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セリオは館の塀を越え、静かに森の中へと足を踏み入れた。空気がわずかに湿っていて、ほのかに植物の香りが漂っている。足元には柔らかい苔が広がり、以前よりも森の生命力が増しているように感じられた。


だが、それ以上に気になるのは、周囲に満ちる魔力の波動だった。館から放たれた魔力に惹かれ、何者かが集まってきている。


(リゼリアの言った通りか……)


しばらく進むと、木々の間に奇妙な変化が見られるようになった。枝や葉が絡み合い、まるで生きているかのように揺れている。その奥から、かすかに複数の気配を感じた。

セリオは慎重に歩みを進めた。

やがて、小さな開けた空間にたどり着く。そこには数体の魔族がいた。

彼らは人の形をしていたが、肌は樹皮のようで、ところどころに花や葉が生えている。髪の代わりに蔦が垂れ下がり、目は深い翠色に輝いていた。


セリオが現れると、魔族たちは一斉に彼を見つめる。敵意は感じられないが、警戒心がうかがえた。


「……ここに住みつくつもりか?」


低い声で問いかけると、一体の魔族がゆっくりと前に出た。


「この土地は、心地よい」


ざらついた声が返ってくる。


「私たちは争いを望まない。ただ、ここで根を張り、共に生きたい」


セリオは魔族の様子を観察した。彼らの姿には攻撃的な意図は感じられない。むしろ、周囲の環境と調和するように存在している。


「……好きにしろ。ただし、俺の館には勝手に入るな」

「わかった」


魔族は静かに頷いた。


ひとまず、この森の新たな住人が敵でないことは確認できた。セリオは背を向け、館へ戻ろうとする——その時だった。


不意に、遠くから鋭い魔力の波動を感じた。


(……何かが近づいてくる)


先ほどまでの魔族たちとは明らかに異なる、荒々しく殺気を孕んだ気配。セリオは顔を上げ、そちらへ向かうことを決めた。


「……面倒なことになりそうだな」


呟くと、足早に森の奥へと進み始めた——。

死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

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