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――いよいよ、元の世界へ帰る日がやって来た。


シュヴァリエの研究室の奥。

以前、初めてステファンに魔法を教えてもらった場所に、大きな転移陣が描かれていた。


その周りには、ステファン、カリーヌ、ガブリエル、ミシェル、アレクサンドルが並んで見守っている。

魔法陣の真ん中には、日本でも浮かない程度の服装に着替えた、沙織とシュヴァリエが立っていた。


「では、サオリ様。向こうに着きましたら、お伝えした通りに、転移陣を繋げておいてください。シュヴァリエも頼みましたよ。それでは、サオリ様。強く、思い入れのある場所を思い描いてください。よろしいですか?」


ステファンは再度説明するように、念押しした。


「はいっ! 行って参ります」


起動した転移陣は、大きな光を発して沙織とシュヴァリエを包んだ。




――次の瞬間には、二人の姿は消えていた。


「本当に、行ってしまわれました……ね」


カリーヌは寂しそうに、沙織とシュヴァリエが居なくなった転移陣の真ん中を見た。

皆それぞれに思いを抱え、あまり話さなかった。


「向こうの世界と、どの位の時差があるかは分かりませんが……あのサオリ様なら、きっと戻って来ますよ」


ステファンがそう言うと、皆笑って頷いた。




◇◇◇




転移陣が空間に現れ、沙織とシュヴァリエは――ドスンと落ちた。


「サオリ様、大丈夫ですか?」

「ん……大丈夫よ。この感覚、二度目だわ」


沙織とシュヴァリエが落ちた場所は、見慣れた自分の部屋のベッドの上だった。

前回の、突然転移させられた経験上、高い所から落ちる予感がしたので、敢えてこの場所を想像したのだ。


(正解だったわ。それにしても……)


「私の部屋……! 久しぶりだわ。あっ、すぐに転移陣を繋げておかないと!」

「そうですね、では」


沙織が転移陣に魔力を流し、シュヴァリエが何かを空中に描くと、今まで光っていた転移陣が天井に張り付き、模様みたいになった。


(やっぱり、こっちの世界でも、魔法って使えるんだ……)


向こうに戻れることが分かって、ホッとした。

もしも、こっちの世界に戻った途端、魔力が無くなってしまったら……と、不安があったのだ。


「ここが、サオリ様の世界なのですね」

「ふふっ、地球の日本て言う国よ。貴族の屋敷と違って狭いでしょ?」


シュヴァリエに、ザックリとこちらの世界について説明する。シュヴァリエは、目を見開き沙織の話に聞き入った。


「シュヴァリエ、リュカの姿になれるかしら? たぶん……いきなり、見たことのない男性のシュヴァリエに会ったら、両親がビックリしちゃいそうだから」


「承知しました」と、シュヴァリエはリュカになった。


リュカを抱いて、自分の部屋を出るとリビングへと向かった。


(向こうに行ってから、もう半年以上経ったわよね。こっちでは、どの位経っているのかしら? ……浦島◯郎状態だったらどうしよう)


階段を下りて行くと、人の気配がする。

速くなる鼓動に気が付いたのか、リュカ姿のシュヴァリエは心配そうに顔を上げた。

大丈夫よと、ぎこちなく笑って見せる。扉に手を掛け、そっと開けると声をかけた。


「……パパ? ……ママ?」


「「……!? さ、 沙織っ!!」」


まだ、明るい時間だったが、両親は揃って家にいた。


「沙織! あなた、どこへ行っていたのよ!! 誘拐されたのかと思って、もう心配で心配で……」


と、泣き出す母。


「そうだぞ! 一週間も、家出なんてっ!! 何があったんだっ。ん……そのカワウソはなんだっ!? まさか、それが欲しかったのか!?」


「……え? うそ……たった一週間?」


信じられなくて、キョトンとしてしまう。


「こらっ!! たったじゃないぞ!」

「そうよ、心配して仕事だって休んだんだからっ」


(そうか……こっちの世界と時間の流れが違うんだ)


ふうぅ――っと深呼吸してから、両親を見て真剣に話す。


「パパ、ママ、聞いてほしい事があるの!」


沙織は、異世界への転移の話を両親にした。そう全て、今までのことを――。


初めは、まるで信じない二人だったが。沙織は根気よく説明し続けた。


「そんな……魔法なんて。ねえ、パパ?」

「信じられないが。沙織は、そんな嘘をつく子じゃないしな……」

「ええ、嘘じゃないわよ。これを見て」


沙織は手の上に、魔法で水球や火球を作って見せた。


「「ほ、本当に、魔法っ!?」」


そして、極め付け。リュカから、シュヴァリエの姿に戻ってもらった。


「彼がさっき話した、シュヴァリエよ」

「お初にお目にかかります。サオリ様の護衛をさせていただいております、シュヴァリエと申します」


シュヴァリエは、沙織の両親にきちんと挨拶をするが――。突然現れた、青い髪の美青年に二人は完全に固まった。


(ママったら、真っ赤になって……。そりゃ、こんな凄いイケメン見た事ないもんね、普通)


「それでね、ここからが本題なの」

「「……本題?」」

「私、向こうの世界で暮らしたいの」


両親は顔を見合わせた。


「それは、沙織の意志なのか?」


「そうよ、パパ。私は、向こうの世界に大切な物を見つけたの。私のこの力は、こっちの世界では異端だわ。向こうなら、国の役にも立てるの」


「「国っ!?」」


「ええ。私を呼んだステファン様は、次期国王なのよ。パパとママは大好きだけど、向こうの家族も大好きなの。だから、パパとママに認めてほしくて」


「ねえ……たまには、帰って来られるの?」


「ええ、ステファン様にお願いするわ。だから、部屋の天井の転移陣を消さないでね」


「……全く、沙織は頑固だからな」


「それは、パパに似ちゃったからよ」


「「絶対に無理だけはしない様に!」」


両親に抱きしめられながら、決して無理はしないと約束をした。

そして、時間の流れが違う事を説明し、明日には向こうへ戻る事にする。


(でも、その前に……)


両親との時間を堪能した。

サプライズで父の誕生日に弾くつもりだった、ピアノ演奏もする。二人の喜んでくれた顔が何より嬉しかった。


夜も更けてきたので、自分の部屋に戻った。


「シュヴァリエ、付き合ってくれてありがとう。あのままじゃ、ママが失神しそうだったから」


リュカの姿になって、ずっと撫でられていたシュヴァリエにお礼を言う。


『良いご両親ですね』


「ええ!」と、沙織は嬉しそうに思い切り頷いた。


ふと、机の上のスマホのランプが目に入る。手に取ると、大量のメッセージと着信があった。


(あ……。ちーちゃん、何度も連絡くれたんだ)


友人Cこと親友のちーちゃん――橋村千裕に返信しておく。あの、『乙女ゲーム』の世界に行く事も。


他のメッセージも確認していくと――。


(んんっ!? こ、これは……)


元カレ男子Bから復縁希望のメッセージだった。


(……無いな)


速攻で、断りメッセージを送った。

悪役令嬢は良い人でした

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