚いたのか、_否、世一はサッカーをするのが初めてであり、経験ゼロの状態であのボールを蹴り出したことに驚いたのだ。
「すごいやんか世一!」
「!」
興奮した様子で世一に駆け寄り、双葉を潰さないように頭を撫でる。世一は驚きながらも「ふふ」
とくふくふ笑っている。それをもろに受け取った旅人は見事KO。世一の頭を撫でていないもう片方の手で顔を押さえている。
「?、お兄ちゃん?」
顔に手を当て悶えている兄に違和感を覚えたのか、心配するように顔を上げて旅人を見上げる。はたまた世一の無自覚攻撃を食らった旅人は「んぐっ」と再び悶えながらも世一に向き直る。
「すごい、すごいで世一!初めてであんなん…天才や!」
「…すごい?」
旅人の言葉「?」というような反応をする世一だったが、旅人に褒められて嬉しかったのか、にぱーっ!と効果音が出るほどの笑顔を見せて旅人に聞いた。その笑顔につられて「すんごい!」と笑顔で言う旅人であったが、腑に落ちたように世一と向き直る。
「世一、俺とサッカーしようや。」
いきなりの言葉に驚きを隠せない世一だったが、大好きな兄からの誘いは幼いながらに嬉しく、
「うん!」
ととびきりの笑顔で言った。
☆★☆
「流石に疲れたわ…」
時は経ち、山際に日が沈む頃。
旅人は独りでに呟いた。いつもなら返事をする世一だが、流石に疲れたのだろうか、だんまりとしている。
「おし、世一。帰るで」
家に帰ると言っても返事が返ってこないことに違和感を覚えた旅人は周りを見渡す。
_世一はいなかった。
物陰を探しても、遊具周辺を探してもいない。流石に焦る旅人の元に、買い物を終えた姉と母がやってきた。
「旅人、そないに慌ててどしたん?」
母ののんびりとした声が旅人を現実に引き戻す。「…居らんねや…」と小さく呟く旅人の言葉がよく聞こえなかったのか、二人は何事?というような顔をしている。
「世一が、居らんねや…!」
旅人の小さな叫びに、二人は顔をぎょっとさせた。
☆★☆
ウーウー、とパトカーの音が夜街に響く。
旅人が世一がいないことに気づいてから一時間後。あれから母は焦ったように警察と父に連絡し、姉は近くを捜し回っていた。
だけどもどこにも世一は居ない。
プルルルルル…。
シーンとした烏家に母のスマホの電話音が響く。すぐに外へ出て不安そうに電話に出た母の表情は戻ってきたときには安堵のものに変わっていた。
「世一、保護されたって」
その一言が烏家を救った。
☆★☆
あの後すぐに車に乗り込み警察署へと向かった烏家。既に警察署には世一が居り、旅人は一目散に駆け寄った。
「世一、世一!」
「!」
抱き締めた世一の体は少しだけ冷えていた。抵抗もせず、旅人に抱き締められていただけの世一は次第に現実に引き戻されたようで、ぎゅっ。と抱き締め返してきた。
「ごめん、ごめんな…」
そんな世一の行動がどことなくよそよそしく、旅人は涙を流しながら謝った。遠くで両親と警察官の会話が聞こえる。
「世一くんを狙った誘拐です。」
警察官の言葉を聞き、更に抱き締める強さが増す。俺が目を離したから、俺が世一と居ったのに…。と自分自身を責め立てる旅人の心情を知ってか知らずか、姉が旅人の肩に手を置く。
「ごめんな、世一…」
世一の瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。
◇◆◇
だから旅人は過保護なのである。
「距離近っ!」
「過保護すぎー」
そんな周りの言葉など気にしない。
なにが距離感だ。兄弟なんだから普通だろうに。
なにが過保護だ。あんな事があったんだから過保護にもなるだろう。
自分たちの都合も知らずに口突っ込むな。これが旅人の本心である。
世一を守れるのは自分だけ。常にそう思い過ごしている。
世一のサッカーの能力は素晴らしい。だが、それを凌駕するほどに、周りを誑かす能力は凄まじい。先程話した事件もソレ繋がりである。バレンタインデーには女性からは勿論、男性からもチョコを大量に貰っていた。
早朝早々呼び出されてはチョコを渡され、休み時間にはコンビニなどで買えるチョコを渡される。
「世一くん!コレ、バレンタインチョコ!」
「か、烏。コレ、やるよ。」
誠に羨ましい限りである。
少しは迷惑であるだろうに、必ず「あんがとー!」と笑顔で受け取る世一。やはりこういう人に人は集まるのだろう。愛嬌があり、理解力もある。更には勉強もでき、運動もできる。とんだ優良物件である。
一方で、兄である旅人はバレンタインデーにウイスキーボンボンをいくつか貰っていた。完全にイジられている。
…とはいえど、旅人はモテる。小学生の頃はクラスで一番可愛いと言われていた女の子に告られ、中学、高校になってもその勢いは途絶えることはなく、時には放課後に屋上へ呼ばれ、時には自身の下駄箱に手紙_、所謂ラブレターというものが入っていたり、はたまた時には公開告白もされた。勿論、全て断った。旅人の心は生まれた頃から世一にしか惹かれておらず、周りには目もくれていない。
「兄さーん。」
声がした扉の方向には人だかりができていた。
(また人を集めよって…)
ムカムカとする胃に気づかないふりをしながら机にかかっていたバッグを運ぶ。
「わざわざ上まで来たんか。」
弟である世一は二年生である。二年生のフロアは二階。一方、兄である三年生の旅人のフロアは三階。わざわざ一緒に帰るために階段を登ってきたのだろう。
「んー、まぁ。早めにホームルーム終わったんよー。」
待ってるのも暇やし…。と頬をかきながら言う世一の視線はあらぬ方向にいっている。
そんな言葉を交わしながらも下駄箱に着く。別々の方向に行ってから外で合流。いつもの流れである。
「そんなにはよお兄ちゃんに会いたかったんか。」
ハッ。と鼻で笑いながらも乱暴に世一の頭を撫でる。「んー?」とされるがままに頭を撫でられている世一は旅人の手を気にもしていない。
「まぁ好きやし。」
沈んでいく太陽を見つめながらも平然と言ってのける世一に少々驚きながらも(そーいう奴やったわ…)と納得する。
「ねむー…」
くぁー。と欠伸をする世一。
土曜日。時刻は6:30。烏兄弟が所属するユースチーム、バンビ大阪は早朝から練習試合に向かっている。
「なー。朝から大変よね。」
広いバスの中、隣にピッタリと座る氷織も眠たげに目を擦る。旅人?旅人は後ろの方で同学年の子と話してますよ。とは言っても、旅人もできることなら世一の隣をキープしていたかった。だが、座席に余裕があるため学年ごとに別れて座るようにとコーチに言われたのだ。その時の旅人の顔といえば…人を余裕で殺せそうな物騒な顔であった。周りもビビるほどに。
高速道路に入ったのか周りの音が先程よりも落ち着いている。
画面で流れている少年漫画物の映画の音声がバス内に響くことはなく、それぞれの会話に映画の音は掻き消されていく。
そんな中、世一は母親に作ってもらった朝ご飯をもしゃもしゃと頬張りのんびりと咀嚼している。その姿を隙かさず写真に収める氷織。ちなみに、先程の欠伸も写真に収められている。 今日撮った写真たちは氷織のパソコンに移動。そして世一専用ファイルである『世一くんファイル』に収められる。
「楽しみやなー、今日の試合!」
食べ終わったのか自身のバッグにしっかりとゴミを仕舞う。目をキラキラとさせながら氷織に話しかける様は傍から見ても即死ものである。だが氷織はくたばらない。ぐっ、と拳を固めながらも「そやね、」と相槌を打つ。
「和歌山のとこやっけ?」
「そ!強いとこらしい! 」
えーっと、と思い出しながらゆっくりと言う氷織に餌に食って掛かる魚のように食いついた世一はやる気が漲っている。
「けど、世一くんの前やったら歯が立たんよー。」
関西では敵無し烏兄弟。とそれを補佐する氷織羊。全国的に有名な名前であることは世一自身は全く知らない。だからこそ自身の力量を把握していない世一は相手を精神もろともボコボコにしてしまう。
「そんなことあらへんよー。羊のほうが強いし!」
そんなことをほざく世一に内心何言ってんねん、となりながらと笑顔を保つ氷織は相当絆されている。
◇◆◇
「つまんな。」
試合中に世一が相手チームに吐き捨てた言葉。短い言葉でも自信があった相手チームには刺さったようで、薄っすらと涙を浮かべていた。
「お前な…、そんな言ってやんなや。分かっとったやろ、こんくらい。」
「せやで、世一くん。落ち着きや。」
更に続きそうだったレスバを読み取ったのか、旅人、氷織が止めに入るがさりげなくディスる。それによって更に相手チームの心は抉れ、大粒の涙が地面を濡らした。
それに構うことなくどんどんと得点を決めていくバンビ大阪。その得点源は世一であり、それを支えるのが旅人と氷織である。無論、二人共隙あらばゴールを狙っている。が、なにせ世一が完璧な位置取りをしているおかげで最適解は世一のシュートとなっている。
そんなこんなで完璧なる三角形により相手にボールを取らせることなく終了。
試合後には試合内容の無さに不貞腐れながらも相手の良いところを盗む世一であった。
「強化指定選手に指定されました…? 」
放課後、いつもの様に二人で帰ってきた烏兄弟。ポストを見ると二通の封筒が。しかも二人宛である。
「新しい育成プロジェクト、なぁ…」
胡散臭さを感じながらも乗り気な旅人。そして兄よりも目を輝かせているのが世一である。
「目、付けてもらえとるってことやろ?嬉しー!」
日本サッカー界のお偉いさんたちに認知されている事が嬉しいらしく、分かりやすく上機嫌になる。
ブー。と机が揺れたかと思えば世一のスマホだったらしく、すぐに着信の正体を確認する。
「羊も届いとるって!その封筒!」
ドン!と旅人の目の前にスマホを見せる。だが近すぎて何も見えなかったらしく、少し椅子を引いて見る。
[JFUから封筒が届いたんやけど、世一くんは?]
[届いとったー!兄さんも一緒やったよー]
トークルームの会話らしく、世一の様子しか聞かない氷織にはやはり自分と同じものを感じる。
「で、行くん?」
「行く!」
旅人の質問を待っていたかのように食い付く世一。それに少々面くらいながらも呆れたように「そーよな。」と返す旅人には母親味があった。
◇◆◇
「…は?」
「おはようさん、世一くん。」
「おはよー!」
玄関の扉を開けた先、氷織がそこに待ち構えていた。思わず声を漏らす旅人には目もくれず、世一と挨拶を交わす。そんな空間に惹き込まれた旅人であったが、すぐに現実に戻ることとなる。
世一が外に出た矢先、氷織が手を繋ぎ始めたのだ。ただ手を繋ぐだけなら千歩譲って良しとしよう。だが、彼らがやっているのは所謂”恋人繋ぎ”。
「いやいやいや、何平然としてんねん。」
それに気がついた旅人は即刻氷織から世一を引き剥がし、自分の側に置く。
「なに、って…。手、繋いどっただけやけど。」
光が灯っていない瞳で旅人を睨む氷織。旅人の後ろで世一はひゅっ、と喉を鳴らす。 傍から見ても軽くホラーものである。
「い、行こーや…」
ドス黒い雰囲気を放つ氷織をなんとか宥めようと世一が二人の間に割って入る。 世一が入ったおかげで氷織は笑顔になり、「せやな。」と短く返事をして歩いていった。
二人に置いてかれた旅人は独り胃を痛めながらも歩き出した。
◇◆◇
「ここやな。」
スマホの地図アプリを見つつ、目の前の建物を見て言った。
「おわー!たっかいビルやー!」
目をキラキラとさせながら今にも走り出さんとする世一の制服を旅人が掴む。
「待てやコラ。制服乱れてんぞ。」
向き直った世一の制服は乱れていた。ネクタイは曲がり、ブレザーの襟も少し崩れていた。そんな世一の服装を整えたのは氷織。「あんがとー」と一声かけ、ビルに意気揚々と向かっていく。
◇◆◇
「常識を捨てろ。ピッチの上ではお前が主役だ。」
「!」
「ちょ、世一!?」
「世一くん!?」
絵心の言葉に感化されたのか一人の少年が走り出す。周りが野次を飛ばしているが自分の知ったことではない。「くそ…」と言いながらも彼の後ろに付いて行ったのは先程彼の名を呼んでいた二人。
その三人を引き金として、青い監獄プロジェクトは始まった。
(289…Z…。)
ROOM Zと書いてある扉を前に足を止める。兄である旅人はいないし、相棒である氷織もいない。
多少の不安が世一を襲う。が、自分で走り出した物語だ。もう戻ることはできない。と腹を括り扉の先へと足を進める。
そこに居たのはボディスーツを身に纏った男達。絵心の話からすると自分と同じ年くらいである。
「あ、ワリ。」
「?」
そんな事を考えていると前から勢いよく服が飛んでくる。男の忠告のおかげか、はたまた自身の空間認識能力が働いたのか、世一はそれを避けることができた。
「服飛んだ。」
「だいじょぶやでー。」
世一が避けたおかげ落ちていった服を拾い男に渡す。
「下、気をつけろ。」
「?」
ふと下を見れば男が寝ていた。よく聞けば「…ヘイ、ジーコパス…。ちゃんと出せ…ジーコ…。」と意味不明な寝言を言っている。
少々驚きながらも自身もボディスーツを身に纏う。
「キミあの吉良涼介!?日本サッカーの宝!?すげー!本物じゃん!」
「あ、ありがと…」
静かな部屋の中、坊主頭の声がキャンキャンと響く。その坊主頭に手を握られてぶんぶんと回されているのはキラキラエフェクトを散りばめている”日本サッカー界の宝”、吉良涼介。
(てゆーか、この部屋の広さ…。)
〈着替えは終わりましたか。才能の原石共よ…〉
部屋を見渡し考えていた時、ふとモニターの電源が付き絵心が映る。(遠隔式…)と少し驚いている世一。ところが当の本人は世一の様子を気に留めることなく〈やぁやぁ。〉と手をワキワキさせている。
〈今、同じ部屋にいるメンバーはルームメイトであり、高め合うライバルだ。〉
絵心の言葉に部屋はざわつく。そんなことは関係なしに、ホログラムを使いながら説明を続ける。
〈お前らの能力は俺の独断と偏見で数値化され、ランキングされている。制服に示される数字がそれだ。〉
(俺がここのてっぺんやね。)
周りの数字を確認し、自分の数字を見つめる。288…。300人いる内の288番目。自分の上には人がいると思うが、高校生にはそんなにいないだろう。と世一は考える。己の価値は己が最も分かっている。だからこそこのランキングは嘘だと世一は考える。
ちなみに最下位はあの坊主頭らしい。それはきっと本当だろう。
〈そのランキングは日々変動し、トレーニングや試合の結果でアップダウンする。
そしてランキング上位5名は無条件で六ヶ月後に行われる大会_…
U-20W杯、FW登録選手とする。〉
◇◆◇
〈さぁ、”オニごっこ”の時間だ。〉
その後も絵心の長い話は続いた。要するにここで勝ち上がれということ。そしてその最初の関門、オニごっこが今、始まる_。
「最底辺の俺が最初のオニかよ…」
モニターからは絵心が居なくなり、タイマーとボール保持者の名前が映っていた。
五十嵐栗夢。ランキング300。いきなり始まったオニごっこに皆困惑しているが、この坊主は乗り気らしい。
早速、オニごっこは始まる。
◇◆◇
(つまんな、)
残り1分。オニは五十嵐栗夢。
先程寝ていた男に狙いを定めていた彼であったが、見事に顔に蹴りを喰らっていた。それに腹を立てたのか最初に服を飛ばした男と揉めていたが、イガグリが蹴ったボールが見事ヒット。次のオニは國神錬介。怒り狂った彼はイガグリ目掛けてボールを蹴った。
そして今に至る。ボールが当たったイガグリは蹲っている。
「んなら、そろそろやね。」
ボールの前に座り込んでいるイガグリを他所に呟く。
「もらうでー。」
瞬間、ト。と音を立て、鮮やかなボール捌きで皆を翻弄するのは烏世一。
「部屋の広さは16.5×40.32。P・Aと一緒。」
リフティングをやりながら呟く。残り時間は45秒。
「一試合の中で一人のプレイヤーがボールを保持できる平均時間は約136秒…」
リフティングを一度やめ、一人を目掛けて走り出す。残り時間は30秒。
「ここまで言えば分かんね?」
「すごいねキミ!」
いきなり飛び出てくることが分かっていたように男_、蜂楽廻にパスを回す。
瞬間、蜂楽は吉良の方へボールを蹴る。が、避けられる。 だが、その先には人がいる。
「ほーい!」
烏世一が。
世一が蹴ったボールは勢いよく吉良の顔へ飛んでいった。残り時間は2秒。
吉良はその場に座り込んだ瞬間、プァーン。とオニごっこ終了の音が鳴った。
「え…?」
〈お疲れ、才能の原石共よ。
ここでは結果が全てだ。敗れた者は出ていけ!吉良涼介、失格!!〉
混乱する吉良を他所に、絵心はスタスタと説明をしていく。
「急に、…Q…B…K!!」
「世一って関西出身?」
世界選抜チーム戦後。今後プロとして活躍するならば英語能力が乏しすぎるということで勉強会が開催された。
そんな中、蜂楽の純粋な疑問が世一に投げかけられる。
「んー、まぁ。大阪出身。」
ペンを回しながらだから何?とでもいうように平然と返す世一に皆驚いていた。
「お、大阪なんだ…!京都だと思ってたよ、」
「そうだな。”俺”も世一のオシャな喋り方は京都の方かと思っていた。」
確かに、世一は大阪人にしてははんなりとした喋り方をする。あんまり(試合外は)暴言は吐かないし、どことなくふんわりとした雰囲気を纏っている。
「あー、京都。相棒が京都人やったからねー。」
なるほど、と時光と蟻生がなる中、蜂楽が”相棒”という言葉に反応した。
「相棒?俺以外にいたんだー!」
世一の手前明るく言っている蜂楽であるが、内心は穏やかではない。今もドス黒い何かが蜂楽を蝕んでいる。
「蜂楽も相棒やけど、小さい頃から一緒やったから…」
「んもー!世一の浮気者ー!」
自分の頭の中から蜂楽をできるだけ刺激しないような言葉をチョイスする。このチョイスは間違っていなかったようで、蜂楽はぎゅ~と世一に抱き着く。
時は経ち、三次選考 ジョイントルーム。
1stクリアチームは現青い監獄No.1 凛が率いる、凛、蟻生、時光、世一、蜂楽の五人である。世界選抜チームとの戦いの後、凛と世一の二人で英語を教えたのは良い思い出。
次に2ndクリアチーム。凪、馬狼、千切、斬鉄、清羅。
「ちーっす。」
「来たぜヘタクソ。」
「100万年振り。」
上から凪、馬狼、千切。世一に激重感情を抱いている三人組である。
続いて3rdクリアチーム。旅人、乙夜、雪宮のいるチームである。
世一は旅人の姿を目に入れた時、咄嗟に目を逸らした。
「おいコラ世一。何目ぇ離しとんねん。」
「いだっ!すんませんすんません!」
世一の頬を掴んだ旅人は乱暴に自分に向き直させ、事情聴取が始まるかと思いきや、次のチームがどんどんと入場してくる。
「コラ旅人。世一くんになにやっとんねん。」
いつの間にか入場していた氷織は旅人の腕を払い落とし世一を抱き寄せた。その氷織の様子にチッ。と舌打ちをし、不機嫌を体現する。
「なんや氷織。兄弟の話に割って入るなや。」
「はっ。今更やろ。」
「ちょーいちょい。みんな揃ったんやけど…」
世一の言葉にハッとし、周りを見渡せば確かに人が集まっている。更にはざわついているではないか。
「世一のお兄さんってその人?」
「あー、うん。」
蜂楽の問いかけに渋々答える世一の様子が気に食わなかったのか肘で世一を突く。
「え、信じられない。」
「うーん…信じられないくらい似てないね。」
世一の答えに旅人と同チームであった乙夜と雪宮が食いつく。
「うっさいわボケぇ!」
その言葉に更にキレたのか、青筋を立てながらも言った。
三週間後に試合が始まる。糸師冴率いるU-20日本代表VS“青い監獄”選抜。
勝てばU-20日本代表の座を奪える。逆に、負ければ青い監獄は消滅する一戦。
相手は本職のDFやGK。そんな奴らにたかが無名高校生FW達は叶うはずもないというのが絵心の考え。だが策はある。総合評価TOP6の人間を中心にチームを作る。それが青い監獄唯一の策である。
そのための三次選考。このTOP6とどれだけ化学反応を起こせるか。U-20日本代表戦、レギュラーを賭けた適性試験。
〈まずは総合No.1…、糸師凛。〉
自分が何か言うことも、周りが何も言われることもなく凛は前に出る。
〈続いてNo.2…、士道龍聖。〉
「出た、ばびょん♪」
余裕の表情でそう言う士道は前に出て早々凛と睨み合っていた。
〈さぁ次だ。No.3。烏旅人。〉
「理解っとるやんけボケ。」
〈No.4。乙夜影汰。〉
「ちゅーす。」
〈No.5。雪宮剣優。〉
「はい。光栄です。」
〈ラストNo.6は…〉
トントン拍子で言っていったTOP6もラスト。誰もが選ばれたいと望み、絵心の言葉を待つ。
〈烏世一。〉
「ほーい。」
溜めた絵心の言葉は誰もが聞き逃す事なく拾われた。
〈そして特例として2試合分やるのはNo.7。凪誠士郎。〉
「お。」
その後に大まかな説明をされ、TOP6は別室へと通されて行った。
どうもししょー。です!
前回のお話がだいぶ好評で独りでに喜んでました!(笑)
今回は兄弟ものを書いてみました!烏と潔が本当にどストライクすぎて…
年上の方々は良いですよ…!包容力がある…!
この後の展開も書きたいなーとは思ったのですが力尽きました…(笑)
なんとなくの後日談 in渋谷↓
乙「世一、烏と違ってかわいーじゃん。アガる。」
旅「アガンなボケ。」
乙「渋谷の女子よりアガる。」
蟻「世一はそれ程にオシャだからな。」
雪「オシャってよりかはキュートかな…」
玲「分かるなそれ。囲いたくなる。」
時「か、囲う!?それ、平気なのかな…」
世「俺が居るとこで言うなよソレ。」
ぜひ貴方様の推し様の小説も書かせて頂きたく…
リクエストがあれば教えてください!速攻で書きます!(笑)
今回も読んでくださりありがとうございました!