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残されたキャスリンは、相方のウィリアムに肩を貸しながら、互いに支え合う様にヨロヨロと、覚束(おぼつか)ない足取りでアメリカ行きのクラックに向けて歩いて行く。
坂を下り、平原を越え、クラックの存在する丘の中腹に空いた洞穴の手前で一行は歩みを止めた。
コユキが善悪に背負われた三匹の秋田犬に声を掛ける。
「ねぇクロシロチロ、魔界から連れ出すためにプスッとやればいいの? 石にしちゃえば結界越えれるのよね?」
まだ回復が充分では無いのだろう、チロが弱々しい声で返事をした。
「いや…… いまそれやられちゃうと、たぶん復活に何年も掛かるかも…… 下手したら魔核が砕け散るかも知れないので…… ここに置いて行って下されば、回復したら顕現(けんげん)するんで、そちら、地上でプスッとお願いします……」
そう言う物なのか、と納得した善悪は洞穴の入り口付近に三匹を下ろしていった。
その場に寝そべった三匹を交互に優しく撫でながらコユキが言った。
「ゆっくりして早く元気になってね、んで、回復したらどんな感じで連絡取ろうか? 突然顕現しちゃっても対応できないし、大騒ぎになってもあれだしぃ……」
首を傾げて悩み始めたコユキに対して、こちらも回復しきっていないのだろう、プルプル体を震わせながらパズスが答えた。
「コユキ様、その事だったら心配いらないです、このパズスとチロの間には強固な『存在の絆』が存在していますので! チロが顕現する時はこのパズスが察する事が出来る筈ですから」
ああ、そうかそうか、飼い主とワンちゃんってそういう特別な信頼関係で繋がっているとか割りと常識だよね、なるほど。
「え? パズっち? との、キズナ? えっと……」
ちょっとだけ話し出したチロが黙り込んで、気まずそうにパズスから目を逸らしている。
無言のままアジ・ダハーカが小さな『分身』緑竜三体を生み出し、モラクスがこちらも無言で『変形』を使用し首輪の形にした。
善悪の頭の上で寝転がったままのオルクスが、魔力で出来た首輪に手を翳し(かざし)物質化させて、ちょっとお洒落な三本の犬用カラーが出来上がった。
それを寝そべったままの三匹に、やはり無言で装着して行くコユキ。
三匹とも無事着け終わるのを待っていた善悪が静かに口にしたのであった。
「ゴホン、こ、これでクロシロチロとアジ・ダハーカ君の間で『存在の絆』が結ばれたでござるな…… 良かった? のかな……」
パズスが震えながらも大きな声を上げた。
「良かった! これでチロもドロもボロも地上に来る事が出来るぞ! 良かった良かった! ワハハハハっ! ではさっさと帰りましょう!」
驚いた事にこのやり取りでも『鉄壁』のパズスはノーダメージ、流石はメンタル強者とコユキに言わしめた存在である。
だが、この私、観察者の目を誤魔化す事は出来ない。
私は確かに見た、人工生命体の十七番目のクールでチョット釣り目の瞳から、流れ落ちた一つの滴(しずく)がパズスの頬をつたって行くのを……
そんな悲しいドラマを経験しつつ、結界の瘴気溜まりを何気無く越えて、『聖女と愉快な仲間たち』の面々は、無事地上へと帰還を果たしたのである。