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おう、リースリットだ。六番街にあるカジノグループ『オータムリゾート』の支配人をやってる。
今しがた、恩人のシスターカテリナと話し合いが終わったところさ。
今回はシスターの依頼を受けて情報を集めてエルダス・ファミリーに圧力を加えることになった。
私としても最近ちょっかいを仕掛けてくるあの馬鹿共にはイラついてたから、好都合だったんだよ。しかも、こっちは手を汚さなくて良い。
美味い話ではあるけど、私は賭けることにした。私はいつだって自分の勘を頼りに生きてきたんだ。今さら生き方を変えるつもりはない。
それにしても、不思議なもんさ。あの一匹狼のシスターカテリナが誰かの下に付くなんてね。
秘蔵っ子が組織を立ち上げたって噂は聞いたことがあったけど、そのまま組織に入るなんて思わなかった。
いや、私だってシスターに拾われて成り上がったんだ。他人事とは思えなくてな、つい力を貸してやろうと思ったんだ。
そのシスターの秘蔵っ子とは、ことが片付いたら会うことになる。今から楽しみだよ。シスターの秘蔵っ子がどんな奴か。そいつ次第で今後も手を貸してやっても良いと思ってる。
もちろん、うちに、私に利益があればの話だ。利益がないギャンブルなんて誰がやるってんだ。興味があるのは、ちゃんと私に利益を出せるかどうかだ。
さて、情報を集めるだけじゃ面白くない。汚れ仕事を『暁』に押し付けると言っても、少しは仕返ししたいと思うもんだ。その為には、ちょっと頭を使う必要がある。あれだけ自信があるんだ。シスター達はエルダス・ファミリーを返り討ちにするだろう。
でも、それであの馬鹿共が諦めるとは思わねぇ。シスターの話が確かなら今の状況は一部の馬鹿が先走った結果だ。となると、エルダスの奴に知られたくはない筈だ。何とか埋め合わせをしようと考える筈。
で、『暁』が無理なら更にうちから金を奪ってそれでチャラにしようとする……かもしれねぇなぁ。いや、確実にそうする。奴等は私を嘗めてやがる。運が良いだけの小娘だと馬鹿にしてる。エルダス・ファミリーだけじゃねぇ、いろんな奴等が私を馬鹿にしてやがる。いい加減そのふざけた思い込みを叩き潰してやりてぇ。
ならどうするか。守りを固める?金に物を言わせりゃ簡単だ。でもそれだと連中は諦める。諦めたら何の証明にもならねぇ。
『暁』に負けた奴等を最後は私が叩き潰す。その為にはなにが必要だ?そう、罠だ。じゃあどうするか?守りはこのままだ。どの店が襲われるか分からねぇが……いいや、こんな時こそ直感を信じるんだ。そしてそれを確実にしたい。だから。
「おい」
「はい」
私はガードマンに声をかけた。
「あいつを呼んでこい。確か、部屋で休んでる筈だ」
「分かりました、ボス」
ガードマンが部屋を出て、少しすると赤髪の少女が入ってきた。また成長したな、頼もしいもんだ。
「呼びましたか、リースさん」
「おう、休んでるところ悪いな」
私が謝ると、少女は首を左右に振る。
「構いません、私を呼び出すのなら重要な案件の筈。いつでも馳せ参じますよ」
「ありがたい言葉だ。でな、ちょっと耳を貸してくれ」
私は今日起きたことをそのまま伝えて、自分の考えも隠さずに教えた。
「どうだ?」
「先ずその『暁』が勝利することが大前提の予測ですね」
「それに賭けたんだ」
「なら、前提が成立すると仮定して考えます。そうすると、リースさんの考えも間違いではありません。恩義がある貴女を悪し様に言いたくはありませんが、貴女が一部の人間から不当に評価されているのは事実です」
「おう、はっきり言うなよ。泣いちゃうぞコラァ」
何よりお前に言われたら本当に悲しくなるんだぞ!
「失礼しました。ですが、それは私としても許しがたいことなのです。エルダス・ファミリーにはその為の人柱になってもらいましょう。その為に敗走して後がない奴等が上手く我々に牙を剥くように仕向けなければなりません」
相変わらず頭良さそうな喋り方だよなぁ。まあ実際頭が良い娘なんだけどさ。
「そう。けど、私は自分の勘は信じるけど学はなくてね。頭を使うのは苦手なんだよ」
「では、噂を流してみては如何ですか。各店舗からここ『オータムリゾート』へ定期的に売上金を運び込んでいると」
「ん?運び込んでるのは事実だよな?」
定期的にアガリを集めて、必要に応じて分配してる。こう見えて福利厚生って奴にも気を遣ってるんだぜ?
「確かに事実ですが、それを具体的に知る者は少ない。輸送は本当に信用できる人材にしか任せていませんから。ですが、先日の強盗は明らかに内部情報が漏れた結果です。警備が手薄な店舗で更に手薄な時間帯。外部の人間が知る筈もない」
「うちに裏切り者が居るってのか?」
そりゃ許せねぇな。私が拾ってやったのに。
「或いは外部からのスパイです。これを上手く利用します。既に、素性などが怪しいものを数人突き止めています。彼らに売上金輸送の情報を流しましょう。スパイや裏切り者が居るなら必ず引っ掛かります」
「へぇ、逆手に取るって奴か。面白そうだな。組織のごみ掃除にもなる」
「その通りです。そして、護衛はたった一人だと教えてやるのです。小娘一人だとね」
「お前が出るのか?」
「はい、リースさんに対する誤った評価を正してきます。彼らの命を持ってね」
「嬉しいことを言うじゃねぇか。お前を拾って良かったよ」
似合わない、シスターの真似事をして見た結果がこの娘だ。柄にもなく可愛くて仕方がない。溺愛した自覚はあるよ。自分で産むより先に娘が出来たようなもんだからね。二五歳で十四歳の娘?別に良いだろ。
「貴女は何もかもを失った私を拾って育ててくれて、自分を鍛えるための修行すら認めてくれた。この恩は生涯を賭けてお返しするつもりです」
「だからって北方に行くのは予想外だったけどね」
「それは、ご心配をお掛けしました」
修行がしたいって言うから旅を許したら北方の地獄に行きやがった。心臓が止まるかと思ったね。去年帰ってきた時は柄にもなく泣いちゃったけど。
「良いよ、強くなれたんだろう?なら、それを試してみな。相手は屑だ、容赦は要らねぇからな……レイミ」
「はい、リースさん」
レイミに任せてみよう。それが親ってもんなんだろうな。私や、今の秘蔵っ子を拾ったシスターもこんな感じだったのかねぇ。わかんねぇけど、悪くねぇな。
シャーリィとレイミ、姉妹の運命は交差するが交わるのはまだ先の話である。