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イギリスは、怒りを露わにしたフランスを見て、今度は本当に困ったように眉を下げて笑った。
「フランス……?」
その歪な笑顔のままフランスの名前を呼んだ、その瞬間だった。
――バツンッ!!
鈍い破裂音と共に、廊下の照明が一斉に消え去った。
窓のない内廊下は、一瞬にして恐ろしいほどの完全な闇に包まれる。
「……ッ!?」
その頃、数メートル離れた会議室でも、突然の暗闇に驚きの声が上がっていた。
「わああっ!? な、なんや、最近ブレーカーの調子悪くてな! かんにん!」
国連の慌てた関西弁が響き、天使の輪っかの布が暗闇の中でかすかに揺れる。
「……おい」
アメリカはサングラスを外し、暗闇の中で目を凝らした。普段の元気な声は鳴りを潜め、どこか警戒を含んだ低い声になる。
「……おう、なんか、ソ連。あー、なんか、その……この嫌な感じ、わかるか?」
「……」
ソ連は無言で立ち上がった。生まれつき右目は何も映さないが、彼には気配も足音も、そして空気の「殺気」や「異変」も手に取るように分かる。
今のこの暗闇の中で、廊下の向こうから漂ってくるのは、ただの停電の不便さではない。過去の悍ましい記憶の蓋が開いたような、ひどく冷たくて重い、張り詰めた空気だった。
「探しに行くぞ。あの2人を」
ソ連のその一言で、3人は一斉に動き出した。人混みではいつも先頭を歩くソ連が、真っ暗な廊下を迷いなく進んでいく。
その頃、暗闇の廊下では――。
ガタガタガタ、と激しく何かが震える音が響いていた。
(震えるな……! 震えるな、ju(僕)!!)
フランスは必死に自分に言い聞かせていた。
突然の暗闇。それは、あの幼少期の「虐待」の日々、お仕置きとして閉じ込められた狭くて冷たい暗室の記憶を、容赦なく呼び覚ます。
恐怖で頭がおかしくなりそうだった。基本は滅多に弱らないフランスだが、このトラウマだけは別だ。自覚のないまま、心の中の一人称が「僕(ju)」に切り替わる。
けれど、フランスは逃げなかった。
自分の腕の中には、自分よりも小さく、そして同じように――いや、それ以上に激しくガタガタと震えているイギリスがいるからだ。
「っ、……」
フランスは普段使っている右手で、イギリスの細い身体を壊れ物のように強く抱きすくめた。そして、そのまま手探りで近くの壁に背中を預け、ずるずると崩れ落ちるようにして座り込む。
壁に寄り添い、暗闇の中で2人きり。
イギリスはもう、完璧な笑顔を貼り付けることすらできなくなっていた。フランスの胸に顔を埋めたまま、ただひたすらに、ガタガタと小さな身体を震わせている。近視の目を守るモノクルの鎖が、怯える鼓動に合わせてチリチリと微かな音を立てていた。
「大丈夫、大丈夫だから……ブリカス……」
フランスは、恐怖で引き攣りそうな声を必死に抑え、イギリスのシルクハットの上から頭を抱きしめる。
大嫌いなあの笑顔が消えたことには安堵しつつも、今、腕の中で怯えきっている「かつての教育係の被害者」であり「大切な家族」を、フランスは暗闇の中から守るように強く、強く抱きしめ続けた。
コメント
1件
うわああ…この暗闇、重かったです。フランスが必死に自分を抑えてイギリスを抱きしめてるシーンが胸に刺さりました。「大丈夫」って言いながら自分の方が震えてそうなのに、それでも腕を離さないのがもう…。トラウマって一人で抱えるものじゃないんだなって思わせてくれる回でした。ソ連たちの動きも気になるし、続きが気になります。更新ありがとうございます、さかなさん。