「貴方。プレゼントはちゃんと用意したのよね?」
男は美しい妻にキツイ視線を向けられる。
ある界隈ではご褒美らしいが、妻のことが怖い男は震え上がりながら答える。
「も、勿論だとも!去年の事は忘れてくれ」
「ダメよ。あの後、この子達がどれだけ悲しんだことか…まだまだ許してあげないわよ」
男は去年やらかしたようだ。
前科者には世間は冷たい。
「でも。君へのプレゼントを忘れた事はないだろ?」
「それはそれ!子供のプレゼントを忘れているようじゃ、良い父にもいい夫にもなれないわよ!」
(はぁ。昔は甘い言葉を並べてたら誤魔化せていたのに…)
「と、とりあえずプレゼントは用意したから!ねっ!機嫌直してデートにいこう?」
「はぁ。ところで何を用意したの?デート先に向かいながら教えてちょうだい」
「は、はい…」
プレゼントの中身も同じように信用されていないようだ。
「綺麗ね……」
男と妻は街の広場に来ていた。
そこでは煌びやかに装飾された噴水に、辺りはこれまた普段とは違いカラフルな発光をしている街灯が、街を賑やかに彩っていた。
「僕らの生まれ育った村とは大違いだな」
「あそこはあそこで静かで良いところよ。ここも良いところだけど、私は故郷の村も好きだわ」
仲良く手を繋いで歩く二人。かれこれ何十年もそうしてきた。
初めは拙かったデートも、もう数えきれないほどした為、足取りにも迷いはない。
しかし、いつまでたっても変わらないモノもある。
「ありがと」
「ん?何が?」
「いつも守ってくれて」
道行く人とぶつからないように、そして手が痛くないように男は気を遣っている。
「ありがとう」
「なによ?」
「いつも僕の側にいてくれて」
先程まで澄ましていた妻の顔は、いつの間にか茹蛸のように真っ赤になっていた。
「もう!レビンはいつもそうやって揶揄うんだから!」
「待ってミルキィ!?グーはやめて!?」
大人になってもじゃれ合う二人を、街の人達は生暖かい目で見守るのであった。
「えっ?よく見つけたわね…」
デートを終え、家へと帰ってきた二人。
ミルキィの魔法で照らされた室内で、レビンが子供達に渡すためのプレゼントをミルキィに自慢げに見せていた。
「そうだろ?僕もやる時はやるのさ!」
「『続冒険録』と『続々冒険録』ね…貴方に任せた私が馬鹿だったわ」
レビンは自分が欲しいものを買ってきていた。
「はい。メリークリスマス」
「ありがとう。何かしら?」
ガサガサッ
「これって…琥珀の髪飾り……綺麗」
「流石にミルキィのネックレスみたいな効果はないけど、ミルキィに似合うと思って選んだんだ」
こちらは普通の琥珀色をした琥珀だ。あの琥珀は特殊な処置が施されてあの色なのだ。
「ありがとう。大好きよ。今も昔も」
レビンにとっては、その言葉が何よりのプレゼントになった。
もちろんいい加減なレビンに代わり、ミルキィが家計の事を考えて、レビンのプレゼントをケチっているなんて事は…ない。はず……
(えっ?ケチってないよね?あるよね?ないの?!)
翌朝、子供の声と共に、枕元のプレゼントに発狂して喜ぶ大人の声が、街に木霊したそうな。
おしまい。
〓後書き〓
このお話はフィクションです。
SSですので本編には、一切関係ありません。多分……
その本編は後一話で完結します。