テラーノベル
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※このシーン入れたくてややこしいキャラ(蓮司)登場させた感ある笑
普通の恋愛ものでよく見るベタな展開を書いてみたかっただけ……
カフェの窓から、にぶい午後の光が射していた。
テーブルに並ぶコースターの輪郭だけが、やけにくっきりと目に入る。
蓮司は、砂糖をひと匙落としてかき混ぜながら、音を立てずに笑った。
遥は窓の外を見たまま無言。日下部も、カップに触れようとしない。
──この沈黙すら、すでに“場”の一部だった。
蓮司が、カップを置く音をわざとらしく鳴らす。
「この前、偶然見かけたんだよ。遥とおまえが話してんの」
日下部が目を向けたが、蓮司は続ける。
「駅のとこ。……あの距離感、けっこう良かったぜ」
「偶然だ。たまたま、すれ違っただけだ」
日下部が即座に返す。語尾がわずかに硬い。
蓮司はその温度の差を楽しむように、ゆっくり背もたれに身体を預けた。
「ふぅん。けど、“すれ違う”ってさ、物理的にも、気持ち的にもって意味あんじゃね?」
その言葉に、遥がわずかに目を動かした。
「なにが言いてぇんだよ」
日下部が低く問う。
「別に。……おまえが何を思ってようが、俺は興味ないよ。ただ──」
蓮司は遥をちらりと見る。
だが遥の顔は無表情で、感情をすべて押し殺したままだ。
「“勝手に期待して、勝手に失望すんのって、ダサい”よな」
その言葉は、明らかに日下部に向けられていた。
日下部は睨み返したが、蓮司は肩をすくめた。
「……おまえさ、何がしたいんだよ。ほんとに」
「別に。遊んでるだけ」
蓮司はあっさりと答える。
その“軽さ”が、逆に重苦しかった。
「それで、遥はおまえの──何なんだ」
静かな一言。
だがそれには、確かに怒りと、疑問と、揺れがあった。
蓮司は笑った。
「どうだろな。俺は、物じゃないと思ってるけど。……少なくとも、他の連中よりは」
「てめぇ──」
「……日下部」
遥が唐突に口を開いた。
その声に、二人とも一瞬だけ沈黙した。
遥は、顔を上げていた。
わずかに笑ったような口元。
だが、目は笑っていない。
その奥にあるものは、諦めとも、怒りとも、挑発ともつかない、
まるで“深い底”に沈んだ声だった。
「なんでおまえが、俺のことでキレてんだよ」
日下部が言葉を詰まらせる。
遥は、続ける。
「おまえに助けてって言ったこと、一回でもあったか?」
「……ちがう」
「なら、黙ってろよ」
蓮司が、その横顔を見つめる。
その言い方が、演技か本音かわからないほどに無感情で──逆に、深い。
日下部は言葉を飲み込んだまま、
それでも、視線を逸らさずに言った。
「──おまえがどう壊れてもいいなんて、思ったことねぇよ」
遥が、止まる。
その言葉だけは、ほんの一瞬、胸に刺さった。
だが、すぐに嘲笑のような笑みを浮かべた。
「壊れてるよ、もう。ずっとな」
「それでも、──それでも生きてたじゃねぇか。おまえ、それでも、立ってた」
その言葉が、遥の胸に食い込んだ。
“生きてた”
その単語だけが、まるで異物のように響く。
まるでそれ自体が、罪のように。
遥の指先が、小さく震えた。
──生きてるのが悪いのかよ。
──死んでた方がよかったってことか?
言葉にはしないまま、胸の奥で何度も反芻する。
「ねぇ、遥。こいつ、結構しつこいよね」
横で、蓮司が少し眉を動かした。
その時だった。
遥が突然、蓮司の腕に手をかけた。
テーブルの下、袖を掴んだまま、顔は笑っていた。
「──俺、こいつと付き合ってるから」
一瞬の沈黙。
蓮司の顔に、驚きが走った。
何かを“本当に予期していなかった”顔だった。
「……は?」
日下部が、低く、息を呑む。
蓮司は遥の顔を見て──笑った。
喉の奥で、くくっと噛み殺すように。
「……マジで、それ言っちゃう?」
「なにが」
遥の顔は、変わらない。
ふざけているわけでも、演技でもない。
ただ、“そう言うしかなかった”という目だった。
その瞬間、蓮司は確かに感じた。
(こいつ、今──自分の“感情”で動いた)
蓮司は、心のどこかがぞわりと熱くなるのを感じた。
面白すぎる、と。
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