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「もう一度言います、すぐにボスへ伝えなさい。シスターカテリナが借りの取り立てに来たと」
私が声をかけると、周りの男達は怪しげな視線を向けてきました。
「ボスと面会予定だと思って宜しいかな?」
「ええ、納得は出来ないでしょう。上司にシスターカテリナの名前を出せば分かりますよ。私は待ちますから」
「俄には信じられないが……確認してみよう。シスター、それまでは此方で待っていただく。」
「もし嘘なら、覚悟してもらう」
「構いませんよ、早くしてください」
いきなり現れて信じろと言われて信じるような人間は長生きできません。まして、この街では。
しばらく待っていると、中に入った男が慌てて戻ってきました。
「どうぞお通りください!おい、ボスの客人だ!」
それを聞いて周りの男達の態度も慌てたものになりました。しかし、客人ね。あまり嬉しくはありませんが。
「先ほどは失礼しました。ボスがお会いになります。ただし、武器の持ち込みは規則で禁じられていますので、此方でお預かりします」
「丸腰で行けと?」
「規則です、どうかご理解を」
「分かりました」
私は素直にリボルバーを預けました。そして裏口からきらびやかな店内を案内されて豪勢な応接室へと通されました。
そこに居たのは、綺麗なピンクの髪を腰まで伸ばし、淡く青い瞳を持った若い美人がテーブルに腰掛けて私を待っていました。服装は…相変わらず薄着だ。真っ白な肌の上半身は露出しており、胸元だけ布で無造作に結んで隠しており、下半身はスリットの入った短いスカートにブーツと言う出で立ち。海賊であるエレノアより薄着だ。
「よぉ!シスターが直々に来てくれるなんて初めてじゃねぇか」
「私は賭け事が苦手なので、近寄りたくないだけです」
私が答えるとこいつは、リースリットは心底楽しそうに笑います。綺麗な外見に似合わず男勝りで豪快な性格は変わらない。エレノアと仲良くなれそうですね。
「あははははっ!まあ、シスターはギャンブルよりドンパチのほうが好きだもんな。で?今日の用件は?」
「借りの取り立てに来たんですよ」
こいつはリースリット、愛称はリース。まだ二十代の若さですが天性の豪運によってギャンブルで伸し上がり、最後には『オータムリゾート』の支配人にして六番街の実質的な支配者に成り上がった女。
昔、命を救ってやったことがありそれを貸しにしていたのです。古い縁もどこで役立つか分からないものですね。
「それはそれは、もちろん忘れてねぇよ。借りはきっちり返す。それがここのルールだし、私としてもシスターには感謝してる。で?金か?いくら用意しようか?」
「金ではありませんよ、リース。エルダス・ファミリー、聞いたことはありますね?」
「そりゃあな、最近うちの傘下のカジノで悪さしてる連中だ。用心棒をやってやるから、金を寄越せとさ。ウジ虫みたいな奴等だ」
忌々しそうに吐き捨てました。やはり、エルダス・ファミリーは『オータムリゾート』とも揉め事を起こしていましたか。
リースが支配する『オータムリゾート』は政府役人や貴族様、大富豪も利用するため莫大な金が常に動いている。暗黒街で最も裕福な連中だと言えます。
それ故に、お零れに与ろうとハエのような連中が群がる。
「なにが用心棒だ。試しに小さな店の用心棒を任せてみりゃ、揉め事一つも解決できねぇ役立たずだ。そんな奴等に払う金は無いって突っぱねたら、色々嫌がらせをして来てよぉ。先月は店の一つを強盗しやがって金を盗まれた。間違いなくあいつらさ。で、それがどうした?」
「私もエルダス・ファミリーと揉めていましてね。奴等の幹部を一人殺るつもりです」
「へぇ、それが私に何の関係があるんだ?借りは返したいが、私はタダ働きが大嫌いなんだ。何より、賭けるなら旨味をちゃんと見せてくれねぇと」
「奴らは港湾の利権に食い込みたくて暗躍しています。ですが、気になるのは金の出所です」
そう、いくら『暁』から利権を奪っても利益を生むには投資が必要不可欠。『海狼の牙』に金を用意する必要もあるでしょう。
しかし、エルダス・ファミリーは金回りが良くない。それで、その出所を探ろうと考えていましたが……もしや、それは『オータムリゾート』から奪った金なのではないかと。
となれば、クリューゲと呼ばれる幹部は『暁』に手を出しつつ『オータムリゾート』にも手を出したことになる。ベルモンドの予測が正しいならば、独断で。
「『オータムリゾート』傘下の店から金を奪い、それを使って港湾エリアに食い込もうとしている。私はそう予想した訳です」
「証拠はあるのかよ?」
「必要ですか?既に貴女は損害を出している。そしてそれがエルダス・ファミリーだと確信している。なら、それだけで充分です」
「そりゃそうだけどよぉ。なにをすれば良いんだ?私は荒事はあんまし得意じゃないぜ?」
「知っています。リース、貴方の抱える情報網を借りたいのですよ。色々と、調べているのでしょう?」
ここ六番街はシェルドハーフェン一の繁華街、大量の情報が集まり『オータムリゾート』はそれを積極的に集めている。リースは荒事には向かないが、金儲けのためなら労力を惜しまない女ですからね。
「うちの情報がほしいってか。まあ、それでシスターがエルダス・ファミリーを潰すか弱らせて、うちに被害がなくなるなら安いもんだけど。賭ける価値はあるなぁ」
「悪い話ではないでしょう。エルダス・ファミリーのクリューゲと名乗る幹部の動きを調べてみなさい。恐らくですが、うちと貴女にちょっかいを出したのはこの男です。しかも、独断で」
「そりゃ、随分と冒険したなぁ。ってか、うちは資金調達目的かよ。嘗めてやがるな、そいつ」
リースの目に怒りが浮かびます。そう、舐められているのです。金儲けしか出来ない集団だとね。
「このままでは面子が立たないでしょう?私が潰しますから、情報と少しだけ手を借りますよ」
「これで貸しはチャラだよな?」
「ええ。そして、ことが終われば貴女に面白い娘を紹介します」
この女は金とギャンブルに執着している好かない奴ですが、それでも影響力は強い。間違いなくシャーリィの力になる筈。橋渡しくらいはしてあげましょう。
「へぇ、何年か前から子育てをしてるって噂はマジなのか?」
「真似事ですよ。その時は会ってあげてください。その後は貴女の判断に任せます」
「そりゃ楽しみだ。んじゃ、私の庭に手ぇ出すハエを追い払う話をしようじゃねぇか」
「良いですよ」
「なあ、シスター。今回はアンタに賭けるんだ。たくさんベットしてな、ちゃぁんと勝たせてくれよぉ?」
リースにとっては、この問題すらギャンブルなのですね。本当に賭け狂いだ。だが、勝たせてやる以上は味方になる。ある意味分かりやすい。
これもシャーリィのためです。頑張りましょうかね。
カテリナは密かにエルダス・ファミリーとの戦い、そしてその後を見据えて暗躍を始める。全てはシャーリィの未来と復讐成就のために。