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最終話
「トントン。」心配そうにこちらを見つめるのはゾムである。
あの日から6日後、俺たちは、男の家に乗り込もうとしている。
あれからショッピは、家から出ていない。トラウマというものなのだろうか。あと疲れもあったのか。俺たちは、よく知らない。ただ、知らなくたってするべきことはあるのだから。
「ゾム。行くで。」
「おっ、…おう。」
覚悟を決めて団地に入っていった。
ゾムによると今日は、男は、休みだが、母親は仕事でいないらしい。
俺らにとっては、好都合だ。
ピーンポーン。とインターホンの音が鳴る。ここまで来たらあとには戻れない。
「はーい。」そういって出てきたのは小綺麗な男だ。ほのかに笑顔を浮かべていた。
だが、その顔は一瞬で変化する。
「私、ゾムくんの通っている高校で教師をしています。少し中でお話させていただけませんか。」
顔を崩さず笑顔を見せれば男は、気味悪そうに見たあとゾムに気づいたのか、簡単に部屋に上げてくれた。
「で、先生が何のようですか。」
「心当たりないんですか?」
男が動きを止める。
「何のことかさっぱり。」
イライラするが、ゆっくり聞こうと思った。
が、
「ショッピになんてことしたんだよ。」
ゾムが低い声で男に尋ねる。
男は、振り返り、
「なに…ゾムと同じことしたんだよ。
お前ならわかるだろ?ん?でもショッピくん。お前より抵抗してた時間長かったけど、だんだんと弱ってくあの感じ。正直最高だったね。」
顔を赤らめそう話す男を今すぐにでもなぐってやりたかった。
こいつはやられる側の気持ちを考えられないクズだからだ。
「おまえっ…」
拳を握りしめたゾムが鋭く男を睨む。
「まあな、先生にバレちまったのは誤算だったな。」
窓の外を眺める。空は淀んでいた。
「ゾムさぁ…キレてるけど、お前がどっかいかなかったらこうはなってなかったんだ。」
男は、淡々と語る。
そして俺ではなく、ゾムを見ながら、
「全部お前のせいだよ。ゾム。」
そう、にやりと微笑んだ。
後ろにいたゾムのことは見れなかった。
何か後ろめたい気持ちでもあったのだろうか。
口を開く。
「でも犯罪なのは変わりないですよ。」
「ん?証拠でもあるの?逆に名誉毀損になるんじゃないですか。」
余裕ぶってる男に俺は、皮肉な笑顔をプレゼントした。
「ショッピくんはな、お前みたいなバカではないんや。」
そういって、薄っぺらい板を見せる。
「ほんと後先考えるな、アイツは。」
三角ボタンを押せば、音声が聞こえる。
音質は良いものではないが、証拠には十分だ。
微かに掠れた女々しい声が、抵抗と共に名前を吐き出している。まるで誰かに伝えるように。
「へえ。」とこぼす男は少し顔色を変える。
「なあ。どうする?未成年に手を出した気持ち悪いおじさんとして生きていくか。
それとも」
男に一歩近づく。
「ここで死ぬか。」
バツが悪そうな男の顔からは汗がしとりと流れ落ちる。
男の目に映る自分は、完全に理性を失っていた。
「ははっ。脅迫ですよ先生。」
男は、俺を振り払って横を通り過ぎ、台所に向かう。それに合わせて振り返れば、綺麗に食器や調味料、料理道具が並んでいる。
ようやく見ることのできたゾムは、微かに震えていた。怒りなのか、悲しみなのか、自分に対する恨みなのかは、俺にはわからない。
ショッピならわかったのかもしれない。
「お前な、やっていいことと悪いことがあるんやで?
その小さい脳みそに教えたろうか?」
涙を少々含んだ目から一筋光が反射する。
「あっwまず生まれてきたことが悪いことやなー。ばいばーい死んでどうぞ。」
煽り態勢になって上がった口角にはその目には似合わない。ただ、虚無をつくるだけだ。
「そうだな。」そういって男は、おもむろに包丁をつかむ。
「俺が死んだって、お前がされてきた事実は変わらないから。まあ。どうせ、このあともお前のことが大大大好きなお仲間さん達が、可愛がるんやろ?感謝せえよな。本当に。」
「よく見とけよ。」
そういって包丁を、首に当てた。
俺は後ろからゾムの目を隠す。
だって男は、ゾムを見ていたのだから。
「お前のせいだ」と呟く男なんて見せられない。
その後は一瞬だ。
警察を呼び、目の前で自殺をしていた男について、事細かに話した。
大切なものは守りながら。
気が抜けたゾムは、泣いていた。心身ともにボロボロだったのだろう。力なく座り込んで嗚咽を漏らす。
助かったわけではない。これが、ハッピーエンドなわけでもない。
けど、奇跡も神も存在しないこの世界では、これが現実でこれが、結末だ。
母親に連絡を終え、色が変わった空を見上げながら、ショッピの家へと歩いていた。
「これでホントに合ってたんかな。」
温かい優しい風のような声が耳を通り抜ける。
「最善策とはいえないな。」
だよねと返事をするゾムは少し落ち着いていた。
「ただ、アイツはもういない。ショッピに手を出したあいつは、もう存在しないんだよ」
目を拭ったゾムは、こちらに笑顔を向けた。やっぱりショッピの言った通りだった。心配することも悩むことも苦しむこともなかったのだ。
「そうだな。ありがとう。トントン。」
微笑み返せば、その二百倍で返してくるゾムと、ドアを開けた。
「ただいま。ショッピ。」
玄関で待っていたショッピが顔を上げる。
「おかえりなさい。」
少しの沈黙のあとに、
「2人とも無事でよかったです。
迷惑かけてすいませんでした。」
そう謝るショッピの顔はゾムと同じようにゆっくりと泣いている。
「ショッピが言う事やないよ。お前悪くないし。」
そう言えば、ショッピは安心したように俺等を見つめた。ただ、ゾムは少しつらそうな顔をしている。やっぱり本人を目の前にすると辛いのだろうか。
「そういえば…」
ショッピは、悲しそうなゾムを心配しながら、綺麗に包まれたプレゼントを、ゾムに差し出した。
ゾムは不思議そうにショッピを見つめる。
「生まれてきてくれてありがとうございます。ぞむさん。」
これだけのために生きていたように笑うショッピは、涙を目に浮かべている。
肯定された少年は、ショッピをだきしめた。
「ありがとうっ…。ありがとなっショッピ。」
それを眺めつつ俺は考える。
作り出された辛い出来事も、幸せに変えた2人は、きっと。きっとこの先も大丈夫だ。だから、できる限りのことをして、不自由なくしてやりたい。
とある年の10月26日。
俺は二人の肩に手を置いて
「これからも頑張ろな。」
と呟いた。
ここまでみてくださってありがとうございます!最後どうするかな…と考えてたらこんな風になってしまって申し訳ないです。もっと盛大にするべきか迷いました。まあとにかくありがとうございましたということでまた次回作でお会いしましょう?さようならー。