テラーノベル
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「あ、あの、芳本課長。今いいですか?」
「ん?」
「お、りゅうせいじゃん。部長と牛丼食いに行ったんじゃねぇの?」
「あんなもん、2秒で食える。それより、この人借りるよ、いっちゃん」
りゅうせいに見つからない場所を探して、わざわざ屋上の喫煙所まで来たというのに。どうしてこうもすぐに見つかるのか。俺には、あいつのセンサーか何かがついているんだろうか。
手を引かれそうになり、「待って」とりゅうせいを引き留める。
「……いやですか? いっちゃんの方がいいですか?」
「いや、違う。タバコ。まだ2本目、火つけたばっかだから」
「りゅうせい、いつきくんは貧乏だからタバコは一日3本までなんだよ。ゆっくり吸わせてやれって」
「い、いつきくん……?!」
「そ。馴れ馴れしいだろ、こいつ」
まだふた吸いしかしていないタバコを、勢いよく肺に取り込む。あぁ、まずい。……なんでこんなもんにわざわざ金をかけているんだろ。
「……なに?」
さっきから何も言わず、俺のことをじっと見つめてくるりゅうせいに話しかける。急いでいたはずなのに、呑気にタバコをふかす俺に嫌気でも差したのか。
「あ、いや……」
「えっろ~とか思ってんだろ? りゅうせい」
「ちょっ、いっちゃん、違う! やめてよ!」
「めっちゃ図星じゃん。可愛いっすよね、いつきくん」
顔を真っ赤にしたまま、りゅうせいがいっちゃんに掴みかかっている。全然余裕でいなされているし、本当、ぽんこつな奴で愛おしい奴。
「ふふっ、可愛い」
「ほら、いつきくんが可愛いってさ。良かったな、りゅうせい」
「もうっ、ほんと!」
ほっぺを膨らませて本気で怒っている。……でもそれ、2歳児の怒り方だろ。可愛すぎてどうしようもない。
「ごめん、りゅうせい。行こうか。じゃ、またな、いっちゃん」
「うわ、今のめっちゃ友達っぽかった! うん! またあとでね、いつきくん!」
なんだか興奮して嬉しそうないっちゃんが、足早に駆けていく。お前は毎日楽しそうでいいな。
「で、どこ行く?」
「いや、いっちゃんがいないんで、ここでいいです」
「……そなの?」
「あ、えーと。昨日は……」
「あ、うん。昨日は」
昨日は、りゅうせいの誕生日。家に乗り込んできて、深めのキスをして、その後誤魔化すようにコンビニでケーキを買って二人で食べた。……さぁ、どの「昨日の話」の続きだ?
「……ごめんなさい」
「……うん」
キスか。謝罪の対象はあの時のキスしかない。他は、謝るようなことなんてないんだから。
「……大丈夫。気にしてないよ。事故みたいなもんだし」
「……事故?」
「そう、なんか、偶然そうなってしまったみたいな。まぁ、そういう流れでって感じで」
自分でも何言ってるか分からなくなってきた。本当はりゅうせいの顔を見た途端、こっちはずっと動揺してんだよ。
「……そうか、事故か。じゃあ謝らなくてもいいんだ」
「いいよ、全然。気にしてない」
何なんだ、その嬉しそうな顔は。本当は後悔してたってことか? そらノリで家に寄った上司と、タバコ臭いキスなんて、なかったことにしたい汚点だよな。
「良かった! じゃあ、今日もいつきくんち行っていい?」
「え、え? 何言ってんの?」
本当に、りゅうせいの脳の回路はどうなってんだ。それに待て、お前まで「いつきくん」呼びかよ。いっちゃんに許した手前、もうどうもできんわ。
「え、俺がうん○の話をしちゃったから、いつきくん萎えちゃったんだよね? だから、今日もう一回キスからやり直ししよ?」
そんな嬉しそうに手握ってブンブン振り回して。マジで分かんない。りゅうせいは一体、俺に何を求めてんの?
「……りゅうせいって、えっと……」
「ん?」
いや、待て。「俺のこと好きなの?」って聞いてどうなる。この前キスを受け入れてしまった事も確かで、俺も悪い気はしなかった。だって綺麗だし、一緒にいると可愛いし。だけど、付き合うかってなると話は別だ。我が子がいる限り、もう誰とも向き合う気はない。大切な人間を一人大事に出来ないのに、次なんて考えられない。気持ちなんて聞かない方がいい。
「あ、恋人、いたよな? 誕生日は一緒に過ごしたんだろ?」
「ううん、別れた。誕生日は昼間、お母さんとデートしてたの」
「……お母さんと。……で、なんで俺んち来たの?」
「ん? なんか……ムラムラしちゃって」
えー……ムラムラして、なんで俺なんだよ。もっと他に可愛い子いただろう。チョイス最悪だろう。てか、お母さんとデートした後ムラムラって変態なのか? そこ、突っ込んでいいとこなの?
「……俺んち風俗じゃねぇからな。何タダでやろうとしてんだよ」
「だって!」
何か言いたそうな顔してんな。冗談で話流そうとしたけど、これはもう無視できないことなのかな。
「……なに?」
「……いつきくんに会いたいなって思ったんだもん。いつきくんじゃないとやだなって思ったんだもん」
……くぅぅ、迂闊にもキュンとした。ダメだって。こんなのどうしようもないって。
「……りゅうせいはさ、俺のこと好きなの?」
ここは大事な問題だ。ここの気持ちがあるかないかで、今後がすべて変わってくる。
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