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「何ですぐに付けてくれんかったん?」
本当はお店から出る時には自分が見立てたイヤリングとチョーカーを身に着けもらいたかった実篤だ。
ひとしきり笑い合った後、ふと真顔になってくるみの手元の袋をちらりと見つめたら、くるみが「じゃって、うち……」と不自然に口ごもる。
「――?」
もじもじと顔を赤くして俯くくるみに、実篤がキョトンとしたらちょいちょいっと可愛いらしく手を引かれて。
実篤が少しかがんでくるみの方へ顔を近づけたら「実篤さんが足りんでソワソワしちょるんはうちだけですか? 付けたままじゃったら失くしそうで怖ーて」と小さな声で耳打ちされた。
どうやらそういうことをしたくて、アクセサリーを付けることを躊躇ってしまったらしい。
「――っ!」
その言葉に驚いたのは実篤だ。
さっきジュエリーショップで、くるみ不足でどうにかなりそうだったのを思い出して、危うく愚息が『僕はいつでもスタンバイOKです、お父さんっ!』とフルスロットルになりそうになる。
(いや待て、街中でそれはまずい!)
寸でのところで何とか下腹部に集中しそうになった血液を他所事を考えて蹴散らした実篤だったけれど。
くるみの手を恋人つなぎの要領でギュッと握ると、「そんなわけなかろ。俺だって……」とボソッとつぶやいた。
息子に集まらないよう散らした血が、どうやら耳と顔に集中してしまったらしい。絶対今の自分は誰が見てもゆでだこ張りに真っ赤に違いないわぁー、とくるみから視線を逸らしながら思った実篤だ。
「あんね、俺、ここら辺の土地勘があんまりなくて」
ゴニョゴニョと言い訳をして。
赤い顔を見られないよう、スマートフォンの検索結果『近隣のラブホテル一覧』の表示画面を吟味するふりをしながら目線をうつむけたまま言ったら、「うちもです」とくるみが実篤にギュッと身体を寄せてくる。
「――っ!」
(くっ、くるみちゃん! 頼むけぇこれ以上俺(の息子)を刺激せんでーっ)
変なものを検索している画面を見られるのも恥ずかしいし、それに何より――。
お互いのコート越しと言う厚みをもってしても、ふんわり柔らかなくるみの極上ふわふわおっぱいの感触が腕にじんわりと伝わってきて、実篤は心の中で声にならない喜びの悲鳴を上げた。
「……実篤さん?」
そんな実篤の気苦労なんて知らぬ気にくるみがきょとんとした顔で見上げてくるから、実篤の顔はますます赤らんでしまう。
「えっ。実篤さん。もしかしてお熱出たりしちょらんですか? お顔、真っ赤じゃないですか!」
それを、くるみが心配そうに眉根を寄せて気遣ってくれるから、実篤は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「だっ、大丈夫っ。大、丈夫なん、じゃ、けど……その、今ちょっとくるみちゃんに触れられると色々と障りが出そうじゃけ、その……ちょっとだけ離れてもらえると助かります」
こういう時、どうしてもしどろもどろ。敬語になってしまう実篤だ。
そもそも厚手のコートで気の早い〝息子〟の自己(事故?)主張を隠せるのにも限界がある。
慌ててくるみの手を解いて両のポケットに手を入れて。
中からコートの前を突っ張るように浮かせ気味にして誤魔化してはみたものの、その下で息子さんが半勃ちだと言ったらくるみは引いてしまうだろうか。
それとも――。
まぁさすがに喜ぶっちゅうことはないよな?と思って、実篤は自分のお馬鹿な思考回路に思わず笑ってしまった。
「実篤さん?」
いきなりククッと喉を鳴らして笑みを浮かべた実篤に、たまたま前から歩いてきた通行人が「ひっ」と悲鳴をあげて飛び退いて。
くるみがそんな実篤を不思議そうな顔をして見上げてくる。
(可愛すぎかっ!)
その顔があまりに愛らしくて、実篤の中のタガがプツンッと音を立てて切れたのが分かった。
「ごめん、くるみちゃん。俺、そろそろ限界かも知れん。ちょっとだけ車まで急いでも良い?」
少なくとも徒歩圏内には、入れそうなラブホテルはなかったから。
車で移動して一番手近なホテルに飛び込むしかなさそうだ。
「えっ?」
急にポケットから手を出して、くるみの手をギュッと握るなり足早に歩き出した実篤に、くるみは戸惑いながらも小走りで付き従って。
慌てる余り足がもつれてつんのめりそうになる。
そんなくるみを抱きとめた実篤が、小さく吐息を落としてくるみの耳元に唇を寄せた。
「急かしてごめんね。だけど俺、ちょっとでも早よぉ、くるみちゃんを抱きたいんよ……」
***
「うち、こういうトコ、初めて来ました!」
上着を脱いで入り口付近にあったハンガーに掛けるなり、興味津々と言った様子で部屋の中を見回すくるみに、実篤は心の中『俺も!』と元気よく付け加える。
今まで付き合ってきた相手は年上の女性ばかり……。
実家住まいの実篤の自宅は無理でも、相手が一人暮らしをしていたから。
ラブホテルになんか、とんと縁のなかった実篤だ。
でも、だからと言って年上の男として〝慣れていない感〟を出すのがはばかられて隠してしまったけれど、内心(システムが分からんかったらどうしよう)とソワソワしていたりする。
幸い今のところ〝男の沽券〟も〝年上の威厳〟も何とか取り繕えている実篤だったけれど、いつどこでボロが出るか分からないので冷や冷やものだ。
別にくるみのことだから正直にネタバラシしたところで実篤のことを馬鹿にしたりはしないだろう。
でも、まぁそこは一応男としてのプライドがあるから。
「俺もそんとに再々来とらんけん慣れんわ」
『実際は経験値ゼロです、ごめんなさい!』と心の中で謝りながら、実篤は〝そんなにたびたび来たことはない〟と些細な見栄を張ってしまった。
くるみにバレないよう彼女が背中を向けている間にあちこちササッと目線だけで色々確認して。
(ベッドサイドにゴム置いてあるじゃん! いくつぐらいあるんじゃろ?)とか(あそこにあるん、もしかして大人のおもちゃの自販機か!? ちょっ、いくら何でもあからさま過ぎるじゃろ!)とか(何で天井まで鏡になっちょるんよ!)などと、頭の中はフル回転。
「……先に風呂にお湯溜めてくるね」
ちょっぴり頭のなかがキャパオーバーになりそうで、くるみに背を向けると浴室に逃げ込んだ実篤だ。
キングサイズのベッドが置かれたあちらの部屋と同じぐらいの面積がある広々とした浴室には、どちらかと言えば家族向けと言った様相のかなりゆったりとした円形のバスタブが置かれていた。
ジャグジーだろうか。
丸い浴槽の中には気泡を送り出すためと思しき噴射口があちこちに付いていて。
(何ちゅう贅沢な仕様じゃろ)
フロントで、部屋選択パネルの中から「ジャグジー付き大型風呂」と書かれた部屋を選んだくせに、無意識にそんなことを思ってしまった実篤だ。
当然、備え付けのアメニティの中に泡風呂用の入浴剤もあったから、湯が溜まったら入れてみるのも悪くないと思って。
(だけど泡が邪魔でくるみちゃんの裸が見えんなるんは惜しいかも知れんのぉ)
(あ、じゃけど泡があるけん一緒に入っても見えんよ?って言うて誘うたら、くるみちゃんの中で二人でイチャイチャバスタイムのハードルが下がるけん、好都合っちゅーことも)
男の性。
ついそんな事をあれこれ夢想してしまった実篤だ。
「実篤さん?」
風呂で要らんことを考えすぎてもたもたしてしまったからだろう。
くるみがひょこっと顔を覗かせて、後ろめたいことを考えまくりだったムッツリスケベな実篤は、ビクッと身体を跳ねさせる羽目になった。
「そんなにびっくりせんでも」
「ふ、風呂場じゃけ、くるみちゃんの可愛い声がよく響いて驚いたんよ」
照れを隠すように鼻の頭を掻いたら「ホンマ実篤さんのそういうところ! うち、大好きですけぇっ♥」とギュッと抱き付かれた。
途端、下腹部でグワッと息子さんが覚醒して、実篤は『バカ息子ぉー! 少しは待てを覚えぇ!』と心の中で悲鳴を上げた。